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第4話 元獣は会話を試みる

2話で唯一生き残った人がどうなったかを後半で書かせていただきました。


 押さえつけられていたリッチェルは何時まで経っても痛みに襲われないことを訝しみ、ゆっくりと目を開ける。そこには、リッチェルではなく泉を視界に入れ呆然としている少女がいた。


 何があったのか全くの理解不能な状況に困惑していると、唐突に少女はリッチェルの匂いを嗅ぎ始める。


「お、おい! な、何するんだ!」


 何か言葉を言い押しのけようとしてくるが力は弱い。抵抗されている感じがしないので、匂いを嗅ぎ続ける。


 全くの予兆なく行われている事態にリッチェルは顔を赤らめながらも一人の男として羞恥を覚えて抵抗するが意味がなかった。


 いつの間にか目を覚ましていたエルとその隣のレティからの視線が冷めたものになっていく。ほとんど裸の女性に抱き付かれているような状況であるため当然だと自覚しているため、リッチェルは必死に抵抗する。


 漸く離れると今度は泉に近づきその中を覗き込んだ。


 泉は四人の傷の手当と飲料として使用してしまった際に血と土でかなり汚れている。その事を知ったためか、少女の耳と尻尾はしな垂れる。


 汚されてしまっている。今迄綺麗なままだったの水が濁っている。


 少女は自分の手を見る。そこには先ほど食べた餌の血で真っ赤に染まっている。何とかして水の濁りを取りたい少女はまず自分の手についている血を全て舐めとり、綺麗になった手で期待無い水だけを救い上げ捨てていく。


「……言葉……言える?」


 少女は言葉が言いあえるかどうかを確認する。


(喋った!?)


 今まで一切声を出していなかったために他の獣と同じなのかと考えていた四人だが、いきなり声が聞こえてきたために驚嘆した。しかし、それを声に出す者はいない。


「……あ、ああ、話せる。それで、君は何者なんだい? 人なのか?」


 ゆっくりと警戒させないように立ち上がりながら、リッチェルは彼女が人であると仮定した状態で会話を試みることにし、少女に質問を投げかける。


「ひと?」


 しかし、その言葉の意味を少女は理解できなかった。


 言葉だとはわかる、言葉で考えられる。だが、目の前の動物が言っている言葉が分からない。所々分かるところと分からないところと意味を知らないところがある。


 一先ず、自分の事を聞かれていることは分かったので、水を指さす。


「それ、守る」


「守る? 君はここの守り人なのか?」


「……?」


 返答はない。少女はただ面白いものを観察するように四人を見る。


「えっ!」


 四人はついぞ少女から視線を外さなかった。だが、気づけば今までいたはずの彼女の姿はそこにはなく、代わりに横から鈴のような声音が聞こえてきた。


「泉、汚した?」


一瞬の動き、どこを見ても異常で異状で異怪。それ以外の感情を四人は抱くことができなかった。


 ただ無感情に光が籠っていない視線にここで間違えたらやばいと、その場にいる全員が錯覚するほどにのものが彼女から沸き上がっていた。


 しかし、当の本人は特に何か危害を加えようとしているわけではない。ただ、言葉が言いあえるようだから確認しているだけなのである。


 もし水を汚したのが別の者だった場合そいつを追わなければならない。その考えが浮かんだため、少女は結果的に怯えさせる羽目になった。


「……け……怪我の治療のために少々使わせてもらった」


 悩んだ挙句、リッチェルは正直に答える選択をした。


 ギデの体の傷は治ったが皮膚についた返り血などは元には戻らない。そこで、一度全員洗おうという意見が出たため、一人ずつ布に泉の水を染み込ませて体をふいた。


 その際に少々泉が汚れてしまっている。


 しばらくの沈黙、長く感じる静寂、誰もが息をすることも忘れる時間で彼女は一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに泉のそばへと歩みより視線を下に向ける。


