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三国志新劉封伝~転生したら劉備の養子の側近だったので蜀漢の為にはたらきます~   作者: umenohoke


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第2話 嵐の前の静寂と、新たな主従

数日が過ぎた。 高衛(佐藤健司)は、この時代の生活にも、そして「高衛」という自身の身体能力にも驚くほど早く馴染んでいった。 SE時代に培った分析癖は、混沌とした今の状況を整理するのに大いに役立っている。


「 叔誠、また書物を読んでいるのか? 武芸の稽古はどうした 」


練武場の縁側に座る俺に、寇封が呆れたように声をかけてきた。 その手には相変わらず木剣が握られている。


「 若殿、武芸は欠かしておりません。ですが、これからの時代、剣を振るう腕だけでは、大切なものを守り抜くことはできません 」


俺は手元の竹簡――この時代の「本」――を閉じ、若き主君を見上げた。 史実の劉封は、確かに強かった。 だが、彼は「政治」と「家督」という、剣では斬れない理(ことわり)によって、死へと追いやられたのだ。


「 守る? 羅侯の末裔であるこの俺が、誰に負けるというのだ。曹操か? 孫権か? 」


「 ……あるいは、身内かもしれません 」


「 身内? 叔父上たちのことか? 冗談はやめろ 」


寇封は笑い飛ばしたが、俺の目は笑っていなかった。 まもなく、劉備がやってくる。 彼はこの少年を養子にする。


そこまではいい。 だが、その後に実子の劉禅が生まれれば、劉封は「邪魔な長嗣(ちょうし)」へと変貌してしまう。 関羽や諸葛亮といった怪物たちが、主君の血筋を守るために劉封を冷遇する未来が、俺の脳裏にはアーカイブのように存在している。


「 若殿、お聞きください。まもなく、この荊州に大きなうねりが来ます。北の曹操に敗れた『梟雄』が、この地へ逃れてくるはずです 」


「 梟雄……劉備玄徳のことか? 」


「 左様です。劉備様は仁徳を謳っていますが、その本質は人心を掴む天才です。もし彼が貴方を高く評価すれば、貴方の人生は一変するでしょう。……しかし、それは諸刃の剣です 」


俺は立ち上がり、寇封の前に膝をついた。


「 若殿。どうか、私を信じてください。これからは武芸だけでなく、兵法と、何より『謙虚』という盾を身につけていただきたい。人並み外れた武勇は、時に嫉妬と危惧を招きます 」


寇封は、いつもと違う俺の真剣な雰囲気に気圧され、戸惑ったように木剣を下げた。


これまでの高衛は、ただの従順な従者だった。 だが、今の俺の目には、未来を見据える者の光がある。


「 叔誠、お前……あの手合わせで頭を打ってから、まるで仙人にでも会ったような口を利くようになったな 」


「 仙人ではなく、ただの『慎重な男』になっただけです。……おや? 」


その時、屋敷の門の方から騒がしい足音が聞こえてきた。 伝令の男が、息を切らして駆け込んでくる。


「 若殿! 寇覧(こうらん)様がお呼びです! 予州牧、劉備様がここからほど近い新野に入城されたとのこと! 挨拶の準備をせよとの仰せです! 」


寇封の顔が、期待にパッと輝いた。


「 劉備様が……! 叔誠、聞いたか! お前の予言通りじゃないか! 」


「 ……来ましたか 」


俺は静かに拳を握りしめた。 いよいよ、物語が回り始める。 劉備との出会い。それは劉封にとっての「飛躍」の始まりであり、同時に「処刑」へのカウントダウンの始まりだ。


「 さあ、行きましょう若殿。歴史に名を刻みに行くのです。……ただし、私の言葉を忘れないでくださいよ 」


「 わかっている! お前は俺の軍師みたいだな、叔誠! 」


快活に笑い、駆け出していく寇封。 その後ろ姿を見つめながら、俺は心の中で自分に言い聞かせた。


(佐藤健司、お前のデバッグ能力を見せてやれ。この世界から『劉封処刑』というバグを取り除いてやるんだ)


高衛は、主君の影に寄り添うように、静かに歩き出した。

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