↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神の誓剣  作者: 長月遥
第七章 魔都エインヘリアル
114/246

第百十話

 辺りが朱色に染まって来た段階で、俺はもう一つまずい事に気がついた。

 魔族の中にはそうでもない人もいるけど、俺達はそれ程夜目が利かない。

 しかし勿論、魔導創造物に夜だとか暗いとか疲れたとか、そんな事は関係ない。


(つーか、本当、まずい……っ)


 午前中からずっと戦い続けているってのに、相手の魔導創造物の波は途切れない。

 生身の支援部隊は切り替えて交代しながらやってるけど、それだって最前線の魔導創造物が壁になっているから出来る事だし、疲労は溜まっていく一方だ。


 俺自身も体が重く感じる。つーか一番ヤバいのは体力よりもエレメントだ。回復するのに体力以上に時間が掛かる。ここはアイルシェルだからまだマシだけど、それでも三、四日は掛かるだろう。


 その頃には全部終わってるわ。このままだと、今夜持ちこたえるのがせいぜいだろう。どんだけ作ったんだ!

 囲まれて動きが取れなくなったら終わりだ。日干しにされる……っ!


(今夜は持つ……)


 けど明日は無理だ。もう朝から生身の魔族達が前線を担わなくちゃ支えられない状況になるだろう。

 それはもう、敗北だ。


 朱色だった空が、もう間もなく群青に染まり、そして夜の闇が訪れるだろう。灯りを生む術はあるけど、昼間の視界とは比べものにならない。


(どうする!?)


「――皓皇陛下」

「っ」


 休憩から戻って来た部長に声を掛けられ、はっとしてそちらを振り向く。その表情は硬く、思い詰めた、覚悟を決めた物だった。


「貴方はどうぞ、もうお休み下さい」

「けど」

「今夜は我等が魔導創造物が前線を持たせるでしょう。明日戦線が崩れる前に、戦えぬ者を連れてお逃げ下さい」


 エインヘリアル城の裏は斜度のきつい山になっていて、戦うには向かないが歩く事は出来る。ただし、ガーゴイルが滞空してるから、狙い撃ちにされるだろうが。

 ――だから俺に、守って逃げろというのか。


「……けど……っ」


 判っていて、見捨てて逃げろと――……っ。


「元々ここは我等魔族の地。皓皇陛下に命を賭して守って頂く場所ではありません」

「――っ。違うだろっ!?」


 それが俺を気遣っての言葉だってのは判ったが、それに喜ぶ前に、まず悲しかった。そして悔しかった。


「場所と国が、守るのに何の関係がある!」

「……皓皇陛下……」


 ――けど、何も変わらない。

 俺はきっと、彼等をここに置いて逃げる事になるだろう。

 何を思ってたって、力が及ばなければ現実が変わる訳じゃ――……



 ずずんっ。



「っ!?」


 俺の思考を中断させたのは、巨大な何かが地面に落ちた重い音と地響きだった。

 そしてそれを皮切りに、相手の魔導創造物が次々と地に倒れ、ただの『物』へと戻っていく。


「な……っ?」


(何だ、これ)


 俺達にとっては救いの光景だが、理由が判らない。戸惑う俺達の目の前で、町の扉を封鎖した術が一気に解かれた。


「!?」


 リシュアが掛けたその封印は、精霊だったら簡単に解けるものではあるんだが……


(ツィアルか!?)


 そう思ったけど、そうじゃなかった。開いた門から突入して来た部隊は、精霊じゃないのは勿論、見覚えもない装束の兵士達だ。


「ククルスエイジ!」


 彼には見覚えがあるのか、そう声を上げた部長の声は驚きに満ちていた。


「知ってるのか?」

「レーゲンガルド西部に住む人間達です。しかし数年前リザード達の襲撃に遭い国は滅んだはず……」


 主力はそのククルスエイジっぽいが、人間達だけではないようだった。扉が開いて人間の兵士が突入すると同時に、外壁しかない町の東西からも、それなりの人数が交戦している音がいきなり湧いた。


(どうなってるんだ!?)


「お兄様!」

「ウィシュヌ! 丁度良かった! どうなってるんだ、これ!」

「砂漠王がいるからククルスエイジの残党に間違いないわ! 後ドワーフ! それと、光の精霊族よ!」


 ツィアルも混ざってるなら、援軍には間違いなしか! それなら俺達がやる事は一つだろう!


