都筑和子はファッションに自信がない
電車を降りて、腕時計を見る。
9時40分。
有栖の言っていた集合時間が10時だったから、少し早く着き過ぎてしまったか。
人々の流れに乗って、俺はとしまえでん駅の改札を出る。
駅前には花壇を囲むようにして、ちょっとした広場があった。そこから少し歩いたところがとしまえでんの入り口らしく、駅から出た多くの人たちは、笑顔でそちらへ向かっていく。
予定より20分も早く着いてしまったし、来ているのは俺だけかもしれないと思っていると、……いた。朝日を受けて輝く、栗色の髪。
「北條、おはよう」
近づいていくと、北條はしばし俺のことをゴミでも見るかのような無表情で見つめ、それでもヘッドホンを外して「おはよう」と返事をしてくれた。
北條はグレーのパーカーに白のカラージーンズというシンプルな出で立ち。しかし、北條の顔立ちや髪のためか、地味にはならず、カジュアルでカッコいい印象。
北條はヘッドホンをバッグにしまうが……。
いやいや、音楽聴いててくれて良いのに。二人で何を話せっていうんだ――。
無表情で二人並んで、20分近く過ごすなんて、俺たちも気まずいし、近くを通る人も何だか気分悪いだろ。とりあえず、何か話さないと……。
「有栖に誘われたのか?」
「そう」
「そっか」
「…………」
やばい、話が続かない。北條は髪の先をくるくると弄り始める。あれ、これはつまらないってことだろうか。
「そう言えば、北條ってハーフなの?」
こういう事って聞かないほうが良いのかな? とも思ったが、北條は顔色一つ変えずに答える。
「お母さんがイギリス人。今年の3月に日本に来た」
「そうなんだ。その割には日本語上手いな」
「お父さんが教えてくれたし、自分でもネットで勉強してたから」
「なるほど」
北條の私生活についてあれこれ聞いても、気持ち悪いかもしれないので、俺は別の話題を振ることにする。
「遊園地とかよく行くのか?」
「あんまり。久しぶりだから、wkt――」
「え?」
俺が聞き返した瞬間に、北條はものすごい速度で頭をこちらに向けて、
「久しぶりだから、楽しみ」
と言った。
北條は傍から見るとこれ以上ないくらい無表情で、そんな感じしないのだが。
「向日は?」
「ああ、俺もまぁ、楽しみかな」
「その顔で?」
お前に言われたくない。
「そういえば、ここの入場料って結構高いよな」
「うん、高杉ワロエナイ」
…………ん?
今、高杉ワロエナイって言った?
北條を見ると、無表情で、改札を眺めている。
白い肌に、吸い込まれそうな蒼い瞳。スッと通った鼻筋。その横顔は、まるで雑誌のモデルのようで、高杉ワロエナイとは絶対に言わなそうだ。
俺が北條を見ていると、北條もこちらを見る。
「何?」
「いや、何でもない……」
二人の間に沈黙が流れてしばらくたった頃、改札から有栖と都筑が現れた。
「あら、もう来てたの? 早すぎでしょう」
「そう言う有栖さんだって、随分早くついているじゃないですか」
有栖の発言に、都筑が突っ込みを入れる。
有栖は腰部がコルセットのような紺色のスカートに、白いブラウス。有栖のスタイルの良さが目立つ服装だ。
「いわゆる童貞を殺す服よ、向日くん」
「うるせぇ」
都筑は、薄手のセーターにショートパンツ。頭にはキャスケット? とかいう大きい帽子をかぶっている。制服を着ているときの凛とした雰囲気とは打って変わって、可愛らしい。
「……変ですか?」
「え?」
都筑は自分の服をしげしげと見ながら言う。
「私、あまり遠出とかしないので、お出かけ用の服とか持ってなくて。だから昨日駅のデパートで買ったんですけど、あんまりファッションとか詳しくなくて、だから雑誌とか見て見たんですけど、やっぱりよくわからなくて、だから変になってしまって――」
「いや、俺はすごく似合ってると思う」
俺が見たまんまを言うと、都筑は目をきょろきょろさせて、
「え、えと、そうですか。良かったです。……と、ところで、有栖さん。今日は何で遊園地に?」
「く、駆逐してやる!」
有栖は組んでいた腕をバッと都筑に向ける。無表情の有栖だが、口元は強張り、その視線には強い殺意に似た何かが宿っているように感じる。
「……いえ、ごめんなさい。取り乱したわ」
コホンと咳をひとつ。
「――今日、君たちをここへ招待した理由。それは、君たちの無表情キャラを崩壊させるためよ!」
意味が全然分からない。
有栖は黒い鞄からビデオカメラを取り出す。
「としまえでんには、様々な絶叫系アトラクションが揃ってるの。お化け屋敷、ジェットコースター、フリーフォール。君たちが涙を流しながら絶叫している様をこのビデオに収めるのよ。そして週明けに教室のテレビで流して、君たちのキャラを崩壊させてやろうというわけ。無表情サドンデスよ」
有栖は俺たちのキャラかぶりを許していなかったのか。
図書館で何も言われなかったからてっきり、もう気にしていないのかと思っていた。
「俺は絶叫マシン系が苦手なんだが」
すると都筑も、
「私もです。でも往復の電車代とチケット代を無駄にするのは、ちょっともったいないです」
そうなんだよな。
北條はというと、やる気のなさそうな顔で、「負けない」と呟いた。
「さぁ、誰からキャラが壊れるかしら。早く行きましょう」
長い黒髪を春風になびかせて歩き出す有栖を先頭に、俺たち無表情キャラ一行はとしまえでん入口へと向かうのだった。
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