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女神の誓剣  作者: 長月遥
第二章  カプレス解放戦
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第二十八話

「――来たわ、いい頃合い!」

「了解」


 門近くの外壁の上に陣取ったアルタから、気負い過ぎでもない、なさ過ぎでもない、適度に緊張の含まった声が上がる。

今彼女は視覚拡張の魔術を使って、通常の肉眼ではまだ見えないだろうマトルトーク軍の到着を見張ってくれていた。


一緒に待機していたリシュアさんとライラを武器化して、両手に収める。魔力で封じられているとはいえ、程度としてはそう錬度の高い物ではなかった。

これだけ巨大な物に掛けた、という所は中々見事ではあるが。


輝風陣の砲衝エル・エア・エリアブラスト!」


 重ねた剣の前面に、巨大な空気の渦を圧縮させ、撃つ。

ようはただの空気砲だが、巨大な分だけ威力もある。

威力を上げるために、単純にもっとエレメントを多く使うとか、アレンジ版で空気砲の球となる空気の方を円錐状にするとか、中に空気流を作るとか色々あるが――今は別に要らないからいい。


どぉん! と薄い緑に輝くエレメントの風の砲弾は、重い音を響かせ鉄の門を易々とぶち破って大地も抉り、無残な様を晒させた。


「わァお! 流石、三人で先に来るだけあるじゃない!」

「だから破るだけなら出来るって!」


 上に向かってそう呼び掛けると、その必要なく外壁からアルタが降りて来た。


「さて、行って来ますか」

「頼む。――光の擬似精霊(ウィル・オ・ウィスプ)


 やや消費の高い術なのであまり使いたくないのだが、あった方が絶対無難な擬似精霊を一体作りだし、アルタへと預ける。


「あ、結構可愛い。――じゃ生きてまた会おう!」

「あぁ、アルタもな!」


 繋ぎ役として、マトルトーク軍との合流に向かったアルタの背を見送って――俺は市街地の方へと走り出した。

スラムと大通りの間にある、地元民通商『小口通り』。まずはそこで構えて防戦する事になっている。


「何だ、今の音は!?」

「も、門が――!?」


 積極的に魔人に肩入れするでもない、人間側に加わって戦おうというのでもない、本当に普通の一般市民の人達が、家の玄関先に出て来てざわつき始める。


しかし数日中に事が起こるのは、もう全員が知っていた。音の正体を知ると、慌てて扉を閉め、嵐が通り過ぎるのを待つ事を選択した一人の家に、突如炎が降り注ぐ。


「!?」


 正体を求めて空を見上げれば、そこにはペガサスに乗った魔人の男が一人。

男を乗せているのが余程不服なのか、ペガサスの羽ばたきは荒々しく回数も多い。


「戦え! 貴様等魔人は、皆、より強き魔であるハーパー卿に従わねばならん! 従わない奴等は、即、処刑! 戦――」

輝風砲(エル・エアブラスト)!」


 それ以上演説をされて、こちらに良い事など何もない。どこで捕まえて来たのか知らないが、ペガサスに跨り叫んでいた魔人を下から撃つ。


ペガサスは回避しなかった。どころか、大きく体勢を崩して魔人に輝風砲が当たるよう、器用に自ら大旋回。

いきなりの動きに縛りつけていた手綱を取る間もなく、魔人は輝風砲を食らい、緩んだ手綱を暴れて振り払い、ペガサスは逃げ去って行った。


「うぅっ、クソが! 馬の分際で、生意気な! 後で見付けてブチ殺してやる!」

「事が終わって、まだお前にそんな事の出来る余裕があるとでも?」


 身体の頑丈さに救われて、魔人は家の屋根程の高さから落下したが、多少衝撃によろけただけで立ち上がる。輝風砲に撃たれた腕は正常じゃない方向に曲がっていたが。


「ひっ……」


 一瞬引きつった声を上げたものの、すぐに虚勢を取り戻す。


「ハ……ッ、ハハッ。何だ貴様等、勝てるとでも、本気で思っているのか!? ハーパー卿は魔神だぞ!」

「魔王になられる前に片付けられるなら、尚今のうちにやっときたいな」


 平然と言い切った俺に、魔人は躊躇うように一歩、二歩と下がる。戦う覚悟の無さは俺といい勝負だ。


「大人しく――」


 投降しろ、そう言い掛けた俺を遮って、再び魔人は近くの民家へ向け、火球をばら撒く。


「!?」

「戦え!全員家から出て来て、戦え! 戦わない奴は処刑だ! さっさとしろッ!!」


 ……前言撤回しよう。自分より強いかもしれない相手と戦う覚悟前提だ。


「黙れッ!」


 脅しに耐えかね、手に武器を持って出てくる人も――少なくない人数現れる。


「はははっ、そうだ! 戦え! 俺のために! 俺を守れ! 手柄を立てた奴はハーパー卿に紹介してやるぞ!」

「この、いい加減にしろッ!」


 人の居ない、障害物のほとんどない大通りを疾走しながら叫んでいるので、手に負えない。追い掛けてはいるのだが、これがまた足が速い。

向こうは民家に火球を撃つ、という余計な動作までしているのに、追い付けない。


(下手に広範囲の魔術使う訳にはいかないし……ッ)


「さあ、戦え! 反逆者の首をハーパー卿に捧げるのだ!」

「うわあぁぁぁっ!」


 悲鳴を上げ、一人の男が突っ込んで来る。しかし脅されてるだけの人に――いや、違う!

