66 ずっと望んでいた先へ
世界が光っている。
島が輝いている。
国を開いて、人もドラゴンも謡う、一つに集う今。
祭典終わりの月夜に、今は宴さながらの、賑わうお祭り。
屋台に、楽器に、食べ物に、皆無礼講。
そんな風景を、俺は城の屋根の上から眺めていた。
勿論、隣にはマナミが座っている。
月明かりに照らされてなびくストールが、降り注いだ星々で天の川を生み出しているようだ。
「クロジ。気分は平気?」
「マナミ、心配してくれてありがとう。休んだおかげで楽になった」
「あんなに泣いたから?」
「そ、それは言わないでくれると助かるんだが?」
横目で分かる、笑うマナミの横顔。
俺はきっと、マナミの笑顔を守りたかったんだ。
ずっと、何回繰り返しても折れなかったのは、マナミが傍に居てくれたから。
ここは天国じゃない。マナミとの始まりを意味する場所だ。
「……私に黙っていたの、ちょっと悲しい」
少し曇った表情を見せるマナミ。
俺は苦笑するしかないどころか、張本人だ。
マナミの安全を第一に考慮した結果、マナミに救われるどころか、失態を晒したのも情けない。
エルリッシュ王はこれすらも見ていたのか、俺とマナミが国に戻るなり、王として振舞っていたほどなのだが。
「クロジ」
「どうした?」
「一つだけ、聞いてもいい?」
「一つだけと言わず、好きなだけ聞いてくれ。俺はマナミに嘘をついたし、罪滅ぼしは生きるだけじゃできないからな」
マナミは恐らく、ナトゥーラの事や、俺がいつから記憶を思い出していたのかなど、聞きたいことは山ほどあるだろう。
だから俺は、マナミの気が済むまで答えるつもりだ。
ナトゥーラがマナミを狙っていたのを知っていたからこそ、マナミを危険に晒さないように黙って行動した、せめてもの報いというべきだろう。
その時、マナミが俺の頬に手を触れさせてきた。
「駄目。クロジは、守るために嘘をついた。そんな自分を傷つけるような言葉、私が許さない」
「マナミは優しいな」
「絶島の魔女は恐れられても、私を恐れないクロジがおかしいだけ」
俺はマナミのことを理解したつもりで、理解など出来ていなかった。
それはこの世界の輪廻に繋がるまでの間、全ての俺に言えることだろう。
今じゃあ、筋肉が帰りを待っている、そんな俺の気もするが。
「それで、聞きたいことってなんだ?」
「……その、あの子やエルリッシュ、他の時間だと、どうだったのかなって」
マナミの口から、時間、って言葉が出るとは思わなかった。
「本当に、いつから聞いてたんだろうな。マナミは、俺が過去……今までの記憶を全て持っていること前提で聞いてるよな?」
「うん。それはメグから聞いたし、クロジが休んでいる時にユリシア様にも聞いたから」
「はぁ、ユリシアも保険をかけてたか」
この件は俺だけが知っていればいいが、ユリシアも随分とマナミを可愛がっているものだ。
「……まあ、メグちゃんはそもそもこの島に来れないし、来ても悪魔の魔法で俺が終わってたな。エルリッシュ王とはまあ……良くも悪くも、王と民、の関係だったな」
「王と民? 別世界のクロジが?」
「簡単に言えば、王に反逆する者、って感じの立ち位置で、敵対同士。分かりあえた時は片手で数えられるくらいさ」
「筋肉の弊害?」
「筋肉を毒か何かと勘違いしてないか? まあ、今回の転生だと、本当にエルリッシュ王が間接的だったのが意外だったな」
エルリッシュ王は今までなら、外からの転生者の報告を受けるなり、自らが出向いて制裁を加えてきたほどだ。
殺せないと分かるなり、マナミに監禁に近い行為を要求するほど、王として民を守っていた。
だから四人が集まることはなく、ここまで個人と仲良くなることもなかったのだ。
マナミは俺の話を聞くなり、立ち上がっていた。
「マナミ?」
「私、嫉妬したかも」
「どうしてだよ」
「……クロジ、二人のことは楽しそうに話すけど、私の話は一度もしてくれないから」
マナミはきっと、自分の話もしてほしかったのだろう。
エルリッシュ王やメグちゃんの事を聞く素振りをして、実際は自分の事を話してほしい、そんな気持ちがあった。
瞳を揺らめかせて見てくるのは、反則というものだ。
正直、マナミとの関係を口にしたいか、と聞かれればしたくない方ではある。
俺が少し悩んだ様子を見せると、破けていたはずのベストが元通りになっていた。
「……そうだな。マナミの魔女名、それがずっとあった。だから、俺はマナミを知っていたけど、俺が今ここで出会うマナミ以外は全て魔女名だった」
「■■■。だよね」
「そうだな。あれだぞ? 今のマナミよりも凶悪で、今のマナミが見たら失神するんじゃないかってくらいだ」
本当に、なんておかしく笑うマナミは、俺が話を盛っていると思っているのだろうか。
少しばかり話を盛ったが、大魔女に会うまで、を考えると難関だった。
魔女名のマナミは魔法を制御できておらず、ちょっとの間違いで俺を壊しかけていたのだから。
壊す観点だけを見ると、今のマナミも少なからず同じ一面はある。
壊すまでとはいかず、容赦のない一撃が鋭さを増しているのは怖いものだ。
「――ねえ、クロジ」
月を眺めたマナミは、優しい声色で口にした。
「場所を変えたい」
マナミはそう言って、俺の方を向き、手を引くように手を差し出してくる。
俺は赴くままに、マナミの手を取っていた。
「行こう」
「……マナミとなら、どこまでも」
曖昧な想いは、もうどこにもない。




