58 魔女とのデート当日
「マナミ、随分と気合が入ってるんだな?」
この日、俺はマナミと国に向かってデートをする日だ。
いつも通りベストだけでいい予定だったが、思った以上にマナミが力を入れているせいで、心配になってしまう。
いつも通りに隣を歩くだけ、なんて簡単な考えは良くなかったのだろうか。
「クロジ。……どうかな?」
「いつも可愛いけど……その、えっと……今日はより一層、可愛いな」
簡単に、なんて言ってマナミは頬を赤らめているが、虚像でも口にしてしまっただろうか。
――にしても、ワンピースは小柄なマナミには似合っているな。
マナミは魔女ということもあってか、ローブが主体にはなっている。
しかしこの日のローブは普段の黒とは違い、白を基調としていた。
明るめの印象を与えてくるだけでなく、前開きなのもあってより開放感が垣間見えている。
ローブの中にはワンピースを着ているようで、おしとやかさにも勝る一凛の花のようだ。
完全にシンプルイズベストを躊躇なくものにしているローブにワンピースだが、そもそものマナミがまったりとした雰囲気も相まってか、着られている印象は無い。
むしろ着こなしているマナミの良さが表に出ていて、思わず息を呑み込んでしまう。
ノースリーブなのもあって首元や腕の白い肌は見えているが、首元についたストールによって隠されている。
それでもストールの薄さも相まって、目を引かない方が無理難題と言えるものだ。
今思えば、マナミの肌は手入れが行き届いている以上に、赤子肌並みのうる艶肌なのが犯罪的だろう。
絶世の美女という最初の印象こそあったが、それを踏まえても今のマナミは愛らしさで溢れている。
むしろ普段は魔女の衣装とも言えるローブ姿だったのを考えれば、白色なのがよりそそられるものだ。
「クロジ、いつも簡単に褒めてくる気がする」
「簡単に褒めてないさ。恋をしたい魔女だから、褒めている。それともあれか、筋肉で文字でも書いて、マナミの良さを歩いて広めた方がいいか?」
「変質者。絶対やめて」
さすがに歩く拡散器は駄目なようだ。
もう、と頬を膨らませるマナミに見られただけなのに、俺は思わず言葉を失っていた。
揺れる黄緑色の瞳は、宝石のように輝いていて、今のマナミの印象をより一層際立ててきたからなのかもしれないが。
恵まれている、としか言いようがないほどに俺は幸せだ。
窓から入り込んできた風で揺れる、右ワンサイドテール。
マナミは変わらず、黒髪ショートの右ワンサイドテールで特徴的な雰囲気を持っている。
ちょっとした明かりが差し込むだけで浮かぶ天使の輪のような輪郭は、自然がマナミを愛しているようだ。
「そろそろ行くか?」
「……クロジ」
どうした、と聞こうとしたが、俺は言葉が続かなかった。
照れくさそうにマナミが手を出してきていたのだから。
空いている手が求めているのは、こんな俺でも理解できてしまう程に明確だ。
「いいのか、俺で?」
「付き人だから」
マナミはそう言って、俺の手を取ってきた。
俺は一つ、マナミに先を越されている。
俺よりも一回り小さな手なのに、大きすぎるほどに想いが詰まっているのだろうか。
微笑みながら向けられる上目遣い。
マナミのいたずらな笑みには困ったものだが、正直悪くないのだろう。
俺は答えるように、マナミの手を柔く握り返した。
簡単に握りつぶせてしまいそうなほど弱弱しく感じる手だが、マナミがその場にいると、俺は知っていた。
「クロジ、行こう」
「そうだな。国をゆっくり見るのは、最初にマナミと会った時以来だな」
「よく覚えてる。えらい」
「やめてくれ、恥ずかしい」
マナミがわざとらしく頭に手を伸ばそうとしてきたので、俺は断っておいた。
不服そうに頬を膨らませてこそいたが、マナミは分かった上でやっているのなら小悪魔そのものだ。
俺はドアを開けて、マナミと外に出るのだった。
そして歩幅を合わせてゆっくりと、国へと向かって歩んでいく。
初めてのデートという心の高鳴りは、鈍い心に染みわたってくるものだ。




