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女神の誓剣  作者: 長月遥
第七章 魔都エインヘリアル
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第九十八話

「じゃあ、ユーリィ。後頼む。ツィアルも」

「ええ、任せておいて」

「いってらっしゃいませ、皓皇様」


 森の出口まで見送りに来てくれたユーリィとツィアルに手を振って、俺達はユニコーンに跨ると、白の森を後にした。

 メンバーは俺とリシュア、ライラ、ルトラ。このご時世に出掛けるには少々不安な精霊オンリーパーティーだ。


(ユニコーンも、やっぱ普通に乗せてるよなあ)


 まあ、ルトラは精霊だし。弱いけど、確かにエレメント感じるから間違いないし。

 ルトラじゃないかもって話をアリストとしたが……。今の所、ルトラじゃない感じも一向に見せない。


「そう言えば、リシュア」

「はい」


 道程は完璧にユニコーンに丸投げで、俺は半身程後ろを走るリシュアへと声をかける。


「魔族の王ってどんな人だ?」

「……」


 珍しく、返って来たのは沈黙だった。しかもそこはかとなく不機嫌な物が滲んでいる気がする。


「ウィシュヌ・サラス・エンヴァリティー。額に第三の眼を持つ魔眼の女帝です」


 だっ、第三の眼……っ。ついに来たか……っ。


 しかし会う種族会う種族、メジャー級ではなく準メジャー級なのはなんでだろう。セイレーンとかドリアードとか。あ、でもドワーフは有名所か。


 後はフツカセにハイエルフとホーリーエルフがいるらしいとか、プルオーネにダークエルフがいるらしいとか。


 ちなみに、俺の中のドワーフイメージとりあえず『ラリホー』だ。そして斧。そして穴蔵。背が低くでがっしりした体格の、鍛冶屋とか良くやってる種族。多分そんなに間違ってないと思う。


「お気を付け下さいませ、皓皇様」

「危ない人なのか?」


 凄く短気だとか、暴力的だとか? 両方嫌だな。


「魔眼には幻術を始め、人を惑わす類の力が多く備わってるからね。今の僕達だとまともに見ると危ない。多分引っ掛かるよ」

「使って来るような人なのか?」


 そんなの話し合いの席にすら着けないだろう。『友好的』どこ行った。やっぱり力がないと上手くまとまらないものなのか……。


「十中八、九、使って来ると思われます」


 リシュアが言うならそうなんだろう。

 確かに、あんまり会いに行きたくはない相手っぽい。幻術とか心身操作ってのは、強力な上に卑怯な感じがする。せめて使いどころは選んで欲しい。

 そしてただ話し合いに来ただけの相手に使うのは勘弁して欲しい。


「本来ならハルトは会わない方が良いんだろうけど、足元見てる来るだろうから、会わないと先に進まないだろうね」

「俺限定なのか? ルトラは?」


 美形度合いで言えば俺、というか皓皇もルトラも変わらないぞ。


「僕は大丈夫。嫌われてるから」


 それは大丈夫なのか? 笑いながら言う事じゃなくないか? それ。


「後危ないのはクートだけど、幸い今はいないからね」


 いないのは捕えられてるからだから幸いじゃないんだが、本当は。言葉の妙だ。


「危ないって、何されるんだ。殺されたりする感じなのか」

「いえ、その可能性は極めて低いと思われます」

「せいぜいが一生軟禁されるぐらいだよ」

「それは大事だぞ!?」


 どうする、行った方がいいのか、エインヘリアル。迂回した方がむしろ良くないか!?


「……ジ・ヴラデスと同じ感じなのか……?」

「少し違います」

「そっちを心配しなきゃいけないのはクートだから。ハルトはねえ、『お兄様』なんだよ」

「はあ?」


 何だ、その聞き慣れないむずがゆい響きは。


「ちなみにケルガムの二人は『メイド』と『人形』だったかな。僕は『その辺で転がって動かない死体』らしい」


 その辺に死体が転がってたら怖いぞ! つーか死体動かないだろ、指定しなくても! どこまで嫌われてんだお前!?


「ウィシュヌは自分の設定の役割に従った発言をしないと聞く耳を持たない。気をつけて」

「ってか、お前それじゃあ発言権ねーじゃん」

「うん、そうなんだよ。でもそれはあまりに不便だろう。前はただの『死体』だったから、屍鬼(グール)なんで、とか言って喋って動いてたら指定された。今度はどうしよかな……」


 くつくつ、と目を眇めて笑うルトラの笑顔がとても怖い。顔可愛いはずなのに、全然可愛くない。むしろ怖い。


「まあ、何となく判った。つまり、我がままなんだな?」

「はい。軽く度を越した我がままです」


 しかしまあ、設定『兄』なら何とかなるだろう。俺姉弟の下だけど。


「でもリシュアがメイドか。秘書とか近衛とかのが似合うのにな」


 ライラの『人形』については何となく納得してしまうので突っ込まない。どうかとは思うけど。


「皓皇様のものであれば、メイドでも庭師でも一兵卒であろうと構いません。ですが、魔帝は私に彼女のメイドとしての役割を押しつけるのです。皓皇様が彼女のルールに従うのなら、勿論私は従いますが」

「私も……です」


 でも、面白くはないんだな。良く判った。


「しかし自分のメイド役か。また随分気に入られてるんだな」


 俺も兄だし。光の精霊族が好きなのか?


