表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/52

49.小説

愛するマッテアへ


時はあっという間に過ぎ去っていきます。ドンレミ村で過ごすあなたとシエルの夏の日々が、穏やかで快適なものでありますように。こちらのように、夏の陽射しが暖かく晴れ渡っていますでしょうか。


朝の光が差し始めるたび、私は習慣的にバラ園を散歩します。園の露は透き通って輝き、花の香りがあふれ、心まで洗われる気分になります。昼過ぎには窓辺に腰を下ろし、芳醇な紅茶を片手に繊細な菓子を添え、静かに穏やかなひとときを味わいます。夕暮れ時には邸宅のメイドが灯りをともし、私の読書スペースを照らしてくれます。柔らかなアームチェアに身を委ね、書物の世界に浸り、文字がもたらす楽しみを噛み締めています。


しかし、この穏やかで素晴らしい日々を過ごす傍ら、私の心には常に貴方への慕いの念が湧き上がります。魔法学校で共に過ごした楽しい日々が、次々と思い出されてなりません。今、私たちは離れた場所に身を置いていますが、私たちの友情はバラ園の花々のように、最も鮮やかな色で咲き誇り続けていると私は信じています。


最近、屋敷に十五歳のメイドが新しく雇われました。私たちと同い年なのですが、どうしてもそそっかしい性格のため、メイド長から度々叱られています。その幼く純粋な顔を見るたび、無意識に貴方の姿を思い浮かべてしまうのです。貴方がアイスクリームをとても好きだったことを覚えています。そのため、屋敷の料理人に頼んで、わざわざ試作してもらったのですが、残念ながら上手くいきませんでした。機会があれば、自らの手で美味しいアイスクリームを作り、貴方と甘いひとときを分かち合いたいと切に願っています。


それから、最近小説の執筆に取り組み始めました。筆を執って物語を紡ぐことで、魔法への理解を深められると考えたからです。魔法を操るには想像力が不可欠ですから。そこで、私たちが共に旅した数々の出来事を題材に、ファンタジー冒険小説を書き進めています。どうか完成した作品を読んでいただき、貴重なご意見とアドバイスを賜りたいです。もし私の拙い邸宅に足を運んでいただき、小説の感想について語り合えたら、これほど嬉しいことはございません。


この手紙が春風のように貴方のもとへ届き、私の想いを伝えられますように。三人で私の部屋に集い、これからも素晴らしい思い出をたくさん紡げる日を楽しみに待っています。


いつまでも貴方を愛する

ハイディ


以上がこの手紙の全文となる。

この手紙はセーランド連合王国の公爵の邸宅から届けられたもので、差出人はハイディである。彼女はマッテアとシエルを邸宅へ遊びに招き、折を見て自作の新しい小説を読んでもらいたいと考えていた。


マッテアが手紙を読んでいる傍ら、シエルもそばで一緒に目を通していた。手紙に綴られたハイディのマッテアへの情深い言葉を読み、シエルは少しヤキモチを焼いた。


マッテアとシエルには専用の馬車と御者がなく、一台丸ごと馬車を借りるのは無駄が多すぎた。魔法学校へ初めて向かった時と同じく、二人は行商や旅人たちと相乗りで馬車に乗ることにした。


セーランド連合王国の公爵の邸宅に到着し、自身とシエルの名前を名乗ると、所作のキビキビしたメイドが出迎え、二人を案内してくれた。


「こちらがお嬢様のお部屋です。しばらくこちらでお待ちください。お嬢様は今、殿と面談中ですので、すぐに参ります」

言い終えるとメイドは部屋を下がり、ハイディの部屋の扉をそっと閉めた。


あたりを見渡すと、ハイディの部屋は豪華絢爛で、細部の隅々まで公爵の邸宅であることを物語っていた。ふと、マッテアは机の上に厚いノートが置かれているのに気づいた。「これがハイディが読んでほしいと言っていた小説なの?」そう思い、マッテアはノートを手に取り、ページをめくり始めた。


「あの……考えさせて……」ハイディは照れくさそうに呟いた。


「だめ!」マッテアの返答は断固として揺るぎなく、その口調に込められた拒絶の圧力に、ハイディは息が詰まりそうになった。


マッテアは一歩また一歩と迫り、圧倒的な存在感でハイディに逃げ場を与えない。マッテアは顔を上げ、ハイディと視線をぶつけ合う。頬は朱く染まり、その美しさに人は息を呑むほどだ。精神的な消耗が激しいにもかかわらず、ハイディは必死に平常心を保ち、その視線を受け止めた。


これほどまでに艶やかな金髪の美少女を前にすれば、誰もが胸をドキドキさせ、抗いがたい圧迫感に囚われる。ハイディも例外ではなく、マッテアの見つめ返す視線のもと、鼓動はどんどん速くなっていった。


大きな精神的重圧に耐え、ハイディはやっと言葉を絞り出した。「な、なぜ……?」


だが、ハイディの言葉が終わる前に、マッテアはそっと彼女の頬に手を添えた。唐突な親密な行動にハイディの全身がぶるりと震えた。寒さのせいではない、予期せぬ接触に驚きを覚えたからだ。だが、その驚きも長くは続かなかった。


