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三国志新劉封伝~転生したら劉備の養子の側近だったので蜀漢の為にはたらきます~   作者: umenohoke


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第9話 賢者の憂い

「 ……ひどい有様だな、高衛殿 」


振り返った徐庶の瞳には、少しの同情と、それ以上の深い理知が宿っていた。


「 単福先生。……お恥ずかしいところを。趙雲殿の槍というのは、避ける以前に、空気が刃物になったかのような錯覚を覚えます 」


「 ははは、あれは『 人 』の域を超えた神速。それをまともに受け続けて生きているだけでも、お前はなかなかに頑丈だよ 」


徐庶は隣に来るよう手招きした。

彼は懐から小さな竹簡を取り出し、俺に見せた。


「 武勇を磨くのは良いことだ。だが、お前のような男は、こっちの方を好むのではないか? 」


それは、この時代の兵法について徐庶が独自に注釈を加えた覚え書きだった。

前世、画面越しに「 計略 」として処理していた知識が、実務家である徐庶の手によって生々しい「 技術 」として記されている。


「 ……先生、これは? 」


「 お前は、劉封殿の影だ。主が突出しすぎるのを抑え、戦場の流れを読み、最悪の事態を避ける。そのためには、槍一本の重みよりも、戦局を俯瞰する目が重要になる 」


徐庶は俺を見つめた。

その目は、俺がこの時代の人間ではないことを見抜いているわけではないだろうが、俺が「 ただの従者 」以上の何かを抱えていることは察しているようだった。


「 お前は、この先、劉備様と劉封殿がどうなると見ている? 」


心臓が跳ねた。

未来を知る者として、一番聞かれたくない質問だ。


「 ……私は。若殿が、誰よりも劉備様を慕い、その期待に応えようと足掻く姿を見ています。ですが…… 」


「 ですが? 」


「 光が強ければ、影もまた深くなる。父子の情が深ければ深いほど、それが綻(ほころ)んだ時の傷も深くなるのではないかと……。私は、それが恐ろしいのです 」


徐庶は黙って月を見上げた。

彼は、もうすぐ自分がここを去らねばならない運命――母を人質に取られる謀略――が迫っていることを、まだ知らない。


「 高衛。お前は賢すぎる。だが、その賢さが自分を追い詰めることもある。もし、私がここを去るようなことがあれば…… 」


「 先生? 」


「 いや、独り言だ。……もしその時が来たら、劉封殿を頼む。あの若者は真っ直ぐすぎる。お前のような『 折れぬ心と、冷めた目 』を持つ者が、彼の道標とならねばならん 」


徐庶はそう言って、俺の肩にポンと手を置いた。

趙雲の打撃とは違う、静かな重みがあった。


( ……この人は、もう予感しているのかもしれない。自分の知謀だけでは、この乱世の巨大な因果には勝てないことを )


「 先生。私は、若殿を死なせません。たとえ、歴史がそれを望んだとしても 」


俺が漏らした独り言に、徐庶は不思議そうな顔をしたが、それ以上は何も聞かなかった。


数日後。

曹操軍からの使者が、一通の手紙を携えて新野に現れる。

それは、徐庶という稀代の軍師を劉備から引き剥がす、残酷な罠の始まりだった。

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