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女神の誓剣  作者: 長月遥
第三章 奏皇合流
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第三十四話

 マトルトークに向かってからこちら、初めて帰って来る事の出来た皓の森は、出掛ける前と若干様子が変わっていた。


(――……綺麗に、なったな……)


 以前、目覚めたばかりの時は森らしい清々しさはあったけれど、それだけだった。しかし今は違う。

 生き生きと茂った木々の葉は、光の加減でなく時折ちらちらと光の粒子を舞わせ、森全体を淡く輝かせている。

 見てそれと判る程、生物も増えていた。以前は呼ばなくては姿など見る事のなかったユニコーンが、親子で当たり前みたいに座って寛いでいたりもした。


「多少森も戻ったようですね」

「仲間も、少し、増えてます……。光のエレメント、濃く、なりました……」


 多分、この辺一帯の魔が多少なりと薄まったのと、俺という存在が戻って来てしばらく経ったのと、両方だろう。

 ちなみに今は、俺とリシュアさんとライラだけ。フィレナ達――とくにカルタとアルタは皓の森に来たがったが、今回は諦めてもらった。

 宮の皆がどういう反応するか、想像に難くなかったので。


 表に出過ぎるのはまだ怖いのか、森の浅い所には全くいなかったが、宮までの道のりも半ばを越えると、森の中にも精霊達の姿が見えた。


「陛下!」

「お帰りなさいませ!」


 掛けられる声に答えながら、宮へと向かう。

 心なしか表情も明るくなった、かな?

 ややあって辿り着いた宮も、若干雰囲気が変わっていた。全体に艶が出たというか何というか、荘厳なだけだった建物に、少しだけ神秘が加わった感じだ。


「あー……。なんか、落ち着く……」

「ここが我等の故郷ですから」


 幾分か表情も柔らかく、リシュアさんも穏やかにそう言った。


「そうだな」


 最初来た時には『懐かしい気がする』以上の感慨はなかったのに、今は『帰って来た』感が凄くする。馴染んだんだなあ。


「数日は休んで行くつもりだから、二人も休んでてくれ」


 やっぱり自室まで付いて来たリシュアさんとライラに、護衛はいらないとそう告げる。

 マトルトークでは常に三人同室だったが、理由があってとなくてでは、同室への心構えが多いに違う。


「……そう、ですね。結界も少し強化されましたし、皓皇様も目覚められて大分落ち付かれたようですし、その様に致しましょう」

「ゆっくり、お休みになって下さい……」

「ああ、有難う。二人も」


 俺が起きてから、ずっと二人も俺と行動を共にしている。俺以上にプライベートが欲しいだろう。

 一礼をして去っていく二人を見送ってから、部屋へと入る。


「っ……はー……」


 息を吐いてベッドに大分。あー、気持ち良い。


(これから、どうするかな)


 ごろりと体を横向きにして、窓の外の景色を見ながら考える。


 カプレスの支配者は、魔人から人間に変わった。バウゴ候が選んでフィレナが指名した、バウゴ候の縁者が町の新しい統括者だ。

 取り敢えずは、これで法は守られるだろう。

 数日休んで体調を整えたら、カプレスへもう一度行くつもりだ。

 目当ては女神のエレメント。どうせもうあそこに守られるべきものは何もないので、結界として使われている力を回収しに行くのだ。

 そしてマトルトークとカプレスに、女神のエレメントを混ぜた結界を張る。それでこの辺一帯は大分落ち付くだろう。


(ミットフェリン領……レトラス、か)


 俺達がレトラスに向かうには、まずカプレスから対岸のクアトートに向かわなくてはならない。そこからもうミットフェリン領で、魔の支配地域。

 リシュアさんの話では完璧に堕ちているとの事なので、俺達にとってはきつい道程になるだろう。


(クアトートの様子がどうなってるか判らないが、黙って見送ってくれるって事は……。どうだろう。やっぱり無理か)


 黙って通過できたとしても、それはそれでやっぱり後ろが気になる。かと言って置いておけるような戦力はない。


(レトラスの方が遥かに人口多いはずだし、余分な所に人は絶対裂けないだろう。……どうするか……)


 フィレナはこのまま、すぐにでもレトラスに向かいたいんだろうが、正直、俺には展望が見えない。


(とにかく、全てはクアトートの様子から、だよな)


 そう結論付け、ごろりと体をベッドの上でもう一度転がして仰向けになった、その時。


「?」


 ピリ、と微かに産毛が逆立つような不快感を感じ、ベッドから起き上がる。

 皓の森全体が何かに抗い、拒んでいる気配がする。すぐに思い当たる事が一つ。


(――魔人の侵入か!?)