ハイディは必死に目を離さずマッテアと見つめ合おうとしたが、マッテアは唐突に視線を逸らした。それを見て、ハイディは少し肩の力が抜けた。マッテアは上品に気持ちを伝える言葉を脳内で探し回ったが、適切な表現が見つからず、あやふやで隙だらけの曖昧な表情を浮かべるしかなかった。マッテアはハイディに語りかけた。「きちんと話し合わないと……私、不安になる」


「なんなのよ……突然こんなことを言われる私……」


ハイディが不満を漏らそうとした瞬間、マッテアはその考えを一瞬で脇に追いやり、真剣な面持ちでゆっくりとハイディに近づいた。美しい顔がハイディの眼前を過ぎ、耳元まで寄せると、マッテアの囁きはまるで毒のようにハイディの耳に流れ込んだ。


「話さなくていい、素直に従いなさい」


「え、あ……?」


ハイディの心臓は破裂しそうに激しく鼓動し、マッテアの強い魅力に抗う術を失った。だが、さらなる衝撃が彼女を襲った。


マッテアの唇が、ハイディの唇にぴったりと重なった。唐突な濃厚な接触にハイディは一瞬思考停止に陥ったが、押し返そうとする衝動を必死に抑えた。その心の奥底で、ハイディ自身もマッテアに惹かれていたからだ。


強引に拒絶すればマッテアを傷つけてしまう、それは本意ではない。そう考えたハイディは、マッテアのキスに身を委ねた。「この程度なら大したことない」と自分に言い聞かせ、恋人同士になった後なら、いずれ経験することだと、事前練習だと思い込んだ。


ハイディは余裕ぶった様子を装った。一方マッテアは両手をハイディの後ろ首に回し、体を抱き寄せたままキスを続け、さらに舌をハイディの口内に滑り込ませた。「ま、まって!」


マッテアの舌はそっとハイディの口の中へ潜り込み、優しく這い回り、温もりを伝えていく。蜻蛉が水面をかすめるように軽やかに、繊細にハイディの舌先をなぞる。奇妙な感触に包まれ、ハイディの頭の中は真っ白になった。


気がつけば、自分が何のためにここにいるのか分からなくなった。まるで頭から湖の底へ沈み込んだように、心はぐちゃぐちゃに乱れ、収拾がつかない。


マッテアがもたらす刺激に、ハイディはもう拒絶できない。この快感から離れられなくなり、溺れる子供のように両手をマッテアの背中に這わせ、ぎゅっと抱きしめた。マッテアは泣きじゃくる子供を慰める大人のように、再び舌で攻め寄せた。


丸三分間にも及ぶ長いキスの末、マッテアはやっとハイディから身を離し、一歩後ろへ下がった。ハイディの視界は完全に霞んでしまい、一瞬、自分の名前さえ思い出せなくなった。それでもハイディは、マッテアに何か返そうと必死になった。だが、濃厚なキスでしびれた舌はまるで言うことを聞かなかった。


「マッテア……」


荒い息を吐きながらハイディはぼやけた声で名前を呼んだ。一方のマッテアは、顔はもちろん真っ赤に染まっていたが、唇の端に笑みを浮かべていた。普段のマッテアからは想像もつかない、魅惑に満ちた笑顔。


「ただいま戻りました」ドアを開け、ハイディが話しかけた。「お待たせして申し訳ない」


「これが手紙に書いていた、私に読んでほしいファンタジー冒険小説のこと?」マッテアはノートを掲げ、顔を赤らめながらハイディに問い詰めた。


「きゃっ!」ハイディは絶叫を上げ、マッテアの手からノートを奪い取った。「見せたいのはこれじゃない」顔を真っ赤にしながら別のノートをマッテアに差し出し、「こちらこそ、読んでほしい小説」


マッテアはノートを受け取り、丹念にページをめくった。五ページほど読み進めたところで、胸元に抱えたノートの方へ視線を向け、話し出した。「出来は悪くない。だけど、胸に抱えているあのノート、いったい何それ……」


「そ、それは……こちらの小説とは別に、私の個人的な趣味というか……とにかく、このノートはマッテアには見せられない」ハイディは顔を紅潮させ、どもりながら言い繕った。


その時ふと、ハイディはマッテアの背後に立つシエルの眼光が殺気に満ちていることに気づいた。


「ハイディ」シエルは腹黒い笑みを浮かべて告げた。「ちょっとこちらへ来なさい」


恐怖に身が震えたハイディは、体を小さく震わせながらシエルに従い、部屋の隅へとついていった。「殺される……」嫌な予感が脳裏をよぎった。


シエルはハイディが胸にしっかり抱きしめていたノートを力強く引き抜くと、唇をハイディの耳元に近づけ、囁いた。「複写させてもらう」


ハイディは仰天し、目を見開いてシエルを見つめた。「で、でも登場人物は私とマッテアなのよ?大丈夫?」


「平気」シエルはあっさりと答えた。「書き写す際、君の名前を私に差し替えるだけだから」


「なるほど!だったら交換条件として、シエルが夢で見た『日本』の話をたくさん聞かせてくれない?」


「交渉成立」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