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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第二章

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47 悪魔を意味する魔法を知っているか?

「マナミ、ここでいいか?」

「そう、それはそこに。メグ、悪魔たちに」

「姉たま、メグがんばる!」


 現在、俺とマナミ、メグちゃんの三人で、壊れた南の外壁を修復していた。

 国の人も手伝うと申してくれたらしいが、エルリッシュ王が全て別の場所に派遣したのと、マナミ的には気持ちだけを受け取るとのことだ。


 人が多くいれば早く終わる。俺はそう思っていたが、もう一人の魔女が壊した、となればメグの身を案じた方がいいのだろう。


 マナミ曰く『民あっての王。それはメグが側近にいることでより高くなる』と謎めいたことも言っていたので真相は闇の中だが。


 おそらく、メグちゃんはエルリッシュ王の傍に付くのが前提なのだろう。

 エルリッシュ王も言っていたが、メグちゃんの制御に一役買っているみたいなので、良い落としどころだ。


「メグちゃんの悪魔だっけ? 一人一人が意志を持っているみたいですごいな」

「えへへ、メグをほめてほめてぇ~」


 メグちゃんは俺の背に乗りながら、まるで自分を褒めてほしそうに言ってくる。

 言葉遣いが幼いのは、この子が魔女であることの特有だろうか。


 乗り出されて見える横顔。

 顔つきは幼さこそあるが、どこかマナミに似たような雰囲気を感じさせてくる。

 雰囲気こそマナミに似ていても、透きとおるように輝く蒼い瞳はどこか、きりっとした鋭い目つきある蒼い瞳のエルリッシュ王を彷彿とさせていた。


 二人に愛されている、間接的に理解できる感情。


 メグちゃんがフードを被ったまま頭を出してくるので、頭を撫でてほしいのだろうか。

 手を止めてメグちゃんの頭を撫でようとした時、背に容赦のない寒気が走った。


「クロジ。メグを甘やかさない。そもそも、この子が島を守る魔法を無理やり壊さなければ済んだ話」

「姉たま! 壊さないと会ってくれない! 前に力を使ったのはメグだけが気づいたけど、他の姉たまたちに気付かれたらどうしたの?」

「……メグ。私はこの島を守る、国の人を守るの。多く言わなくても、分かるでしょう?」

「ご、ごめんなさい」


 メグちゃんが怯えた。

 俺は背に震えを実感したからこそ、メグちゃんの感情を理解できてしまう。

 マナミは明らかに、圧をかけてきていた。


 いつものようにおっとりとした声色だが、さっきの声の芯だけは完全に冷えていて、感情を殺しているに近しい。


 今思えば、俺は二人の魔女と関わる間、感情を無意識に意識している。

 感情がマナミのあの力の起源と知ったからではなく、二人の違いを見ているのかもしれない。


 いつもは筋肉に答えを聞いていたせいか、自分で考えないといけないのは難しいものだ。


 少し考えていた時、青い悪魔たちがせっせと働いているのが見える。


 ――負けてられないな。生み出されたものよりも、俺の筋肉が強いところを見せてやるか。


 俺は体に力を入れなおしてから、メグちゃんに声をかけた。


「メグちゃん、本気で動くから、振り落とされんなよ」

「アトラクション!」

「メグ。クロジは……筋肉は遊び道具じゃ……きいてない……」


 俺はメグちゃんをおぶったまま、全力で駆け出した。

 駆け出しただけでは留まらず、外壁を直すための粘土質の土が入った布袋を持ち、マナミが魔法で指定した箇所に盛っていく。


 この外壁はどうやら、マナミの魔法がかかっているようで、直すのにもマナミの力が必要らしい。


 土を試しに食べてみたが、食べられた味ではないが食べられるので、筋肉が知った味だったから真実だ。

 知った味的に言えば、最初に閉じ込められた牢にあった壁に近い。

 あれも魔法がかかっていたらしいので、マナミが生み出したのだろう。


