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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第一章

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08 魔女すら呆れる筋肉式ポンプを作ろう

 俺はマナミが渋々渡してくれた丈夫な布を持って、家の後ろに回った。


 見たところ周囲に障害物もなければ、見渡す限りの丘の大地が広がっているから、自由に使う裏庭として機能しそうだ。


 俺はできる限り、崖崩れしない位置に円を描いた。


 他にも大量の石や砂利が必要だったが、マナミが対応してくれるのでご厚意に甘えさせてもらうつもりだ。


「本気で飲める水を?」

「ああ、筋肉に誓ったっていいさ」


 俺はそう言って、筋肉を軽く伸ばしてから、描いた円の中心を本気で殴った。


 大地が軽く震えた。

 一点集中したおかげで、殴った地面は柔らかくなったようだ。


「じゃあ、ちょっと掘ってくる」

「犬か……でも、壁も食べるし、犬……前言撤回、変質者」


 俺は腕の筋肉を思う存分使い、全力で掘った。

 途中で色が変わった土を食べたが、食べられたものではないが筋肉が大丈夫なので、食べられる土だろう。


 ――この土、ミネラル豊富すぎだな。


 これで家庭菜園……いや、この土が台地の下地になっているから、食べた果実が極端なまでに水分を含んでいたのか。


 海の水が毒とはいえ、一部果実の栽培には使っている、とマナミが言っていたから間違いないだろう。


 俺は水が湧きだす、こぼれ始めた場所を少しほじってから、持ってきた丈夫な布が流されないように拳で固めた周りの土で固定した。


 地上に一度戻るために、上を確認してみる。


 垂直なまでに垂直すぎる穴だが、両膝を直角にして隙間を無くして飛んでいけば上に登れる。

 全ては筋肉、そう、筋肉は全てを解決する神様だ。


「出てきた」


 俺は地上に出るなり、真ん中をくり抜いた丸い木を何本も穴に放り込んだ。

 入れこんだ何本目かの木が地上に挨拶をしてから、マナミの方を見た。


「マナミ、この穴に俺が言った順番で砂利と石を入れてくれないか?」

「どのくらい必要?」

「そうだな」


 俺は筋肉がたどった形跡を考えて、マナミに必要な量を口にした。


 その瞬間、マナミはどこからともなく、砂や砂利、手ごろな石を布袋いっぱいに用意したんだ。


 その布袋は、元からそこにあったと思わせるほどの存在感がある。

 筋肉でもそこまで、数秒あってもできたものではない。マナミは本当に魔女なのだと、俺は魔法の恐ろしさを実感しそうになった。


「好きなだけ使って」

「ここは人力なのかよ」

「魔法は万能じゃないの」

「まあ、魔法は休んでな、俺の筋肉が――」


 魔法でマナミが消し去ってきたあたり、黙って働け、と暗に示しているな。


 俺は布袋に入った砂や砂利を、円の中に納まるようにしながら順番に入れこんだ。


 砂、砂利、手ごろな石の順番で。


 毒をろ過するだけなら、活性炭をフィルターとして間に挟む必要はないが……飲む際に少しばかり心配だ。


 そもそも、毒を取り除くっていうよりも、海の水を地上まで汲み上げる目的がある。

 毒は場合にもよるが、筋肉か熱でどうにかできるし、試し呑みで毒の種類がなんとなく分かればいいだろう。


 それに、水に少し触れた筋肉的には、沸点を超えた百度近くで問題ないと言っているので信じるに限る。


 俺は砂などを入れ終えてから、出っ張るように存在感を露わにした木材の横に穴を開けた。そしてその穴の側面に木で作った排出口を取り付けて、蓋をするように上から手持ち付きに加工した木を差し込めば完成だ。


 見た目こそ自転車の空気入れに似ているが、大きさや排出口がついているのを見ればその比ではない。


「何、これ?」

「言ってしまえば、筋力ポンプだ」

「ポンプ?」

「俺が生きていた世界で編み出した、汚い水をろ過しつつ、筋肉の力で水を上に吸い出す最高に筋肉している装置さ」

「装置? やっぱり、脳内も筋肉?」

「失礼だな。まあ、今からこのポンプの実力を見せてやるよ」


 俺は排出口の下に木製のバケツを置いてから、ポンプの手持ちを持った。


 そして筋肉に力を入れて、一気に押し込み、一気に引く、を繰り返す。

 丘と海の高さ的にも数百はくだらない高さだが、俺の筋肉は負けを知らない。


 なぜなら、俺の信じる筋肉があり、筋肉が信じる俺がいるんだ、体力は筋肉が尽きない限り永久的にあるも同然だ。


 筋肉は徐々に熱を帯びていき、勢いを増していく。

 問題としては木の耐久性だが、ここの木は一段と丈夫なので問題はないだろう。


 ずっと見ていたマナミは、呆けたように口にした。


「他の人、王国の人は真似できない。……真似しちゃだめ」

「俺は良いんだな」

「喋っている暇があったら、手を動かす」

「いやいや、完全に腕が全力で動いているだろ! お前は一体何を見て言っているんだ!?」


 そう口にした時だった。

 パシャッ、と確かに噴き出す音がした。

 バケツの中に少しだが、透明な水が落ち始めたんだ。


 このポンプ、毒があるのかは除いて、水を吸い上げることに成功している。


 俺がスパートをかけて全力で腕を振るっていると、マナミが突然奇妙なことを口にした。


「水……私が魔法で出す以外で、初めて島の地上で見たかも」

「え? マナミ、もしかして、果実以外の水も飲めるのか?」

「王国なら、私が水の設備は用意してある。だから、海の水を飲む必要はないの」

「そういうのは先に言ってくれよ!!」


 いや、マナミは『ここには』と言っていたので、俺が気づかなかったのが悪いか。


「ふふ。この水たちも飲めるようになるのなら、島がクロジを認める機会だから」


 マナミはそう言ってポンプの近くにより、吐き出される水に手を当てた。


 白い手に当たって弾ける水は、楽しそうに輝いている。

 マナミに触れたかった、そう言っているように、自然が笑っているように見えたんだ。


 ワンピースのようなローブ姿なのもあってか、光を帯びて揺れるストールは目に優しくて、静かに微笑むマナミが小さな妖精のように見える。

 魔女と言われているのに、おかしな話だ。


 光に照らされる黄緑色の瞳は、何を見ているのだろうか。


「クロジ」

「なんだよ」


 マナミは一つ間をおいて、微笑んだ。


「この水を使った料理、期待してるね」

「ああ、期待しててくれ。ちゃんと、毒は無くしてやる」

「この水の質なら、ちゃんと熱を通せばなくなる」


 マナミは分かっていたかのように助言をくれるので、自然に寄り添う魔女、と言ったところか。

 マナミの為に頑張れ、と筋肉が後押ししてくる影響か、ポンプからは水を吐き出す量が自然と増えていた。

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