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女神の誓剣  作者: 長月遥
第七章 魔都エインヘリアル
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第百二話

「あ……、ぁ……っ」


 もし俺が『なり変わった』魔人なら。

 俺は、どうするべきなんだ?


「……っ」


 どくりと大きく心臓が鳴る。

 どうするべきか――なんて言ったって、本当は、俺はもうその答えを考えてしまってる。


 言わなければ、いい。

 これから先は何も思い出さなかった事にして、誰にも何も、言わなければ。

 そうすればそれで、済む……っ。


 俺が『今』皓皇なのは間違いない。何も気付かなかった事にして目を瞑っても、クリスタルの存在が本物な以上、精霊達は困らない。

 そう、例えル・テウストローゼが元皓皇なんだとしても、今のあいつは魔人だ。それも極めて非道な。


(俺の方が、まだマシじゃないのか……?)


 どくどくと心臓が痛む程に激しく脈打つ。

 それで良いのか、と自問する俺と、そうしなければどうするんだ、と罪悪感を覚える俺を非難する俺がいる。


(俺、は)



 ごんっ。



「っ!」


 もう何の予兆だか判るようになった、迷宮が変化する音にはっと俺は周囲を見回す。

 黒くなったり何だりはしていない。だからあまり大きな変化じゃなさそうだが――……

 油断は禁物だ。警戒しつつ辺りを見回す俺の目に、先程通り過ぎた小部屋が入って来る。


「ん……?」


 何だか間違い探しを見せられた時のような違和感があった。


(ガーゴイル像なんかあったか?)


 その記憶を振り返ってみて、しかしすぐにおかしいと感じた感覚の方が錯覚ではなかった事が証明された。ガーゴイル像を見ていた俺と、像に埋められたルビーの瞳がばっちりと合って。



クアァァァッ!



 一声高らかに鳴くと、動き出したのだ。

 その声に触発されたかのように、四方にいつの間にか配置されていた他のガーゴイル像も鳴き声を上げ、気合入れのつもりか、動く鎧(リビングアーマー)も拳を叩き合わせ動き出した。


輝炎爆(エル・フレアボム)!」


 手の平大の火球を生み、皆まで見ずに部屋の中に放り投げると扉を閉めてすぐ様脇の壁に退避。

 部屋の中で火球が爆発し扉が吹っ飛んだが、威力そのものは部屋の内側でだけ爆発した。

 しかし魔術で作られた石の使い魔と金属の使い魔は頑丈だ。ひび一つ入らず動いている。


霧氷の晶華エル・ダイヤモンドダスト!」


 何となく四大元素の魔術は効きずらいだろうなという予想が付いていたので、熱が冷めないうちに続けて水系統魔術を放つ。

 狭い部屋では逃げ場はなく皆凍りついたものの、内側で少しばかり抵抗する間があって――しかし表面にぴしりと入った亀裂を皮切りに、内側から砕け散る。


「素でやったら抜けられてたな」


 しかし石であり金属である以上、急激な温度変化はやはり効いてくれた。リシュアかライラがいれば多分一発でも大丈夫だな、この様子だと。


「……」


 目の前のガーゴイル達は動かなくなったが、にわかに城の中が騒がしくなってきた。多分俺達――がメインかどうかは判らないが、探しているのは間違いないだろう。


 砕け散った使い魔達の破片を見ながら、痛感する。


(俺は死にたくない)


 皓皇は――いや、ル・テウストローゼは俺を許さないだろう。ルトラだって自分を殺した相手を許す訳がない。記憶がないのなんて、やられた方からすりゃだからどうしたって話だろう。

 正しいのはきっと、俺が死ぬ事だ。そして、どうすればそんな事になるのか判らないが、奪ったクリスタルを返す事。


 だがその時、俺はここで全てを失ってただ憎まれながら死ぬ事になるんだろう。

 俺が何を欲してそんな凶行に出たのかは、今の俺には判らない。

 ただ今の俺が言える事は一つだけ。


(嫌だ)