「本当に、そう思われますか?」

「え」


 押し隠そうとしつつ漏れ出でる不機嫌を維持したまま、リシュアはそれを極めて冷静を装った声で聞いてきた。


「ち、違うのか?」

「気に入られているのは貴方なのです! どうか、お気を付け下さい。外見に惑わされず、決して油断されないように……!」

「判った」


 ここまで強く忠告されるって事は、外見、よっぽど無害そうなのかな。


「ま、行ってみれば判るよ」


 俺の内心を見透かしたようにそう言ってくすりと笑うと、ルトラはそう締めくくった。





 魔都エインヘリアルは、魔術の都。

 町の門番は人型ゴーレムとガーゴイル像。動いてなかったけど、招かれざる客には反応して動くんだろうと想像させるに余りある、生き生きとした造りだった。


 町に入れば入ったで、そこかしこを巡回するのは動く鎧(リビングアーマー)。見掛ける労働者は皆雰囲気が同じ判子顔で、彼等は人工生命体(ホムンクルス)らしい。


 町並み自体は人間のそれと大差ないが、行き交う人の外見的特徴はかなりバラバラだ。和風の鬼のような一本角を額から生やしている人もいるし、側頭部に羊の角を生やした人もいる。

 妖突の耳だけで済んでいる人の次に、エラが生えている人と普通にすれ違ったりとか。


「多種多様だな……」

「そうだね。ここ程節操のない町は他にない」

「けれど、そこが魔族の強みでもあるのです。持ち得る力が皆バラバラの上、秘密主義ですから」

「魔術の……奥義、口伝でしか残さない、と、聞きます……」

「へえ」


 そう言えば精霊の使う精霊魔術はどうなんだろう。

 俺は始めにジ・ヴラデスと戦ってから、その場その場で必要だった魔術が思い浮かんで普通に使えてたけど、アレは皓皇の記憶なんだろうし、覚えたのとは違う。


「リシュア達はどうやって魔術覚えたんだ?」

「先に生まれた者より教わります。けれど、一番初めに私達に魔術を伝えて下さったのは皓皇様です」

「へえ。ルトラは?」


 俺が記憶を失っている事を知っているルトラは、もうこの手の質問に意外そうな顔をしたりはしない。普通に答えてくれた。


「僕達は自分の属性の魔術は始めから全部識っているよ。司だからね」


 成程、別に女神から手ほどきを受ける訳じゃないのか。


「――さ、見えてきたよ。城門だ」

「……」


 俺以外は全員記憶のある町の様で、ほぼ迷わずにその石階段の下まで辿り着いた。何百段あるのか気の遠くなる上り階段の上に、確かに城が見える。


「……やっぱり、行かなきゃ駄目か?」

「皓皇様が行かないと仰るなら、無論、私達は従います」


 リシュアからは、当然の如く俺の判断に丸投げの返事。しかし。


「僕は今は戦力外だからあまり強く言えないけど、土の宮を助けに行くのに、背面のエインヘリアルを気にしながらは良くないと思うよ」

「う……っ」


 それなりの友好関係だった――のは、以前の話。今女帝ウィシュヌが何を考えているかと知っておくのは必要な事なのだ。尤も過ぎる。


「……判った。行こう」

「だから言ったろう? 滅してしまえばいいんだ、他種族なんて。力のあるうちにやっておけば、今こんな苦労しなかったんだよ?」

「……プルオーネにも、人はいないのか」


 やはり柔らかな笑みを湛えながら言われた言葉に、俺はフツカセの事を思い出して、ついそう問い掛けていた。


「……あ、いや……」


 当然、というのに準じる台詞が返ってくるかと思ったのに、意外にルトラは答えに詰まった。


「プルオーネには、いるよ。まあ人間には少し住みずらい環境だから、少ないけど」

「ああ、食べ物とかな」


 快適だと感じる環境に大差はないけど、そこは俺達精霊と人間の大きな差だ。日照時間が短く気温も低めのプルオーネでは、作物が育ちにくいんだろう。

 でも、意外だ。


「意外か?」

「う。まあな」


 俺の顔色を読んだんだろう。ルトラの方からそう聞かれて、俺も正直に頷いた。だってなあ、あんなに排他主義だから、てっきり。

 いや、勿論喜ばしい事だけれども。


「今の僕なら迷わないよ。でも、六百年前は迷ってたんだ。……これでもね」

「……あ」


 例の、人間の裏切りで大勢をひっくり返された一件か。


「そして今の僕には力が無い……ッ。口惜しいね……ッ!!」

「ルトラ……」

「そういう訳で、僕は凄く後悔しているんだよ。行きたくないってなら、君も少しは後悔していいんじゃないか? ハルト」

「良し、ウィシュヌに会いに行こうか」


 ぱん、と一つ手を叩くと、俺は見上げると億劫になりそうな石階段への挑戦を開始した。


「うわ。傷付くなあ」


 後ろから聞えよがしなルトラの言葉が聞こえたが、黙殺した。

 皓皇が人嫌いなのは確かだが、それでも虐殺はしなかった。それを後悔するだなんて――そんな事有り得ない。


(……あれ?)


 そう言えば、人間は嫌いっぽいが、より嫌ってておかしくない魔人に対しても、同程度の反発しかないよな。

 六百年前の事が最後の一押しになったんなら、魔人こそを嫌悪してていいだろうに。


(……っと、ヤベ)


 皓皇の――過去の事を考えてしまいそうになって、俺は意識的に思考を逸らした。


(今は駄目だ)


 万一にでも倒れたら、シャレにならん。

 今はそう――先の事だけを考えよう。

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