↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三国志新劉封伝~転生したら劉備の養子の側近だったので蜀漢の為にはたらきます~   作者: umenohoke


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/13

第12話 博望坂

 新野の風が、にわかに殺気立ち始めた。

 孔明が軍師となってすぐ、曹操軍の重臣夏侯惇が攻めかかってきた。

無名の軍師の品定めのようだ。



 曹操軍が十万と号する大軍を率いて南下している。対する劉備軍は数千。まさに多勢に無勢、普通に計算すれば「詰み」の局面だ。


「……廖化殿。あまり身を乗り出すと、見つかりますよ」


 博望坡の起伏に富んだ林の中。俺――高衛(叔誠)は、共に伏兵を命じられた若き将・廖化の腕をそっと引いた。

 廖化は元黄巾党という経歴を持つが、その瞳には実直な熱意が宿っている。


「すまない、高殿。だが、軍師殿の初陣だ。我ら若手がしくじれば、関羽・張飛の両将軍に合わせる顔がない」


 廖化が緊張するのも無理はない。今回の作戦は、諸葛孔明が提示した「極めてハイリスクな仕様書」に基づいている。


 二人の視線の先には、主君・劉封がいた。


 今回の策では、劉備様と劉封が「敗北」を装って敵を誘い込み、この林に火を放つことになっている。俺と廖化、そして関羽殿の養子、関平殿が率いる部隊の任務は、火計の火種を確実に守り、敵の退路を断つための「奇襲班」だ。


「……叔誠、準備はいいか」


 劉封が、馬を下りて低く構えながら俺に問う。その顔には、趙雲殿との修行で培われた粘り強さと、父・劉備に認められたいという切実な願いが混在していた。


「準備は万端です。……若殿、くれぐれも深追いはなさらず。我らの役目は、敵を討つことではなく、敵を『焼く』という工程を完遂させることにあります」


 俺は、懐に隠した火打石を確かめた。

 現代のSEだった頃、サーバーの不具合を予測して事前に対策を打つのは得意だった。


だが、目の前で迫りくる「夏侯惇」という名の巨象を、数本の火矢で転ばせようとするこの計画は、あまりに綱渡りに見えてきた。


 やがて、平野の方から地響きが聞こえてきた。

 夏侯惇の精鋭部隊が、わざとらしく退却する劉備軍を追って、この狭い博望坡へと流れ込んでくる。


「来たぞ……!」


 廖化が剣を抜こうとするのを、俺は制した。


「まだです。敵の殿が、あの枯れ木を通り過ぎるまで……」


 計算通りだ。夏侯惇は、劉備様を討ち取る功名心に駆られ、地形の危うさを無視して突き進んでいる。

 やがて、孔明が放った合図の火矢が、夕闇の空に弧を描いた。


「今だ! 火を放てッ!」


 劉封の号令が響く。

 俺は廖化と共に、あらかじめ仕込んでおいた枯れ草の山に火を投げ込んだ。

 折しも吹いてきた強風が、猛烈な勢いで炎を煽る。瞬く間に、博望坡は真っ赤な地獄へと変貌した。


「火だ! 伏兵だ! 退け、退けッ!」


 敵軍の悲鳴が、爆ぜる木の音に混じって聞こえてくる。

 俺は、煙に巻かれながらも、逃げ惑う敵の小隊の前に躍り出た。


(……子龍殿に教わった通りに。迷うな、真っ直ぐに……!)


 槍を繰り出す。趙雲殿のような神速ではないが、少なくとも自分を狙う刃を冷静に見極め、廖化と背中を合わせながら活路を開く。


「叔誠、右だ!」


 劉封の剣が、俺の死角から迫った敵を斬り伏せる。

 だが、炎の熱にあてられたか、劉封の瞳に功名心の火が灯るのが見えた。敗走する敵将の旗へ向け、さらに奥へと踏み込もうとしている。


(……マズい。このままだと、ここで功を焦って関羽殿に叱責されるパターンだ!)


「若殿、深追いは無用です! 炎が回る前に、我らも脱出を!」


 俺は、敵陣に突っ込もうとする劉封の馬の轡(くつわ)を、強引に掴んで引き止めた。


「放せ叔誠! 夏侯惇の首はすぐそこだぞ!」


「いいえ! 軍師殿の指示は『焼き払うこと』です。ここでの深追いは作戦の例外《エラー》になります。生きて戻ることこそが、父上への最大の忠義です!」


 俺の必死の形相に、劉封は一瞬呆気にとられたが、すぐに毒気が抜けたように笑った。


「……ふん、分かったよ、小言の多い軍師殿。廖化、撤退するぞ!」


「承知!」


 三人は炎の海を背に、闇夜を駆け抜けた。

 背後では、曹操軍の精鋭たちが、火と煙の中で自滅していく阿鼻叫喚が続いていた。


 本陣に戻り、燃え盛る山を静かに見つめる孔明の姿を見たとき、俺は安堵とともに背筋が凍るのを感じた。

 彼は一度も剣を振るうことなく、ただ「論理」だけで十万を焼き尽くしたのだ。


「……叔誠。あの方がいれば、俺たちは負けない気がするな」


 劉封が晴れやかな顔で言った。


 だが、俺は知っている。孔明というOSは、味方に対しても時として冷徹な「最適化」を要求することを。


 劉封がバグとして処理されないための戦いは、まだ始まったばかりだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。