 死ぬのは怖い。嫌われたくもない。

 だから俺は――何も言わない事を、今心に決めた。


(これで俺は今生でも、精霊の裏切り者か)


 きっと元々は精霊でもないんだろうから、仲間だなんて思われてもないんだろうけど。





「――皓皇様!」

「陛下……っ」


 俺と同様、彼女達も俺を探していてくれたんだろう。三階ほど上がった所でリシュア達と再会した。

 たかが三階分ではあるのだが、敷地が広い上、部屋を全部開けて回っているので、かれこれ一時間以上は経過している――気がする。時間が判らないからはっきりとは言えないが。


「リシュア、ライラ。無事で良かった」


 やっぱり二人一緒にいたんだな。そこが何より良かった。


「ウィシュヌは? 見かけたか?」

「いいえ。けれど心配はないでしょう。彼女は魔眼の女帝。己に振り掛かる危機ぐらい、自分で回避するはずです」


 リシュアの物言いは凄く冷ややかだ。会ったばかりの頃の人間達に対する感じとそっくりだ。


「女帝は……っ、陛下を、襲い、ました……っ。宣戦布告、ですっ。死んでも全然、構いま、せん……ッ!」

「物騒な事言うなってば。俺やクートに好意持ってる分、俺達にとってはありがたい女帝だぞ」


 最近ちょっと過激思想なのが見え隠れするようになったライラの頭を撫で、俺は一応そう忠告しておく。

 好意の形が好意と本当に呼んでいいのか自信ないけど、敵対しようとしてないのは本当だからな。国同士の付き合いである事を思えば、ありがたい相手なのは確かだ。


「しかしこれ、どうなってるんだ。判るか?」

「魔術なのは間違いないとは思いますが……。城を作り変えるだけの術ではないでしょうか? 緊急時の避難や敵に侵入された時のためなどの」

「ああ、そうかもな」


 ウィシュヌは術の正体をちゃんと知ってたっぽかったし、そうなのかもしれない。

 ただ、何で今なんだ? って疑問は残るけどな。


「誤作動だったらいいんだけどな」

「これ程の大規模魔術に間違えての発動はないと思われます。何が起きているか、一刻も早く把握するべきかと」

「そうだな」


 やはり当初の目的は変わらずだ。この迷宮と化した城を出よう。

 ただ一つ改善された点があるなら、リシュア達と合流できた事。もう全部の部屋を確認する必要はない。


 多分だけど、ルトラはこの地下にはいない気がする。ウィシュヌは……俺達が探すよりも、ウィシュヌから探して出て来てもらった方が絶対早いし、あえて探さなくても大丈夫だろう。

 駄目だったら戻ってくるさ。とにかく今はどうなっているかが知りたい。


「良し、行くか」

「はい」


 頷いてから、俺の顔を見てリシュアは少し首を傾げた。


「……どうかされましたか?」

「え?」

「いえ、気分が優れないようですので」

「え」


 言われてぎくりとして固まった。嫌な事を考えないようにするのは割と得意だから、気付かれないよう繕えてたと思ったのに。


「……?」


 いや、でもそうバレバレでもないっぽい。ライラの方は不思議そうに俺とリシュアを交互に見てる。


「……気のせいだったでしょうか」


 俺が驚いて固まったのと、ライラの不思議そうな反応に、リシュアは自信なさ気にそう言った。

 ……気のせい、では本当はないんだが。


「ああ。別に何でもない」

「そうですか。申し訳ありません」


 何があったのかとか、言及されると困るので、悪いが気のせいだという事にさせてもらった。


(もし俺が皓皇を『奪った』んだと知ったら……リシュアはそれこそ俺を憎悪するんだろうな)


 さっきのウィシュヌへ向けた程度の物なんか、生温いぐらいに。

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