↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の誓剣  作者: 長月遥
第四章 共闘
56/246

第五十二話

 次に目が覚めた時、変に頭が重かった。体も凝り過ぎてて痛い。


(寝過ぎだな、これは)


 何もしていないが体は正直で疲れてるから、寝ると深く眠り込んでしまう。頭の鈍痛を和らげようとこめかみを揉みに持ち上げた手の軽さに、はっと遅れて気が付いた。


(手稼がない)


 続いて首と足を確認すると、そっちも外されていた。


(ど――、どういう事だ?)


 これを一体どう判断するべきか、非常に迷う。

 迷った――が、折角与えられた機会だ。無駄には出来ない。


(とか言って、扉に厳重な結界が引かれてて、やっぱり出られないとか……)


 ぬか喜びさせるのは可哀想なので、ライラを起こさないようそっとベッドから抜け出して、扉に触れてみる。

 強力な力は感じるが、その作用は外側へと向けられただけのものだった。多分、濃い魔気をこちら側へ来させないための。


(十分、ここでも濃いけどな……)


 それでもマシなのだ。外がどれだけの魔境なのか、想像するに余りある。


「ライラ」


 声量を抑えて、寝ているライラに呼び掛ける。反応はない。俺と同じで疲れ過ぎてて、眠りが深いんだ。


「ライラ、起きろ」


 今度は少し強く肩を揺する。


「ん……っ。へい、か……?」

「あぁ」

「お目覚めに、なったん、ですね……」


 たった今寝ていたライラに言われるにはおかしな言葉だが、この言われ方からするに、俺もかなり長く眠っていたらしい。


「あぁ、理由が判らないが鎖が外れてた。逃げよう」

「鎖、は……、ジ・ヴラデスが……。陛下、起きないから……焦って、ました……」

「――……っ」


 ライラの言葉に、思わず手首に手をやった。あれもジ・ヴラデスが具現化したものだから、当然魔気の塊だ。

 とはいえ、拘束を外すとは……。寝てるからって油断し過ぎだろ。

 ……まあ、されて仕方ない実力差があるんだけどな……。


「……まあ、いい。逃げるぞ」

「はい……!」


 この部屋から出た瞬間に、脱走したのがバレるだろう。それぐらいこの場において俺達の存在というものは異質だ。

 ライラを武器化し手に収めると、扉の鍵の部分を小さく壊す。

 余程焦ったのか、本当に俺達を拘束する類の結界はなかった。守るための結界を、意を決して踏み越える――と。


(うっ……)


【ひっ……!】


 ばっ、と一気に全身に鳥肌が立った。空気が生温かく、息苦しい。呼吸を一回する毎に、毒を吸い込んでいるかのように、体が痺れて力が抜ける。


(ヤバい。長くいたら、マジで死ぬ)


「――行くぞ」


【はい!】


 所々に点くジ・ヴラデスの炎だけが光源の、闇が支配する無人の城の廊下を、勘のままに走って抜ける。

 ふと窓の外に目をやれば、戸でも閉ざしているのかと思った暗さは、そうではなくて夜だった。ただ空は厚い雲で覆われて月も星もないから、やっぱり暗い。

 夜だったのか。時間の感覚なんて、もう全くなくなってたからな。


【ここは、プルオーネだったんですね……】


「プルオーネ?」


刻皇(こくおう)様の、領域です……】


「そうか。俺より早くに倒れて、まだ再生してないって言うからな。そりゃ魔にとっちゃ住みやすいよ

な」


【プルオーネは、常闇の国……。陽の差す時間が、短いです……】


「へえ……」


 まあ、地球にもそんなような国があるってのを聞いた事ある。正確には覚えてないが、冬なんか日照時間四時間だか五時間だか、そんなものだった気がする。こっちに似たような国があっても不思議はない。関係してるのが緯度なのか何なのかは判らないが。


 プルオーネ観光は、こっちが取り戻してから改めて行うとして、今はさっさと逃げようと再び走り出した――所に。


「皓皇!」

「っ!」


 見付かった。

 見付かった――が、その表情は脱走した事に対する怒りというよりも、焦りの方が強い気がする。

 何故、彼女が焦るような事があるのか。


「テメェはァ……っ。タイミング悪ィ時に起きんじゃねェよ! さっさと戻れ! 気付かれたら、お前――」

「うん、気付いちゃったなあ」

「っ!!」


 ジ・ヴラデスの声に被せて喋った第三者の声に、俺達よりもむしろジ・ヴラデスの方が表情を強張らせた。


 ゆら、と闇と同化するような漆黒のローブで全身を覆い、顔までもすっぽり隠したその相手は、声すらも妙な術を賭けて誤魔化していて、男か女らすら判らない。


 ――だが、確実な事が一つ。こいつも魔王だ。下手したら、ジ・ヴラデスより強い、か……っ!?


