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一緒に、遊園地に行かない?

 有栖と初めて話した日から一週間が経った。

 突然無表情を辞めろと言われたところで、そんなのは無理な話であって、俺は無表情のまま過ごし続けることにしていた。

 北條と都筑も、有栖に言われたことを気にしていないようで、それぞれにクラス内で無表情キャラとしてのポジションを固めつつある。

 有栖はというと、こちらも無表情。「監視する」と言っていたが、別に何かをしてくることもない。

 そんな一週間を経て、土曜日の放課後。


 土曜日は授業が午前中のみで終わる。学食で昼を済ませた俺は、図書館で映画を観ていた。

 図書館で映画なんて変に思われるかもしれないが、うちの高校の図書館には本の他に、映画のDVDも結構な数置かれていて、DVD鑑賞用のテレビと席も幾つか用意されている。

 中学で映画研究会に入っていたこともあって、映画が割と好きだ。

 DVDは本と違って、家への持ち帰りができないということで、ここ三日ほどは、放課後に図書館に通うようになっていた。

 

 映画の本編が終わり、エンドロールが流れはじめたところで、後ろからとんとんと肩を叩かれる。

 有栖だった。

 彼女は相変わらずの無表情である。

 目鼻立ちは整っているし、瞳は大きい。肌は透き通るように白く、華奢な両肩を流れる長い黒髪は、枝毛などなく、真っ直ぐだ。全体的に細身だが、痩せすぎている印象はなく、締まっているという感じ。

 これで愛想が良ければ、かなりモテると思うのだが――。

 今のところ、有栖が教室で誰かと話しているのは、観たことがなかった。授業中以外は、そもそも教室にいない事が多い。

「映画鑑賞は終わったかしら?」

「え、ああ。終わったけど……おまえ、映画が終わるのをずっと待ってたのか?」

 腕時計を見ると、午後3時。映画を観ている俺の邪魔しては悪いと思ったのだろうか。意外と良いヤツなのかもしれない。

「いえ、無表情で映画を観続ける向日くん、まるで死人みたいだったから……。本当に死んでたらどうしようかと思って、声を掛けるのをためらっているうちに映画が終わったの。ほら、ミステリーなんかによくある『し、しんでる!』みたいなやつ。キャラかぶりの件で私はあなたに殺意を持っているし、疑われかねないわ」

「キャラかぶり、俺のこと殺したいほど嫌なの?」

 前言撤回。有栖はやっぱり良いヤツではない。

「冗談よ」

 そんな無表情で言われても、冗談に聞こえないのだが。

 

 有栖は横の空席に座る。

「向日くん、いつも放課後に映画を観ているわよね。他の一年生はみんな部活見学をしているのに。部活には入らないの? 友達できないわよ。ただでさえ無表情で話しかけづらいのに」

 余計なお世話だ。まぁ、確かに現状クラスメートとは事務的な会話しかしていないけれど……。

「この高校には中学のときに入ってた映画研究会が無いから、どうしようかと思ってるんだ。新しい部活に入部するのは、少しハードルが高いしな」

 早く入らないとどんどん入りづらくなるのはわかっているけれど、別に入りたい部活もない。

「そういうお前はどうなんだよ? 部活入らないのか?」

「さぁ、わからないわ。――ところで、部活に入っていないのなら、日曜は暇よね?」

 有栖は無表情のまま、俺を見つめ、形の良い指先で、長い黒髪を軽くつまむと、上から下へ指を動かした。 

「え、まぁ暇だけれど」

「それなら一緒に、遊園地に行かない?」

「ごめん、聞き間違えたみたいだ。もう一回言ってくれ」



「一緒に、遊園地に行かない?」


 

 有栖はスカートのポケットからヒラヒラと一枚の紙を取り出す。差し出されたそれを、受け取ると……「としまえでん」のチケットだった。

 としまえでんと言えば、年増の楽園(エデン)ではない。

 そこそこの歴史を持つ、そこそこの遊園地だ。少し都心から離れたところにあるため、行ったことはないけれど。

 

 有栖は椅子から立ち上がる。

「今週末の日曜日、つまり明日だけれど、としまえでん駅に朝の10時に集合よ」

「いや、俺はまだ行くって言ってないぞ!?」

「来なくても良いわよ。あなたが来るまで、ずっと駅前で待ってるけれど」

 重いな。

「それに、どのみちチケットは買ってしまったから、お金は今度払ってもらうのよ? 来ないと損するのは、向日くんよ」

「は?」

 手元のチケットを見る。4200円と書いてあった。え、そんなにするの?

 有栖は長い黒髪を揺らし、くるりと華奢な背を向けると、

「じゃあ、明日。楽しみにしてるから」

 少しも楽しみではなさそうな無表情でそう言い残し、出口へと歩きだした。

 

 遠ざかっていく有栖の背中を眺めながら、俺の頭の中には処理しきれないほどのさまざまな疑問が浮かんでは消えていく。

 有栖と遊園地?

 アイツと話すの、まだ二回目だぞ?

 なのに何で遊園地に?

 もしかして、有栖は俺のことが好きなのか?

 無表情キャラを装っていることと、他人の事情なんてお構いなしの傲慢なところはあるが、外見は結構可愛いし、スタイルも良いとは思うが……。

 俺が混乱していると、「ああ」とつぶやいて有栖は立ち止まり、こちらを振り向く。


「遊園地には北條さんと、都筑さんも来るから。――よろしくね、むっつりスケベさん」

 ……あいつ、心が読めるのか?

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