第百十四話
そんな事を考えているうちに、会議室へと辿り着いた。
「おぉ、刻皇陛下! お久しぶりです!」
「やあ、ドルトバス。久し振り。元気そうで何よりだ」
会議室に入ると、そこにはもうドルトバス族長とバステアス、そしてウィシュヌの代理として軍部の部長が揃っていた。
研究員の所長もまだ重度の魔人化したままで話にならないから、彼は色々大変らしい。
「じゃあ、始めようか。まずレーゲンガルドと土の宮は、今どうなってるんだ?」
席に付いたルトラから早速そう問われて、まず答えたのはバルバトス族長だった。
「はっ。レーゲンガルド北西部の土の宮周辺は、境皇様のお力で今もエレメント領域となっております。我らドワーフも北方カッパギア山脈から地下洞窟に下り、生き延びた者達三千名あまりで隠れ住んでおります」
「逆にレーゲンガルド南部はリザードやコカトリス、それと瓦解した国々の人間達が魔人になって支配していて、無法地帯になってしまってる。カッパギアも山の頂にはハーピーがいるし。境皇が地下に潜ったのは間違いないと思う」
ドワーフ族が地下に潜る事を選んだのもそれもあってか。
ドルトバス族長の答えを引き継ぎ、重たい息と共に言ったバステアスの声は沈んでいた。無理もないが。
「ククルスエイジはどうなってるんだ?」
「ここから更に西に行ったかつての首都をそのまま使ってる。水のある所は限られるからね、一回滅ぼされたから違う所に一から建てようなんて早々出来ない。酷い有様だけど、まあ、大砂漠で星空見ながら眠るよりはいくらかマシだ」
レーゲンガルドは北に高山、中央から南部は砂漠地帯と、決して住みやすい環境じゃない。川の畔になんとか町が点在する程度なんだとか。
それでもここに人が住んでいるのは、レーゲンガルドは良質の宝石、鉱石が採れるから。
平和な時は輸出入で生活が成り立っていたが、今はそんな状況じゃないから食べる物さえ乏しい有様だろう。
「だが町は町だから、拠点としては十分使える。土の宮までも馬で二日と遠くない」
「いいのか?」
「勿論。ただし住みやすさはここより断然劣る。何しろ昼間は死ぬ程暑くて夜は死ねる程寒い」
まま砂漠の気候だな。
「覚悟しとくよ」
「慣れるためにも、数日滞在してからの方がいいと思うが、どうだ?」
それは今から行かないかって事か?
「いや、こっちのがエレメントの回復早いから、三、四日回復させてから行くよ」
「そうか」
「――魔族達はいいとしても、僕達はドワーフ達の所に身を寄せた方がいいんじゃないか?」
ああ、そうか。同じエレメント種族だもんな。
頭の横まで挙手をして言ったルトラに、しかしドルトバス族長は唸り声を上げた。
「難しいですなあ。いや、勿論歓迎はさせていただきますが、外敵から逃れるため地下へ地下へと掘り進んだので、スペースもあまりありませんし、精霊の皆にはちと行き来は難しいかと」
「ハルト、本当よ。無理。止めた方がいい」
すでに一度ドワーフの洞を訪ねているフィレナも、ドルトバス族長に同意して首を横に振った。
「魔人以外の来訪など久しぶりでしたからな。何事かと思って迎えに行ったのです。中間付近で難儀していたようでしたのでな!」
「あそこまだ真ん中なの!?」
フィレナから驚きと慄きの声が上がる。うん、判った。無理な気がしてきた俺も。行き来するだけで体力使い果たしそうだ。
「ルトラ、やっぱりククルスエイジに世話になるって事で」
「そうだね」
提案してきたルトラも同意した。
「じゃあ、精霊の皆は後から来るとして……じゃあ僕達は先に戻って受け入れ態勢を整えようか、フィレナ」
「あ……。ええ、そうね」
「もう行くのか?」
自分の国が心配だろうバステアスはともかく、フィレナも一緒にっていうのが少し驚いた。
……いや、違うな。残念、だったのかもしれない。久し振りに会ったから。
まあ会ったから何って訳じゃないし、フィレナも気に掛けてくれるから、今は会わない方がいいっちゃいいんだが……。
「うん……」
しかし当のフィレナもどことなく気乗りしなさ気だ。気乗りしないなら別に俺達と一緒に向かっても――と俺が言うよりも早く。
「婚礼の準備もあるからね」
「……婚礼?」
なんか、この場に相応しくない単語を聞いた気がする。
こんな時に、婚礼?
ってか、バステアスの婚礼の準備にフィレナが何の関係が。
「土の宮奪還の前に済ませてしまおうと思ってるんだ。勿論簡易になってしまうけど、重要なのは事実だからね」
「……」
上機嫌なバステアスに対して、フィレナの表情は硬い。
……って、まさか。
「フィレ、ナ?」
「……うん」
こくん、と小さくフィレナは肯定の頷きを返して来た。
婚礼って――お前とバステアスの結婚なのか!?
「な、何で! いきなり過ぎだろ!」
それとも実は小さい頃から知り合いで、元々そう言う話があったりしてたのか!? よく考えりゃお姫様と王子様な訳で、おかしくはないけど……!
いやでも、レトラスとククルスエイジに国交が可能だったとは思えないぞ!?
「い、いきなりだけど、悪くない話だと思うの。レトラスとククルスエイジを統合して、そうすれば――」
「俺達は一緒に魔と戦えるだろ?」
「っ!」
目を眇めて笑ったバステアスと、僅かに、耐えるように拳を握ったフィレナとの反応で、判った。
やっぱりフィレナの意志じゃない。
(条件だったのか……!?)
俺達を助けるための。だったら、そんなの――。
(させられるか!)
ついでに、フィレナが女で自分が男だからって、都合よく結婚で片を付けようとするのも気に食わない!
「そう言うわけだ。俺達は先に帰る」
「待て」
立ち上がって待ったを掛けた俺を、バステアスは伏木層に振り向いた。
「何だ? 何か問題が?」
「大ありだ。そんな結婚認められるか」
「君に関係無いだろう、人間の結婚なんか。俺達は互いに納得している」
納得とか言ってる時点で駄目だろ!
王族だからそういう事もあるのかもしれないけど、でも安売りしすぎだろ、フィレナ!
「関係はある」
「ちょ、ハルト……。まさか……」
俺の意図に気が付いたか、ルトラが引きつった声を上げる。流石だ。
ここにネクスがいなくて本当に良かったと、今は切にもう。
「俺が彼女に惚れてるからだ」
「なっ!?」
「えっ!?」
「何と!?」
バステアスを睨んで言った俺の言葉に、バステアスとフィレナ、ドルトバス族長が驚きの声を上げる。ルトラは顔を手で覆って盛大な溜め息。