「困るよ、ジ・ヴラデス。皓皇だけは僕に報告してくれないと」

「断る、と、私は始めっから言ってんだろぉ……?」


 口調をいつものものに戻し、ジ・ヴラデスは全身に力を入れた。いつでも動けるように。


「名を与えられた魔の使徒が、僕に逆らうのか」

「何かに(おもね)るならぁ……。もう魔人の意味なんざ、私にゃ、ないねェ……。私は、魔人だ。命令なんざァ、クソくらえだ!」

「うん。僕は君の、そういう強い所は大好きだよ」


 いっそ穏やかとも言える口調でローブの魔王はそう言ってから。


「でも僕は、皓皇に用があるんだよ」

「皓皇、跳べ!」


 ジ・ヴラデスの警告に俺は従い、その場で迷わずジャンプした。その足元を漆黒の大鎌が薙ぎ払う。

 いつ具現化した!?


「私の目の前でぇ……。手ェ出してんじゃねえぞ、クソガキィ!」



 ギャリッ!



 互いに魔力を鋭利な刃物に具現化させた武器の、刃同士で鍔競り合う。


「逃げろ!」

「……っ!?」


 振り向きはしないまま、その余裕を持てないまま、ジ・ブラデスはそう叫ぶ。一体魔の中で何が起こっているのか。

 そんな事当然判る訳もないし、今は手を出せる戦いじゃない上、出す必要もない戦いだ。どっちがどうなっても、俺の敵に違いはない。


「逃がさない!」


 体格は相手より小柄だが、魔人にとってそれは然程の意味を持たない。力任せにジ・ヴラデスを押し切って、ローブの魔王は逃げる俺へ向かって駆けて来る。その周囲に薄青い炎を纏った魔力が出現した。


「カース・フレアバレット」

「っく……ッ!」


 これは、背中を向けては逃げられない。一発掠りでもしようものならそれで死ぬ!

 足を止め、弾道を見て何とか魔術は避けきるが、その時にはもう目の前にローブの魔王。


「さぁ、お前のクリスタルを寄越せ、皓皇――!!」

「させるかあァァッ!!」


 俺へと手を伸ばすローブの魔王の背後から、魔炎の爪を纏ったジ・ヴラデスが迫って来る。


「邪魔だ!」


 ローブの魔王の声に、苛立ちと怒りがこもる。当り前に殺気も。


「――っ」


 直前に考えていた事も、一気に吹っ飛んだ。仕方ない、理屈じゃないだろ、こういう時は!

 ジ・ヴラデスへ向かって振るわれようとしていた鎌の、柄と刃の丁度境目に、ライラの刀身を潜り込ませてその動きを阻害する。


「っ!?」


 予想外だったか、ローブの魔王は驚いたようだが、腕はそのまま振り抜かれた。しかし確実に、勢いは削いだ。


「っらァッ!!」


 鎌を避けたジ・ヴラデスの爪が、ローブに覆われた顔の側面に突き刺さり、そのまま肉を削いで体の中程までを切り裂き、焼き焦がす。

 振り抜かれるままふっ飛ばされた俺とライラは、姿勢を低くして刃をやり過ごし、ジ・ヴラデスと合流した。……合流して良かったのかどうか判らないが。


「ライラ、大丈夫か」


【大丈夫、です!】


「……テメェ、どんだけ馬鹿よ?」


 立ち上がった俺を庇う位置に立って、ジ・ヴラデスが呆れた半眼で横目で見て来た。


「殺されるよりは、お前のがマシだ。逃げるチャンスが来るからな」

「はん……。ま、違いねェ……」


 ニィと笑って、ジ・ヴラデスはとんとん、と床を爪先で叩く。そこから現れたのは、やはり漆黒のドラゴンだった。


「乗れ!」


 迷わなかった。黒竜の背に飛び乗ると、竜は窓を突き破って外の大空へと羽ばたいた。


「逃げるな、皓皇――!!」


 裂けたローブを押さえ、まだ顔を隠しながら、魔王は叫ぶ。よく飼い慣らされてるのか、黒竜は自分より上位の魔人の叫びに、一切怯まず止まらなかった。


「ちょっ、待て……!」


 てっきりジ・ヴラデスも乗って来るものだと思ったのに、俺だけ乗せると黒竜は迷わず飛び立ってしまった。


「ジ・ヴラデス……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。