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女神の誓剣  作者: 長月遥
第一章  皓皇再生
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第八話

 ざわめきと動揺と共に、一気に事実として広まってしまった。もう仕方ないな。


 出来れば何というか――俺がもう少しこの世界の常識とか、皓皇として威厳ある振る舞いが出来るようになってから知られたかったんだが。

 いつになるんだ、と思っていなくもなかったから丁度いいと言えばいいのか。早過ぎるけど。


「もっ、申し訳ありません……っ」

「いや、もういいから。実は二、三回目には言っちゃうんじゃないかなって思ってたから」

「うっ……。すみません……っ」


 正直に口から出てしまった言葉は、リシュアさんを更に落ち込ませてしまった。

 すまん、つい。


「ほ――、本当に皓皇なのか? 光の精霊王の」

「つい二日前起きたばかりなもんで、若干混乱気味だが、そうだ。一応」


 一応は謙遜ではなく、マジで。通じないけどな、この場合。


「精霊王が、何故――」


 その問いの先に続く言葉は、皆が同じものを期待しているんだろう。あまり期待されるのは困るが、俺としても望みは同じ。

 そして俺が言葉を発する為に口を開いた、その時。

 重厚と呼ぶには早過ぎるペースで、重い鐘の音がおそらく町中にだろう、響き渡る。

 ざわつく店内と、一気に騒がしくなる表の空気。

 意味を知らなくても判った。今のは警鐘だ。


「あっ、あの――」


 先程女神のエレメントを渡した兵士が、途切れてしまった答えを求めて俺を見る。


「あの鐘は、魔人が攻めて来た合図です。一緒に……来てもらえますか、皓皇陛下」

「あぁ。手勢が少なくて申し訳ないけどな。この町を守りたいと思う」


 上がった声はあぁ、とおぉ、が半分ずつぐらい。今更だったから心配だったんだが、意外に好意的に受け取ってもらえて良かった。

 ……それだけ劣勢っていう証かもしれないけどな。


「リシュア、ライラ」

「はい」

「承知しました」


 頷き立ち上がると、何も言わずに彼女達は俺に付いて来てくれた。文句や愚痴の一つぐらい本当は言いたいんだろうが、この場では口にせずにいてくれたのを感謝する。


 表に出ると、長らく防衛戦をしていたのが良く判る、迷いのない動きで人が動いて各持ち場へと向かっている。

 町の外は――魔力の気配が濃い。凄い囲まれようだ。しかし幸いなのは、突出した魔力を感じない事。


「結界がある限り、入っては来れないだろう?」


 感覚だが、町に張られている結界の方が、外の魔人達の魔力よりも強い。とりあえずは安全な気がするが、これだけ大勢で詰めかけて来たのが、ただの脅しとも思えない。


「いつも強いのが混ざってて、そいつ等が入って来て兵士達を引き摺り出すんです。その、強いのを倒せばいつもは退却するんですが……」

「これはそういう感じじゃないぞ」


 四方八方、圧倒的な数で蹂躙しに来る構えだ。

 何かあるのでは、ともう一度よく魔力を探ってみる。


「――!」


 そして、気が付いた。外じゃない、中だ。

 町の中にある濃い魔の気配が、結界を作っていると思われる、城壁を囲んだ四方の塔の中――そのうちの二つの内部にある事に。



 ――ぱきんっ。



 しかし気が付いたからといって、遅かった。

 既に打ち合わせは万端だったんだろう、タイミングを合わせて、北側と南側の塔の最上部で爆発が起こり、結界が一瞬にして消え失せた。


「――ひ――……っ」


 すぐ様事態を悟って、兵士の顔が青くなる。

 町を埋め尽くす魔人の数は、おそらくこの町の兵士よりも多いだろう。ましてその能力自体も上となれば、結果なんてもう見えている。


(――させるか)


