63 幸せを掴むために
国の西にある開けた大地に、本来は聞こえることのない国の人々の声が賑わい飛び交っている。
「エルリッシュ王、今日はこんな催し物を用意してくれてありがとうな」
「礼など要らぬ。元より、魔女めの願いよ。……クロジよ、ワレェイは未来の分岐点くらい見据えておる」
エルリッシュ王は、目の前で建設されていく石の勝負場を見ながら、布着を風になびかせている。
鋭い目つきある蒼い瞳が何を見ているのか、それを俺は知らない。
それでも分かるのは、俺の目的を理解していることくらいだ。
「そうだな。ここでは、感謝してる」
「先も云っただろ、礼など要らぬと。貴様の見立て通り、奴は来ておらん。必ず、おるはずだったのだがな」
「メグちゃんには?」
「既に承諾済みだ。あとは、貴様の魔女めがどう受け取るか――それを未来見ずに見届ける、それが人と魔女の間に分かつ王の役目よ」
ブレないエルリッシュ王に、俺はただ、心の中で感謝した。
俺はこの後、マナミと戦う。
大勢の国の人々が見ているど真ん中で、マナミと戦うんだ。
お互いに全力を出し合い、全力でぶつかりあって……筋肉が貫くか、魔法が穿つか、それだけの話だ。
この戦いを、違う俺なら何度も、知っている。
「クロジたま! メグも来た!」
「おわっと、メグちゃん」
エルリッシュ王と話していたから気が付かなかった。
気づけばメグちゃんは後ろについており、おんぶをされるように俺の背に抱きついている。
相変わらずローブに付いたフードを深く被っているようで、肩に影が出来ていた。
それでも、メグちゃんが元気なのは一目稜線だ。
メグちゃんは魔女であり、国の人々と少なからず交流があるものの、戻ってきた時の印象を払拭できない自分を隠しているのが残念ではある。
「メグちゃん。俺が、マナミと戦って、魔女の魔法を国の人に届けるから」
「メグ、クロジたま、応援する!」
「ワレェイの妹に懐かれるとは、貴様はやはり見逃せん男よ」
その時、周りからざわめく声が上がった。
声の注目を浴びている方を見ると、そこには勝負の場を石で創り終えたマナミが降りてきている。
風になびく黒いローブの裾に、艶めかしい黒い髪。
右ワンサイドテールには、双葉のアクセサリーが輝きを帯びて印象を裏付けてくる。
マナミは真剣だと、瞬時に理解できた。
魔女として、絶島の魔女として、マナミは本気なのだと。
「……マナミ」
「クロジ。付き人としてではなく、対峙する者として、準備が出来たら舞台に上がって」
「ああ。……エルリッシュ王、メグちゃん、場合に応じて処理はよろしく頼む」
「案ずるな。本気で行くがよい」
「メグ、全力見たい!」
空間から剣を抜いたエルリッシュ王と、さり気なく十数もの悪魔を召喚したメグちゃんを背に、勝負場へと歩んだ。
勝負場は、高さが数メートルほどあり、石畳が隙間なく舞台の一つとして積まれている。
何十畳もある円状で出来た石造りの勝負場。
俺は今、この場で、マナミと勝負をするんだ。
ほどなくして全体に聞こえる声で、エルリッシュ王が国の人々に向けて声を発している。
今から始まるのはお祭りの本題であり、俺とマナミにとっては、大事な思い出となる戦いに変わるだろう。
舞台へと上がった俺は、対峙したマナミに視線を向ける。
「……俺はクロジ。絶島の魔女から命に名をもらった、一人の筋肉だ!」
「馬鹿。……私はマナミ。絶島の魔女にして、異世界の者から授かった名を生きる名とした魔女」
その時、声がした。
中央にはエルリッシュ王が浮かびながら、全てを見渡すように、降り立ってきていた。
「お互いに準備は済んだか。民も、島も、自然も、ドラゴンも見ておる」
そう、今この場所は、島にいる全てが見届ける場へと変化を遂げたんだ。
エルリッシュ王は天を割くように剣を掲げる。
「祭典の義! 絶島の魔女! 妄想信者! 己の実力を出し惜しむことなく、ぶつけるがよい!」
エルリッシュ王の合図とともに、俺とマナミは戦いを始めたんだ。




