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異世界から来た聖女より──誰もいなくなった世界へさようなら。私はこの世界を断罪する。  作者: ゆずリンゴ


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 陽気な歌を歌いながら森を歩く少女がいた。

 連である。

 彼女は一人でクレイと住む家を抜け出してある場所――人間達が住む街へと向かっていた。


「記念日、記念日♪今日はとっても素敵な記念日だ」


 何を歌っているの、と問うなら「記念日おめでとうの歌」とでも連は答えただろう。

 彼女自身も歌いながらおおよそ一年前にあった家族とのやり取りを思い出して胸に様々な思いを募らせていた。


 連はこの日を「記念日」と歌っているが、早い事で異世界に呼び出されてから、そしてクレイと出会った日から少なくとも一年という時が経っていた。家にカレンダーがあるわけでも、あの日から日数を正確に数えていたわけでもないから決まって一年というわけではない。

 それでもクレイと過ごしていく日常の中に「特別な何か」を贈りたいと思った連がこの日を二人が出会った特別を祝う日と決めてサプライズ計画を実施することにしたのだ。


 内容は簡単に家を飾るお花や普段は食べることのない美味しい食べ物を買ってきて、それをクレイと共に楽しむ。

 せっかく美味しく調理した食べ物もクレイが触れれば生命力を吸うだけで枯れ果て、味の有無も関係ないように思えるが枯れるのは触れた物だ。連がものを伝って直接食べさせてあげることはできるかもしれない。

 口内に入れただけで枯れ果てるという可能性も否めはしないが、生命力を吸うのが木か調理されたものかで感じ方も違うだろうし、何よりクレイが喜んでくれるのならそれでいい。


 街のある場所は計画を思いついた事で、連は何気なく人間が暮らしている場所を聞いた。クレイは少し悲しそうな顔で「やっぱり人間と一緒に暮らしたい?」と聞いてきて胸がぎゅっと締め付けられると共に咄嗟に否定の言葉を口にしたのだが、クレイの胸の奥には傷が残っただろう。

 あの日に静かにクレイに渡された硬貨の入った袋を持ちながら歩いた。


 街に着いて改めて自分が異世界に来たという事を再度認識した。住宅の様式というのは日本では多くが木造だが、そこにあったのは重圧な石造りのヨーロッパを連想させる街並みだったからだ。街を歩く人達の髪色もほとんどがオレンジがかった色だった。

 辺りに掲げられた看板にある文字は異世界であることを象徴したように見た事のない文字で書かれており、それなのに街の人たちの言葉は日本語として聞き取れる、何ともチグハグした世界だ。


 周囲を散策して、店の食べ物を見れば日本で見たことがあるような似た食べ物もあったし、そうでないものもある。

 お花屋さんも目新しいものばかりで、クレイとの生活に慣れていた連は心を踊った。


 何時間もかけてようやく欲しいものを調達した連。色々な場所を見て回ったことですっかり日は西に傾きかけている。街の奥の方まで来ていたようだ。


 ――早くクレイのいる家に戻らないと。


 そう思って足早に来た方へ足を戻して歩き始めて、すぐのこと。

 ある店の前の前に小さな人だかりができている。


 それがどんな騒ぎであろうと、連には関係ない事でそれを無視して通り過ぎるべきだったのかもしれないが、深く濃い血の匂いが連の足を止めた。その場に倒れた少年を中心に小さな血溜まりができている。脳裏にあの日の光景が掠めると共に連の足はその少年に駆け寄り、躊躇することもなく力を使った。


 すると、今にも消え入りそうな程に弱々しい息をしていた少年をまるで元から何の傷もおっていなかったかのように治り、呼吸も安定するとその目が連を見た。

 しかし、連を見たのは少年だけに留まらなかった。周囲の人達の視線が連に集まっている。それにどんな感情が籠っているのか人によることだが、とても気分が良いとは言えない状況だ。

 先程まであった少年を囲んでいた輪は、自然と大きくなり連を逃がさないための壁へと変わり、ほどなくして騒ぎを聞きつけて現れた兵士によって連は本当の意味で拘束をされてしまい、それが運命を分けることになった。


 ◇


 街の1番大きな建物の地下室に連行されてしまった連。あの異質な力が見られたことで、魔女として裁かれるのかと思った。

 ――が、実際に言い渡された結論は違った。世界を救う救世主「聖女」だと。


 それを証明する為に人間の王は連に命令を言い渡した。始めは枯れた花を。次は病気の人を。そして死に果てた土地を治せと。連は全部治した。

 結果たちまち連の持つ力は世界に広まり誰もが彼女を「聖女」として敬うようになった。


 だからもう、連はクレイと会うことが出来なない。周囲にはいつも人がいて、その目を掻い潜ってクレイが待つ森に行けるはずが無くて。焦りが日に日に胸に募る。


 人間の街に行くことを匂わせ、それからすぐにクレイの元から消えてしまった。

 クレイに幸せな日をあげるはずだったのに、それどころかまた一人ぼっちにするなんて。嫌だ──会いたい。早く行って、全部誤解を解きたいのに。この世界で一番好きな人に、一番幸せにしたい存在。


 でも、皆が嫌いな魔女に会いたいだなんてこの場の誰にも言えない。もし、抜け出した所を付けられてクレイの場所がバレたらいけないから。


 ――()()()()()()()、私は言えない。


 そう思って、ずっと、救って、ずっと、生きて、連は人間の為に生きる聖女になった。


 聖女の仕事は人を救うこと。世界を救うこと。悪い魔女のせいで燃えた森を戻した。

 悪い魔女のせいで枯れた街を人間が住めるようにした。悪い魔女のせいで育たない食物も、連がいればスクスク育つ。


 存分に力を使って世界を救う。

 全部救えば、きっといつか解放される。


 でも人間は愚かです。


 人間は聖女に救いを求めました。

 心までもを救うことを。

 

 ──美しい花を踏みました。

 ──食べ物を粗末にしました。

 ――物を盗みました。

 ──妻以外を愛しました。

 ──人を悪くいいました。

 ──人を殺めました。

 ──それを許してください。


 許した。全部許した。自らの過ちの許しを乞いて、許さなければ、それを非道と呼ぶのが人間だったから。


 連はどうしたら良かったのだろうか。

 反省していないのは分かっていた。許すべきじゃない人間達を許すのもまた罪ではないか。大切な人を置いてこんなことをしている事が情けない。

 

 連もまた誰かに許されたかった。


 ──どうかこんな私を許してください。


 それに答える者はいない。

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