 ジ・ヴラデスが来た時もただひたすらな不快感に起こされた。あれもきっと森からの警告だったんだろう。

 今森は当時よりも力を付け、よりはっきりと俺に警告してきている。


(結構派手に動いてるからな。目を付けられてもおかしくない)


 もしくはいずれ来るだろうジ・ヴラデスが、早くも来たか。


(今はとても戦える状態じゃないが……)


 元々の力の差が元より、あるだけの力自体も大して回復していない。カプレスからここまで帰って来るまでに多少は回復したが、それだけだ。


(とにかく、何かは確かめないと)


 リシュアさんとライラに声を掛けようとして、はたと気が付いた。

 部屋の場所が判らない。

 感覚で何となく出来る事・覚えている事もあるが、どうやら皓皇は馴染む程には彼女達の部屋には行っていなかったようだ。呼びつける方が多かったのかもしれない。


(――いいや、行ってしまえ)


 こちらを舐めている、まだそう深く侵されていない魔人なら俺一人ででもどうとでもなる。そうでなかった場合には、引き返して彼女達を探そう。

 少し迷ったがそう決めて宮から出て森を歩く。外に出ると、ここでは異質な魔の気配がありありと判った。

 しかし、そう強い魔の気配ではない。軽度だ、と判断する。


(何とかなりそう、か?)


 後は、手練れでない事を祈るばかりだ。


 まだ森の中程でウロウロしている魔人の気配を頼りに、茂みの中から様子を伺い――、安堵と、同時に堪らない脱力感に肩が落ちた。


「――カルタ、アルタ」

「わっ!」

「あっ!」


 いきなり名前で呼びかけられて、びっくりしたんだろう。びくっ、と肩を跳ね上げ二人は勢い良く振り向いた。


「何だ、ハルト」

「何してるんだ、おい」


 連れていけない、来ないようにと、はっきり断ったはずだ。

 来られても困る。本っ当に困る。

 俺の態度で、本当に拒んでいるのが判ったのだろう、カルタは詰まらなさそうに後ろ頭を掻いた。


「だって一回ぐらい精霊王に会ってみたいし、皓の森にだって入ってみたいじゃない」

「勝手に入ったら殺されそうだけど、今ならハルト達がいるから大丈夫かなーって」


 あぁ……。確かに、侵入されたからって殺そうとかは俺は思わないし、止めるとも。

 俺が言えば、捕えられても危害を加えられずに無事に返す事も容易いだろう。

 とは言えっても、『多分皓皇と親しいだろう知り合い』だけを勝算に禁域に乗り込んで来るとか、凄い度胸だ。そうじゃなきゃ冒険者って務まらないのだろうか。


「来られても困る。帰ってくれ」

「一目精霊王見るだけ。……駄目?」

「駄目」


 はっきり拒絶。彼女達に遠回しにソフトに、の遠慮はいらない。してたら話が終わらない。


「皓皇は起きたばかりでまだ本調子でもない。そんな姿を晒させたくもないし、望まないだろう」

「はー……」


 腰に手を当て、カルタは項垂れて大きな溜め息を付く。


「判った。諦める。代わりに一つ聞きたいんだけど」

「何だ?」

「皓皇ってどんな人?」

「……。どんなって」


 あまりにも聞き方が曖昧すぎやしないか。いや、ピンポイントで聞かれても答えられないが。皓皇像とか、用意してないし。

 しかしこれは教訓だ。今度から人物設定は詳細に用意しておこう。これから必要になる気がする。


「悦に難しいこっちゃないでしょー。興味があるのよ、人と協力しようって精霊王に」

「肖像画とかと同じ感じ?」

「肖像画!?」


 そんなのがあるのか!

 ……けど、俺を見て判らないって事は、多分、似てないぞ、それ。リシュアさんもすぐ判ったし、ジ・ヴラデスも俺を見て『皓皇』って呼んだから、この姿は六百年前の皓皇と同じなんだろうし。


「俺は肖像画とか見た事ないから何とも言えないが……。とにかく今は駄目だ。レトラスに戻ったら話してやるから。ここだと皆怯えるから」


 その時ぐらいまでには、人物設定も作り込めるだろう。

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