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女神の誓剣  作者: 長月遥
第三章 奏皇合流
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第四十八話

 それを合図に、互いが進軍を開始する。どういう形で展開するかばれるので、今は真っ直ぐ、横に均一に並んだ隊列のまま。セ・エプリクファも同様だ。

 ただ、何もしないうちから個で迎撃されるのを恐れてか、魔鳥は動いてない。という事は、やっぱりあの魔鳥一羽一羽はそう強力な物ではなさそうだ。


「やはり、面で来るでしょうか」


 俺の隣に実質の指揮官として存在しているリカルド隊長が、そう聞いて来る。

 マトルトークの第三部隊とは、元々害敵の掃討を行う部隊だったらしい。

 その時の相手は主に魔獣や害獣だったらしいが、最近では流石に魔人を相手にする事も増えたんだとか。だからカプレス遠征の時も、彼等が派遣された訳だ。


 ちなみに第一部隊は近衛隊でもあり、城の警備兵達で、第二部隊は町の防衛部隊。

 どちらも参戦はしているが、一番大規模戦に慣れているだろうという事で、リカルド隊長が総指揮官を担ってここにいる。他の隊長さん達は自ら現場で指揮を取るべく、前線に出撃してしまっているのだ。


「どうかな。まだどうとも動いてないから、何とも」


 まだどちらも動きは見せていないが、ジリジリとその距離は近付いて行く。


「限界です。隊列を変えます」

「あぁ」


 相手がどう動くか判らないものの、こちらの事情を優先する事になった。

 言ったリカルドさんに頷くと、彼は笛を吹き鳴らす。合図に従い、中央は錐型へ、後衛部隊は広く拡がって展開する。

 その形を見て、セ・エプリクファも合図だろう、太鼓の音が待機を震わせ大きく響く。


 もしや音が被らないよう、気を遣ったのか。

 ……有り得る。好きそうだもんな、小道具演出。

 セ・エプリクファが選んだ形は、中央に厚みを持たせ左右に広がる、というものだった。こちらを押し潰すための構え。中央を一気に崩せれば圧勝出来るが、時間を掛けるとこっちが囲まれる。


「どうしますか?」

「――このまま行こう。突破できるか試してもいいと思う」

「そうですね……」


 中央の前線には、フィレナと、やっぱり参加に条件の掛からなかったリシュアさんがいる。人数を考えれば、魔人の質はそう良くはないはず。切り崩せるなら、このまま行きたい。


 意識を向けて光の擬似精霊(ウィル・オ・ウィスプ)を操作すれば、彼女達の近くに視界を置く事が出来る。まあ、これだけが俺が指揮官として役立つ所かな。

 付けてるのは勿論、彼女達の所だけじゃない。今回は三体、方々に散らせている。


 とはいえ今は近くの戦況よりも全体の状況。平原に作った物見櫓の上から、見詰める俺とリカルド隊長の視界の先で、ついに先頭部隊が衝突した。

 飛び散る魔術の爆発が、一気に事態を動かして行く。

 先頭で連発されている水系精霊魔術はフィレナだろうか。


「……お姉ちゃん……」


 セ・エプリクファへの目くらましと、魔術には長けているものの、混戦への投入は向かないライラは、俺と一緒に待機組だ。じっと戦場を見ながら不安げな声を上げる。


「大丈夫だ、きっと。――な?」

「……はい……」


 ライラの頭を撫でて、気休めにしかならないだろう言葉を掛ける。けれどこれは、気休めにしてはならない言葉。事実に、しなくては。

 目の前で、マトルトークの進軍は完全に止まった。その間に左右の展開部隊は結構危険領域にまで達してしまった。


「皓皇陛下。囲みは熱いようです」

「後ろの質を下げて、前線部隊に魔気の強い魔人を用意して来たな……」


 セ・エプリクファが言ったのは『全体の力を同じにする』だ。魔鳥一匹一匹の力や、部隊の人数を考えれば想像に難くない事だった。

 圧倒的にしなかったのは、それでも魔王がこのゲームを楽しんでいる証拠だろう。


「仕方ないな。第二陣形に移行するか」

「はっ!」


 出来ればあまり取りたくなかった陣形だが、これ以上粘るのは危険だろう。

 リカルド隊長の吹く風精霊の笛が響き、再びじりじりと人の群れが動いて行く。中央部隊の真ん中辺りに溜まっていた人員が左右に別れ、囲むための小部隊になっていた一部と合流。


