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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第二章

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55 幼い言葉ひとつに含まれるもの

「クロジたまが、メグに相談?」


 俺はエルリッシュ王にマナミの伝達を済ませてから、メグちゃんに本題を持ち掛けていた。


「ああ。マナミと同じ魔女であるメグちゃんじゃないと、この相談はできないからな」

「どんな相談?」


 メグちゃんは乗り気になってくれたのか、蒼い瞳を無邪気にも輝かせている。

 広がる青い空よりも、メグちゃんの瞳は清々しさを感じさせてくる。


 まったりとした言い方はマナミに通ずるものもあるが、幼さだけで言えばメグちゃんは群を抜いているだろう。


 幼さの裏付けとしてなのか、メグちゃんが話す場所に選んだのはまさかの……お城のてっぺんである屋根の上だ。


「マナミは自分の魔法と向き合っている。だからさ、その後押しをする方法は無いかな、って思ってさ」

「むぅ。姉たまのことばっかり」


 メグちゃんとはまだ両手で数えられる程度しか話していないが、俺はそこまでマナミの会話をしていただろうか。


 ぷくりと頬を膨らませるメグちゃんは、思うところがあるようだ。


「マナミのことばっかりになるのは、俺が恋したい魔女だからだ、許してくれ」

「一途?」

「一途だな」

「蛮族っ」

「どうしてそうなったか、小一時間問い詰めた方がいいか?」


 この姉妹は揃って、俺を獣か何かと勘違いしているのだろうか。

 俺は確かに自然と共存して生き抜いてきたが、飢えた野生に戻った記憶はない。


 ただ野生の本能たる筋肉を信じていた、それだけに他ならないのだから。


 ――この子、覚えたての言葉を使いたがるタイプか?


 メグちゃんが首を傾げているのを見るに、意味も分からず使った可能性が高い。


「ねーねー」

「どうしたんだ、急に?」

「姉たまの後押し、する必要ない」

「どういうことだ?」

「うーん……」


 メグちゃんは夢の中で会った時は違い、明らかに幼い。

 おそらく夢の中で出会ったメグちゃんは、悪魔を意味する魔法も関係しているが、記憶から生み出された語彙力で上手く話すことが出来ていたのだろう。


 マナミから、あの子は年齢の割に魔法の影響を大きく受けている、と評されていたのだから。


 メグちゃんは少し悩んだ末、髪を隠していたフードをより深く被った。

 前髪のメッシュがかった灰色が影に揺れて、髪の合間を縫って蒼い瞳を深い海と連想させてくる。


「姉たま、今は魔法と共存してる」


 メグちゃんはそう言って、海の方を見ていた。

 島内ではなく、海の方をその視線はとらえている。


 俺もメグちゃんの視線を追うように、海へと目をやった。


 どこまでも広大な青い海。

 幾人もの追随を許さないほど広大で、見渡す限りの自由が広がっている。


 ――なんだ、あれ?


 海は何かに隔てられているのか。

 周りにはぼんやりとした、下りた幕のようなものが張られている。

 俺には認識できそうでできない。それは、フィニスの時にも実感した、魔法だ。


「もしかしてあれ、全てマナミの魔法か?」

「うん。あの魔法、メグが悪魔たちに力借りても、壊せない」

「確か、前は簡単に壊してきてなかったか?」

「今の姉たま。クロジたまの影響」


 メグちゃんの言葉一つ。

 それにはたくさんの意味が込められていると、俺には分かる。

 俺の心配は、きっと要らなかったんだ。


 俺は間違えた選択肢をして、マナミの足枷になる可能性があった。


 少し考えてから、メグちゃんの頭に手を置いた。

 そっと撫でるとメグちゃんは心地よさそうに目を細めている。


「ありがとう。メグちゃんはよく見てるな」

「メグ、見てる!」

「そうなると、俺はどうするかな」


 俺はふと、自分の拳を見た。

 大魔女の一件以来、俺は前線から身を引いている。


 隠居生活をしているわけではないが、前の俺が見たら笑い転げるくらいだ。


 筋肉を今でも信じているのに、ここだと勝てない、それを知ったせいで拳を振るえなくなったのだろうか。

 否。マナミに宣言したが、大魔女以外との戦闘から手を引いているだけだ。


 自分に理由を言い聞かせる日が来る、思いもよらなかった。


 俺が手を離したせいか、メグちゃんは不思議そうに見てきている。


「クロジたま、魔法使う?」

「俺は魔女じゃないんだが? そもそも、魔法なんて使えないだろ?」

「うん。クロジたま、魔法使えない」

「なんで言ったんだよ」


 本当に、メグちゃんは何を思って口にしたのだろうか。


「でも、その力、聞こえる」

「……俺に、力?」

「メグの魔法。クロジたまに、恐怖感じない」

「まあ、俺に恐れるものはないからな」

「これ、相談のオマケ」


 メグちゃんはそう言って、俺の手を包むように触れてきた。

 小さな手なのに、確かな想いを感じさせてくる。


 不意にメグちゃんの手の甲に浮かんだ、不思議な紋様。


 すっと消えたかと思えば、メグちゃんは手を離している。


悪魔は定めた(ワンス・アポン・)契約をせず(ア・ドリーム)

「魔法か」

「クロジたま。姉たま、試してくる。そのための魔法」

「マナミが俺を……その際の防衛的な感じか?」


 メグちゃんが首を横に振るあたり、違ったようだ。


「メグ、クロジたまの持つ力、信じてる」

「……メグちゃんに言われると元気が出るな」


 吹いた風が肌を撫でた。


 この島の風を感じるのは、何気に久しぶりだ。

 風はいつでも感じていたが、より鮮明に感じた気がした。


 俺はただ、筋肉を信じたい気分だ。


「……でも、ごめんね?」


 不意に謝るメグちゃんに、俺は首を傾げるしかなかったのだが。

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