脅されながらの体を装いながら、その実全く躊躇いのない殺気を持った一撃を、剣で受けて遠慮なく払う。


しかし俺の遠慮のなさと、一人目が動いた事が与えた衝撃は大きかった。

まだ躊躇っていた、こちらは間違いなく武器を持っただけの一般人が、最初の一人に触発されてやはり悲鳴を上げて、纏めて数人突っ込んで来る。


(やりずらい……っ!)


 技術的には皆無なので、避ける事は難しくない。だが何と言っても、数が脅威だ。

そしてその中に確実にいる、『本物』の魔人達が、更に面倒だ。


「さあ、さあ、かかれ! お優しい事だ、住民には手加減してくれるようだ、恐れる事は無い、殺れ! ――いや、殺ってしまうのは勿体無い美形だ、生け捕りにしろ! 腕や足の一本、二本ぐらいは構わん!」


 全部合わせても腕と脚は四本しかないが、果たしてそれぐらいなという表現が正しいのか。

正しいんだろうな、こいつにとっちゃ。


【ハルト……っ】


 皆まで言われなくても、ライラが何を訴えたいかは判る。事ここに及んでも、一掃するだけなら十分出来る。


(……判ってた事だ。大丈夫)


 拒否感が微かに手を震わせるのを、意志を持って押さえつけ、柄を強く握る。

始めた俺がこんな所で迷っている場合じゃない。スラムの様子を早く見に行かなくてはならないのだ。


単発的にだが、爆発音がここまで聞こえているので間違いなく遭遇・戦闘している。更に気になるのが、当初の予定よりもスラム側に近いって所だ。


(奇襲失敗か、押されて後退したか、どっちにしてもいい事じゃない)


「剣向けた以上は、多少の怪我は覚悟してもらうぞ!」

「舐めるなァッ!」


 前と後ろと、挟み内で打ち掛かってきた二人は、どちらも本気。そして警備隊の制服を着ている。

素人じゃない。

住民含めて、こっちの集中力を分散させようって事だろうが、一々小細工してくれるな。


輝大震衝(エル・クエイク)!」


 範囲限定の地震だが、地に足を付けて立っている生き物には例外なく有効だ。勿論、術者である俺には効果を及ぼさないよう調整してある。


バランスを崩して剣を振るとか、逃げるとか、何らかの行動を起こす所じゃない魔人達の中を擦り抜け、一番初めに現れた指揮者の魔人の元まで辿り着き――


「ひィッ!! 待っ、待て――」


 どうやら側近として連れて来ていたか、往生際悪く手前にいた二人が揃って何とか剣を振ってきたが、無茶にも程がある体勢だ、当たる訳がない。

一飛びで越えて、ずりずり尻を地面に着きながら後ろに這って逃げようとしていた魔人の頭を、剣の柄で殴って昏倒させる。


「さて―」


 まだやるか、と問うまでもなく、輝大震衝から立ち直った魔神側の警備隊であろう数人が、すぐさま立ち上がって駆けて来た。中には住民の格好をしている者もいる。


(これは多分、転がっている中にもまだいるな)


 恐怖によってか、他の何かによってか、とにかく組織として成り立っている部分もあるようだ。投降はないな。


輝炎(エル・フレア)


 人間何と言っても、視覚的にも実質的にも、一番恐れるのは炎だろう。

二人の刀身に火を纏わせ、左右で切り掛かってきた二人の武器を、同じく左右それぞれの剣で切り捨てる。切り結ぶ間もなく一瞬だ。力もほとんど入れてない。


己の武器を失い足を止めた魔人警備隊二人を、柄に持ち変える余裕はないので、こちらはそのまま剣の腹で撃ち据え気絶させる。

一緒に火傷を負わせたのは、勘弁してもらおう。魔人なら自己治癒力で大分早く治るだろうし。


瞬間ざっと目を走らせ、敵意と恐怖を滲ませた七人を見付けた。恐怖はともかく、敵意はないだろ。

――本当の意味で敵対していない限り。


判りやすく警備隊の格好しているのが四人。後三人は普通に洋服。更に内一人は、まだ他の人に混ざって座り込んだままだった。もう判ったから、初動の遅れになるだけだけどな。

判った七人を薙ぎ払い、沈黙させると――もう動こうとする者はいなかった。


「魔神に付く気がないなら、邪魔だから散ってくれ。利用されて被害被りたくなければ、一旦カプレスそのものから出て行った方がいいぐらいだ」


 使われているだけだといって、手加減してもらえるばかりじゃない。

マトルトークの軍人に『殺すな』等と俺が言えるはずもないし、言う気もない。一瞬のためらいで殺される誰かの責任を負おうとは思わない。


俺が殺さないのは、あくまで俺が殺したくなくて、それが可能となる力がある時だけだ。

殺したいと思って戦争に嬉々として参加している者は少ない。――いないとは、言い切れないが、少ないとは言いたい。

だから軍人であっても一人の人として、同じ人間を殺したくはないだろうが、許されない時だってある。


「け――、けど――」


 巻き込まれたくない、と態度が言っているが、それでも躊躇う男の目は、彼の家と思しき方向をちらちらと見ていた。


「財産守るか命守るかは自由だ」


 言い捨て俺はもう構わず、スラムへと向かって駆け出した。

マトルトーク軍は略奪はしないと思うが、それを懇々と説いている時間が惜しい。今はやらなきゃならない事がある。

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