 人数的には、そう多くない。相手もこちらを囲うため、長く伸びているその伸び始めの、やや人が薄くなっている部分へと一気に取り付いた。

 敵を上下と真ん中、三つに分断する形だ。人数の上でこっちが勝っているので、不可能ではない――が、手薄になるのは否めない。


 セ・エプリクファは動かなかった。その代わりに、ついに魔鳥が動き出す。

 勿論、カプレスの時とは違う。マトルトークには弓兵部隊がちゃんとあるし、必ず来るこの時のために、どこにでも向かいやすいよう、彼等は中央に配置されている。


 絶対に普通の弓では届かない距離を、数本の矢が立て続けに飛んでいく。火球を浴びる前に、一羽でも多く撃ち落とせれば、その分確実に被害は減る。


(あれは、カルタとアルタか)


 早めに叩ける技術を持っている彼女達の功績は大きいが、それでも進軍速度が回復する程じゃない。

 魔鳥に対する恐れから、他の部隊の注意も散漫になっている。早く立て直して分断しないと、被害が増えるばかりだ……っ。

 擬似精霊(ウィル・オ・ウィスプ)を通して視る最前線でも、その焦りが兵にしっかり滲んでいた。まずい。


「――フィレナ、聞こえるか」

『ひぁっ!!』


 今回作った擬似精霊は、使うエレメントを増やして機能を拡張してある。視界を確保したのと、音の伝達の二つだ。

 言ってはあったんだが、いきなりだから驚いたんだろう。


「後方の動揺が大きい。分断に時間が掛かり過ぎてる。――お前とリシュアさんで、南側と中央の本体を分断に向かってくれ」

『ハルト、あんたそれ、本心?』


 くす、と唇に微笑を浮かべ、フィレナはきっぱり俺の要請を断った。


『リシュア! ハルトから伝令! ここから離脱して、南側を分断して!』


 やや離れた、しかし声は届く位置で、普通の剣を振るっていたリシュアさんに向かって、そう声を張り上げる。


『……っ』


 露骨な動揺は見せなかったが、リシュアさんは躊躇い、すぐには動かなかった。それが動揺の確たる証とも言えるだろう。


「フィレナ、人を抜いたらそこは本当に危なくなる! お前は――」

『黙って!』


 鋭く叫んだフィレナの手が擬似精霊を掴んで、視界が揺れる。


(な、何だ!?)


 視界が暗くなって、全く周囲の状況が把握できない。どっかに押し込められたっぽい。

 何をしているのかとフィレナに聞く前に、答えは音と光が教えてくれた。陽光が届かない所にも、より間近で爆発する火球の光と轟音、そして周囲の悲鳴が届いた。


「っ……」


 エレメントを無駄にしないよう、フィレナが擬似精霊を庇ってくれたのだと判ったが、それより周囲の状況が気になる。


「フィレナ……!」

『大丈夫! 一撃の前に、大分減ってたわ!』


 言われて擬似精霊から意識を外し、現実の目で戦場を見る。

 確かに魔鳥の数は半分程になり、近付いた分、より矢の当たる量も増えて、今も魔鳥は次々に落ちて行っている。


 が、間に合わない。二撃目は来る!

 そう俺が思ったのと、魔鳥が口に蓄えた火球を放ったのは同時。

 仲間が大量にやられても、魔鳥は一切怯まない。己に課された命令だけに忠実に従う。そのせいで残念ながら――被害は増えた。


 だがこの分なら三発目は殆ど散発になるだろうし、四発目はないだろう。

 しかし魔鳥のせいでほぼ足の止まったこちら側とは対照的に、セ・エプリクファの魔軍は大きく広がり半円を囲む所まで行っている。


(まずい……っ)


 セ・エプリクファとしては、大勝をする必要がない。負けたって構わない。上手く互いを全滅に近付ける事が、彼にとって最も上手い戦いなのだ。

 故に、囲うまでは出来なくても、挟まれた部隊が局地的に挟撃を受け始めている。

 あまり露骨には動かしたくなかったが……仕方ない。やっぱり壁の魔人はそれなりの人材を持って来たって事か。


「隊長、後衛部隊を南の切り離しに全振りしよう」

「宜しいのですか?」

「ああ」


 どうせ皓の森を動かせば、タイミングを計ってネクスとアリストがセ・エプリクファを不意打ちする事になってるんだ。戦力を増されても、ルールが崩れた後なら、露払いは俺が出来る。


「このまま時間を掛けても被害は多分同程度だ。進めよう」

「承知しました」


 頷き、リカルド隊長は再度笛を吹き鳴らす。

 この時には魔鳥はすべて射落とされ、空には一羽もいなくなっていた。

 後衛部隊だけとはいえ、全振りなので、どうしたって北側が薄くなり、囲みの勢いが増し、北と中央の負担が大きくなる。


(頼む……!)


 魔人部隊は更に広がったため、突き崩しやすさも上がってはいるはず。

 俺の心配をよそに、マトルトーク軍は進軍の早さを取り戻し、見て判る程の勢いで本体とを分断させていく。


 ――そろそろ、確認しといたほうが良さそうだ。

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