 町全体を俺一人で覆うのは大分力を使うが、言ってる場合じゃないだろう。


天上の光幕エル・オーロラウォール!」


 町の正確な大きさが判らないので、側に張り付いてるんだろう魔人部隊にぶつかるまで、意識を伸ばして結界を広げる。


「皓皇様、無茶を――」

「無茶はしてない」


 ざっと半分ぐらいは力を消費したが、三人でやるよりは良かったはずだ。これだけ大きい物にリシュアさんとライラの力を使ったら、二人の方の力が尽きる。


 何しろまだ相手にしなくてはならない者がいる。武器化するだけでエレメントは使ってくし、誰か一人でも力を使い果たすと、俺達の属性上一気に不利になるからな。


「で、すまないんだが」

「は、はい!」


 そして今心配しなきゃいけないのは俺じゃない。そのまま一緒にいた兵士に声を掛けると、直立不動で背を伸ばした。


「今張った結界は簡易だ。一時間も持たない」

「えぇっ!・」


 空から降り下りてきた光の幕にほっとした顔をしていた兵士は、再び顔を蒼白にする。

 しかし今問題なのは時間制限でもないんだ。


 絶対に、万一の時の為に結界を越えられる程度の魔力を持った魔人も来ているはずだ。

 それを考えて、この町の主力と化している魔人化兵士も巻き込む、内側にいる魔人の行動を阻害するような結界も張れなかった。

 もっとも、そんなの張ったらその時点で俺の力が尽きるけどな!


 そちらの方は問題ない。壊された方の結界よりは強力な結界である自信がある。だが、今確実に悪意を持って動いている内側の魔人は野放し状態。


「一時間以内に、本当に魔道に堕ちている魔人を見つけて倒して、結界を修復しないとここは落ちる。それを指揮権のある人に話して動いてくれ」


 逆に結界を修復して町を取り囲んでいる魔人を退かせ、インターバルさえ手に入れれば、今度は俺が結界強化して手を出せないように上掛けする。

 ……どの程度の強さの魔人まで効果が出るかは判らないが。


「わ、判りました。皓皇陛下は――」

「俺は中の魔人を倒しに行く」


 修復最中に狙われたらたまらないし、何回張っても壊されちゃ意味がないからな。


「判りました! どうぞ、御武運を!」

「ありがとう」


 好意だからと判っているから、走り去って行く兵士には見せなかったが――表情筋の奥の顔は、少しばかり強張っていた。

 御武運――御武運か。改めて言われると、ぞっとする言葉だよな。


「リシュアさん、ライラ」

「はい」

「参りましょう、皓皇様」


 人を守るという事はともかく、魔人と戦う事に対しては、リシュアさん達はむしろ積極的だ。マトルトークへ向かう、と決めた時とは違い、嬉々として剣の形を取り俺の両手に収まった。


(強い魔力は、二人か)


 一人は兵士達が守る門の元へ、大量の人を殺しに。もう一人は――城だ。頭狙いか。

 ……王族か領主か判らないが、とにかく偉い人なんだから、強い護衛が付いてる、よな?


【どちらへ行かれますか?】


「門の方へ」


【それが、良いと……私も、思います】


「どうしてそう思う?」


 意見が一致するのに越した事はないが、ライラが門を選んだ理由も気になって聞いてみる、と。


【門の方が人、多いです。守るなら、効率的……です】

【違うのですか?】


「いや、まぁ……違いはない」


 正直、まとめ役なんてのはやらなきゃならない状況になれば誰かがやるもんだ。上手い下手はともかく。

 だから俺達としては、人数優先は間違ってない、んだが……


 多分城の方が手練れが詰めてるだろうから、死傷者が少なくて済むだろう、とか、そういう発想ではないんだな、うん……


 魔人は塔の破壊を行っていたため、兵士の集団へと到達される前には俺達の方が遭えそうだ。

 相手も俺達が向かっているのに気が付いたんだろう、一直線に向かっていた門への進路を変えて、俺達の方へと向かって来た。


 日本の道路と違い、マトルトークの公道は道幅が広かった。車二台と歩道の完備が余裕なぐらい。

 それぐらいあれば、人二人が立ち回りするぐらいは十分できる。周りが民家なので気をつけなければならないが、避難はしてるようなのでそこも二の次だ。



 ――じゃりっ。

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