「あなた達、なに?」


 振り向きなおした少女は再び最初の相手を探る問を投げかけ、そこで四人は意識を戻した。


「……あ……ああ。俺達は冒険者だ。この森に咲いているっていう珍しい花を探していたんだが……」


「ぼう、けしゃ?」


 聞きなれない単語に首を傾ける。その可愛らしい仕草をする彼女からは到底先ほどまで殺し合いをしていたようには見えなかった。


「まぁ、それは置いておこう。実は、俺達はこの森で迷ってしまったんだが……分かるか?」


「……? うん」


「……そうか」


 四人は一先ずの安堵を覚えた。もし迷うという単語まで知らないのなら説明が大変だと考えていたためである。そこで、リッチェルは一つの疑問が産まれた。


「なぁ、親は、両親はいないのかい?」


 小さな少女が一人でここにいるとは考えにくい。どこかに少女と同じような姿の大人がいるはずだとリッチェルは考える。


「おや? りょう、しん?」


 本当に知らないのか、彼女は再び首を可愛らしく傾ける。


「……君はここの出口を知っているのか? 出来れば、外まで案内してはくれないだろうか」


 話題を変えるためにリッチェルは一欠けらの望みにかけて少女に問うた。


「……? それが、願い?」


「願い、とは?」


 少女は今更願いをかなえるというのは自分が勝手に考えたことで言わなければ伝わらないことに気が付いた。だが、考えに至っても言葉にしての伝え方が分からない。


「……? あ~、水、汚す」


「水?」


「うん、これ」


 しばらく迷った挙句汚れた水を見せた後、自分に指さして教えようと考え付いた。そこで、分かるように汚れた水を救い上げるようと屈んで前かがみなる。


「こらぁあ、男共! 目を閉じろぉ!」


「グハッ!」


「リッチェルさん! 失礼します!」


「なにを、ギャアアア! 目があぁあああ! ああああああ!」


「……?」


 後ろでいきなり四匹のうち体格のいい方の二人が何かを叫びながら蹲っている。


 何故そうなったのかは少女の服装にあった。少女の服装はただ上から隠しているような服装だけである。四人はあまりの緊張感にそのことに関しては気にしてはいられなかった。しかし、緊張感が取れてしまった今、流石に気にしてしまう。


 女性である二人は男性の恐ろしさを知っている。そのため、レティはギデの顔面に膝蹴りを入れ、エルはリッチェルに目潰しを加えた。


「ちょっとあんた! 今更だけど、何よその服! ちゃんとしたの着なさいよ! 後、パンツはどうしたの、パンツは!」


「ぱん、つ?」


 女性として、人としての羞恥心を知っているためにレティは顔を赤らめ怒鳴る。しかし、裸などを気にするのは羞恥心を知っていて、知性があり教養がある者達だけである。そのため知性はあっても教養も常識もない少女には羞恥心などありわしなかった。


「はぁ、エル。あんたのそのローブこの娘に着せてあげて」


「はい、さすがにこれは拙いですしね。どうぞ、これ着てください」


 エルは自分が来ているボロボロになってしまったローブを少女に渡す。


 渡された少女は有り難く思う事はなく、まず渡された布を持って困惑する。匂いを嗅いでも土や血の匂いなどがするばかりで美味しそうな匂いはしないため、少女は一先ず噛みついた。


「ちょ、噛まないでください! 食べ物じゃありませんよ! これは着る物なんです!」


 喰われていくローブをエルは必死に引っ張ることで、少女からローブを奪還した。そして、着るものだということを教えるために無理矢理ローブを被せる。


 ローブを被せられたことで肌に直接風が当たることはなくなった。しかし、腕を左右に伸ばしてみるが、肌に常に布が当たるのを不快に感じ顔を歪ませる。


「お願いですから脱がないでください」


「お願い? わかった」


 お願いならば仕方がないと思い聞させられたままにする。


 少女が了承するとエルが安堵したような表情となった。それが悪かったのか、唐突に腹の中で虫が鳴いた。


「~~~!」


 制御できない自然現象に一乙女であるエルは顔を赤くしたが、それは仕方がないことだった。いつ死んでもおかしくない保存食が付いてしまった状態で、絶望しかない場所で何日も死と隣り合わせの生活をしていて、突然気を緩めればこうなることは当たり前というものである。


 しかし、少女は考える。


 この目の前にいるのは四匹。なら四つの願いを叶える必要がある。


 すでにこの布を着るということを二匹が願ったので二つは叶えたことになる。そして、初めに言っていた、外へ案内するということ。


 案内するには生きてもらわなければならないと考えた少女は納得したかのように一度首を縦に振ると食料を求めて森の暗がりへと歩みを進めた。


「あ、ちょ、どこ行くのよぉ!」


 少女の唐突な行動に観察していて声をかけることに一瞬遅れてしまい、少女は既に暗闇にまぎれ見えなくなってしまっいた。

















 男は運よく生き残った。仲間を失い、希望をなくして絶望を受け取ってしまって尚、男は生き残ってしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 仲間の死体を埋葬せず置き去りにして、男は滂沱の涙を浮かべながら、濁流のよう汗を流しながら、荒れた息遣いで破裂しそうなほどに脈動する心臓を抑え込みながら、街へと走る。自分が見た化物の事を伝えるために。