 そうなると、俺はマナミの愛を筋肉で受け取ったと言っても過言ではない。


 ――地道な作業だけど、俺の筋肉にかかれば問題ないな。まあ、筋肉にかかればこれくらい容易いものだ。そう、筋肉なら。


 俺が素早く行動するたびに、背から悲鳴のようで楽しそうな声が聞こえるので、メグちゃんは楽しんでいるのだろう。


 ふと気づけば、だいぶ外壁は原型を取り戻しており、些細な個所は青い悪魔たちが修正してくれていた。


「そういや、あの青い悪魔はメグちゃんの魔法だよな?」

「うん、メグの魔法」

「クロジ。メグの魔法を先に言っておく」


 先にと言っているが、メグちゃんと打ち解け始めてだいぶ経っているので遅い方な気が。


「メグが言いたい!」

「メグ。自分の魔法をうまく言葉にできないでしょう?」

「お友達をたくさん呼んだり、力を貸してもらったり、ふわふわしたりできる!」

「……なるほど、つまりは筋肉みたいな感じだな!」

「クロジ。分かっているの?」


 マナミが容赦なく輪郭だけを焦がしてくるので、正直に白状した方がいいだろう。

 俺はメグちゃんを傷つけないように、マナミとの間に使うジェスチャーで合図を送った。


 マナミが魔法を止めたので、合図を受け取ってくれたようだ。

 対価として俺は軽く、魂と筋肉の境界線を受け止める羽目になったのだが。


「この子の魔法はね、悪魔を意味する魔法。簡単に言えば、御伽話に近しい、空想を現実に引き出す魔法なの」

「……それって、マナミの再現性の無い魔法……その場にある本来は見えないものを映し出すのと、何が違うんだ?」

「この子の魔法は本質が違うから簡単に。悪魔の形を由来として、悪魔を具現化させるの。私みたいに、自然に関するものとかに触れることはできない」

「メグ、姉たまの魔法できない」

「あのさ、それって話してもよかったのか?」

「クロジが魔法に耐性があっても、この子の魔法は無意識、悪魔を意味することがこの子の想像なら下手すれば私以上。保険を張るのに越したことはないの」


 話から理解するのに、メグちゃんの魔法は悪魔を意味するが、その『意味』に多くのものが含まれているのだろう。


 マナミの魔法は再現性こそないが固定的なのに対して、メグちゃんの魔法は想像力豊かな幼い子そのものを体現しているのかもしれない。


 魔法は難しいな、と俺はつくづく思わされた。

 まあ、その魔法の件に片足を突っ込んでいるのも大概だろう。


 俺は最後の土を重ね、マナミの方を見た。


「マナミ、これでいいか?」

「クロジ、ありがとう。あとは私の魔法で再現するから、メグと一緒に離れて」


 メグちゃんと距離を取った時、外壁は光の粒を発していた。


 マナミが宙に浮いているのを見るに、魔法を使っているのだろう。

 どんなものを再現しているのかは不明だが、マナミの魔法には優しさがある、それだけは揺るがない事実だ。


 俺がじっと見ていると、メグちゃんが肩を叩いてきた。


「メグちゃん?」

「姉たま、最近変化があった?」

「変化? 自分の力と向き合っているくらいで、他には何もない気が……」

「ふふっ。クロジたま、姉たまに好かれてる」

「たまぁあ!?」


 いきなりそんな呼び方をされて驚いたが、メグちゃんが無邪気に笑っているので幼い子の怖さを実感しそうだ。


「クロジ。無事に外壁の修復は終わった。これで、ドラゴンが襲撃しても守れる」

「やっぱり、マナミって優しいよな。生き残ることを志にしているし、尊敬だよ」

「クロジも人のちか――あっ、メグ、寝ちゃったの?」

「本当だ。さっきまで起きてたんだけどな」


 気づけば、メグちゃんは俺の背に顔を預け、心地よさそうに寝息を立てて眠っていた。


 人の筋肉で心地よさそうにするのは、姉妹って感じだ。


「エルリッシュに預けて、私たちは帰りましょう」

「そうだな。国に長居する必要はないからな」


 その後、メグちゃんを預けて帰り、今日は食べて寝て終わりだと、この時の俺は思っていた。


 ――夢を見る、その時までは。

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