「打って出るぞ! 相手の動揺が収まらないうちに、数を減らして三方の部隊と合流する!」

「はっ!」


 各方面から突撃して来た人数は、決して多くはなさそうだ。全部合わせても一万弱、といった所だろう。だからこそ、こっちからも打って出れば数の優位も覆せる!


 町の魔人達は町を数ブロックに分けて点在していた様だった。攻撃は魔導創造物に任せて、自分達は一網打尽にされないよう、拠点を分けて構えていたのか。

 ――それとも、魔人故に信頼が成り立たず、離れる事で不干渉を選んだのか。


 それでもこっちが攻勢に出れば取り囲んで押し潰す、ぐらいは考えていたんだろうが、数の有利が覆り戦線が面で広がってしまった今では不可能な話だ。


「来たぞ!」

「どうなってるんだ! ゴーレム達が動かないぞ!」

「新しく作れ! 作った奴は動……っ」

「アーリホー」


 焦る魔人達の声に被せる様に、いまいち気抜けする掛け声が響き、やや遠くの位置から小柄な人影がその背丈に似合わない巨大な斧を、何もない所で振りかぶる。


「あぁ!」

「ドワーフ! やめろォっ!」

「ハイホー!」



 ずんっ。



 そこには何もなかったはずなのに、ドワーフが斧を振り下ろすといきなり周囲一帯の家が一斉に崩れた。ついでのように、駆け付けて来た魔人が連れて来たゴーレム達も動かなくなっている。


【ドワーフ族は優れた夜目と、魔力やエレメントを見る特殊な瞳をしていると言います。その力を以って優れた鍛冶能力を有し、土木作業を得意としているのだと】


「創造と破壊は紙一重か……」


 その間にも大きな地響きがそこかしこから響き、建物の数がどんどん減っていってる。派手にやってるなあ。


輝闇束鎖エル・オーラ・バインド!」


 とりあえず三人の魔人は拘束して、その場に転がしておく。すると、ととっ、と駆けて来たさっきのドワーフが、手に持った斧で地面を掘りはじめた。


「ラリホー」


 そして高々と斧を振り上げ、がすんっ、と最後に渾身の一撃。途端、すっと体が楽になる。この辺一帯の魔気が消え失せたのだ。


「リーホー」


 作業はそれで完遂したのか、俺に向き直ってぺこんっ、とお辞儀をした。

 やばい。これ、どうやら掛け声じゃなくて彼等の言語だ。全然判んねえ。


【貴方は共通語で喋れませんか?】


 どうやらドワーフ語が理解出来ないのはリシュア達も同じだったらしく、ゆっくり判りやすく発音しながら、目の前のドワーフにそう尋ねると。


「ラ……、……言葉ハ、少シ。苦手」


 少しだけ首を傾げた後で、覚束ないたどたどしい口調ながら、喋ってくれた。良かった! 判る!


「ありがとう、助かった」

「精霊王、女神ノ子。助ケル、当然! 俺達、仲間!」


 言ってから急にしゅんとして。


「デモ、境皇、助ケラレナイ。俺達、不甲斐ナイ」

「誰かを助けたくて助けられない力不足は皆きっとそう思ってる。俺も今助けてもらったばっかりだし。だからこそ、力を合わせる事で力を得られる」

「応!」


 元気を取り戻してくれたらしく、顔を上げて勢い良く頭上で斧を振り回す。見てて少し怖い。


「ラーリホー!!」


 天に向かって大声で叫ぶ。わざわざ魔人に知らせなくても、と囲まれる事を危惧したが、その心配は無用だった。

 彼が呼んだのは魔人ではなく、自分の味方だったらしい。集まりかけて来た魔人達を腕の一振りで薙ぎ倒しつつ、同じドワーフか? というレベルの巨体のおっさんが、その巨体を更に軽くオーバーする巨大な斧を担いでやって来た。


「おぉ! 皓皇陛下! お久しゅうございます! 覚えていらっしゃいますか、ドワーフの族長を務めておりますドルトバスでございます!」


 むくつけき髭面で嬉しそうに笑ったおっさ……ドルトバス族長は、俺の眼の前で膝を付いて頭を下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。