剥がされる平穏
四つ目を下ろす。
そろそろ身体がきつくなってきた。
腰が重たくなってくる。
中学生になった子供。
中学になった途端に、毎日不機嫌になっていった。
そういう年頃なんだろうなあ、と少し微笑ましく思っていた。
が、ある日妻が「あの子最近ほとんど食事を食べないのよ、何かあったのか聞いても何もないっていうし、お父さんから聞いてみてくれない?」
そう言われて二階に上がり、こんこんと部屋をノックした。
「入るぞ」
と声をかけながら入ると、びくっとした背中がそこにあった。
何気なく聞こえるように「何してるんだ?」と声をかけながら勉強机の横に回ると。
机の上にビニールシートを覆いかぶせ、その上に乗せた兎の全身を解剖しているところだった。
剥がした皮は虫ピンで止めて腹部をメスで切り開いていた。
「どうして……」唾をのみながらか細い声が出た。
息子は「お母さんには言わないで!将来医者になりたいんだ」
「そうなのか?」
初めて聞く子供の将来の夢に戸惑いながらも、だからって中学生が兎の解剖なんてするか?と疑問に思いながら。
とりあえず納得することにした。
「その兎は解剖したらどうするんだ?それにその兎はどこで手に入れているんだ」
と聞くと、ぼそぼそとした声で「兎は学校の裏にわなを仕掛けて捕まえるんだ、解剖した兎も裏山で焼いて食べてる」と言った
「そうか、母さんが心配してるからちゃんとご飯は食べなさい」
「わかった」子供はそう返事した。
医者になりたいなんて、うちの子もやるじゃないか……
なんて思ったりもしていた。
医者になるには金がかかる、残業を増やすか、副業をするか。
などと考えていた。
五つ目を下ろす。
激しい腰の痛みに呻きながら、あと、一体と気を持ち直して下ろした。
なぜこんなことをしているのかわからない。
でも、何度もこんなことをしているような気がしている。
子供は高校生になっていた、学校から帰ってくるといつもすぐに部屋に籠ってしまう、顔を合わせるのは夕食の時だけになっていた。
その日は珍しく、会話が弾んだ。
きっかけは最近流行っている芸人のことだった。
子供が楽しそうに笑い、母親もそれを聞いて笑った、父親は新しいネタについて話し三人で楽しく話している様は、ぱっと明かりがともった様だった。
その時父親が、「医者になる勉強は進んでいるのか?」と聞くと子供はがたっと立ち上がった。
「ごちそうさま」
そう言いながらこちらを見たときの冷たい目。
思わずぞっとしてしまった。
母親の「どういうこと?あの子医者目指してるの?」
「嫌、間違えただけだよ」
と答えるしかなかった。
後日二人きりの時に聞いてみたが、読んでいた本を置く間も惜しいのか。
「ふうん」というどうでも良さそうな返事しかかえってこなかった。