 男は走り続けているが未だに森を抜けることができていない。方向感覚を狂わす森の中では本来冷静に対処する必要がある。目印を決めておくことや、太陽の位置などで方向確認を行うことが大切である。


 しかし、男がいる森は冷静になるには狂気が蔓延りすぎており、太陽を確認しようとしても木々が生い茂りすぎているために光が届かない。そしてなによりも、仲間を失った喪失感と圧倒的な殺意を浴びてしまった男にもはや恐怖の色以外は排斥されてしまっていた。


 最早狂ってしまってもおかしくない状態。だが、彼には街にこの情報を伝えなければならないという、急場しのぎのような義務感があった。そのため、彼は狂わずに済んでいる。


 そして、何よりも彼は運が良かった。本来なら森の中で息を荒くしながら走り続けていればすぐに他の亜獣などに気づかれ殺されてしまってもおかしくない。しかし、彼の周囲にはその亜獣の影すらない。

 これは彼が助かったことが要因である。


 彼が少女に襲われた時、少女は無意識に全方位に向かって殺気を向けていた。殺気に敏感な獣の発生型である亜獣は長年獣として生きてきた習性で強い物には挑まない。亜獣達は少女が放った強烈な殺気に恐れをなし、逃げていったのだ。


「はぁ、はぁ、あ、あの、明かりは……」


 走り始めてどのくらい経ったか分からない時、遂に男はこの【黒森林】の中ではありえないはずの光を見つけることができた。


 僅かな希望を抱きながら最後の力を振り絞り足に鞭うってその光に手を伸ばす。


「外、外だ」


 上下に肩を揺らしながら日が沈みかけている夕焼けを全身に浴びせ、男は歓喜に胸を躍らせ、安堵した。


 これで安全だ。ここまで来ればあとは街へ行くだけだ。


 仲間の無念を晴らしたいが、自分ではまずあの化物を倒すことができない。そして、自分だけが生き残ってしまった。なら、自分がここで死んでしまえば仲間は無駄死にになってしまう。それだけは許されない。


 男は再び足に力を入れて一歩目歩き出す。




 しかし、男はその場で倒れてしまった。


 行使しすぎた足が限界に達してしまったのか。そう思った男は苦笑しながらここで立ち止まるわけにはいかないと再び足に力を入れる。だが、感覚がない。


 どうやら行使しすぎで麻痺してしまったようだ。そう考えた男は自分の足に視線を向け、目を見開いた。


 そこには緑色の肌をした魔物が片手に血のついた刃物を持っており、更にもう片方の手には自分のものと思われる足が握られていたのだ。


 感覚がないのは当たり前だったのだ。なぜなら、もう男に足などなかったのだから。


「う、あ、あぁああああ! 足が、俺の足がぁ!」


 疲れ果てていても痛覚が麻痺していなかったために、男はふっと沸いた痛みに悶絶する。


 亜獣は殺気に敏感だが、魔物はそうではない。殺気に鈍感で、強い弱いにかかわらず全力で殺しにかかる。それが魔物という者達だ。故に、男の目の前にいる魔物は少女の殺気に気づくことなかったが、男が走っていることに気づき、襲いかかったのだ。


「ギギィ」


「ギィ」


 刃物を持った二匹の魔物が鳴き声で会話をする。そして、何かが決まったのか足を持っていない方の魔物が男の顔の近くへと寄る。


「ギギィ」


「い、嫌だ。死にたくない、死にたくないんだ……俺はまだ、やらなくちゃいけないことがっ!」


 男は命乞いをする。しかし、男の言葉は最後まで言えることはなかった。刃物は容赦なく男の首を切り裂き絶命させた。


 絶命したことを確認した緑の肌の魔物『ゴブリン』は仲間を呼ぶとその場で男の身ぐるみを剥ぎ、そして残った肉を食べ始めた。


 男の人生はこれで終わった。


 仲間の死を無念のままで終わらせ、絶望しながら、不幸のまま幕を閉じたのだ。

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