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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第二章

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46 宴の笑顔に無礼講を

「この戦、よく無事だった。外壁こそ壊れているが、宴としよう!」


 エルリッシュ王に誘われるまま、俺とマナミは王の間に用意されたテーブルを囲っていた。

 以前からこの場所は国の人が下から見上げれば室内を見ることもできたが、今では打ち抜かれた南の壁によって更に見放題となっている。


 さすがにマナミは晒し放題にする気はないようで、簡易的だが周囲との境界を隔てる魔法を組み立てたらしい。


「メグ。クロジに迷惑をかけたのだから、挨拶はするの」


 大きなテーブルを三人で囲う……という訳ではなく、もう一人、幼い容姿の魔女がおどおどした様子で椅子に座っている。

 座っているというよりかは、半強制的にマナミに連行されていたのだが。


「マナミ、俺は別に迷惑と思ってないから」

「私の妹、魔女として、自己紹介をさせているの。それに、どこかの筋肉はまともに自己紹介できなかったから」


 マナミはあの時に俺が名乗った、黒次を筋肉名と未だに思っているようで、少なからず根に持っているようだ。


 マナミの横に座っていた魔女……マナミの妹は、渋々と言った様子でフードを脱いだ。


 素顔が露わになるのと同じく、透きとおるほどに綺麗な蒼い瞳が輝きを見せた。


「め、メグです。姉たまと、エル(にぃ)たまの妹。よろしく……です」


 メグは俺を怖がっているのか、未だにおどおどした様子だ。

 そんなメグの様子を見て、マナミは少しばかり息を吐いていた。


 珍しい表情を見せるマナミに、俺は自然と意識が吸い寄せられてしまう。

 魔女に恋をしたい、それは今も変わらないが、マナミの見たことない表情や仕草をこの目に焼き付けたい衝動に駆られるせいだろう。


「この子が紹介した通り、メグ。私の妹であって、エルリッシュの妹でもあるの」

「……エルリッシュ王は、大魔女から生まれたわけじゃないんだよな?」

「現を抜かすではない。ワレェイはあくまで、血縁関係上の存在よ。一つ事実を答えるなら、メグめの制御棒としての立ち位置くらいと言えたものか」


 エルリッシュ王は言いきって、テーブルに運ばれてきた骨つきのこんがりと焼けた肉を豪快に齧っていた。

 自身の顔以上に大きな肉でこそあるが、彼からすれば小さいのも同然か。


 そんなエルリッシュ王を見ていると、ジットリとした視線を感じる。

 視線の感じる先に目を向ければ、そこにはメグの視線があった。

 メグは何か不服なのか、物言いたげな様子で見てきている。


「えっと、メグちゃん?」

「……さり気なく、ちゃん呼び。……クロジには後で、お灸を……」


 マナミが何やら物騒なことを言っているが、俺はとりあえずメグちゃんに目線を合わせておく。


 メグちゃんの前髪には銀髪がメッシュのように少しだけ混じっていて、黒のストレートヘアーも相まってか綺麗な調和がとれている。

 マナミの妹だけあって、髪の質も艶やかで綺麗だ。


 見たところ、栄養がしっかりと髪の先まで届いているだけでなく、小さな体にも十分なエネルギーを蓄えていると窺える。


「……あなたが、メグを正気に?」

「ああ、自己紹介がまだだったな」

「メグ、あの人は変質者。メグにはまだ早い脳まで筋肉に浸食された人」

「マナミ? 先ほど紹介に預かった、クロジだ。まあ、なんだ、魔女に恋をしたい筋肉だ、よろしくな」

「貴様、ワレェイの妹の質問を無視するとは、良い度胸をしているではないか」


 エルリッシュ王は残った骨を手に持ったまま、テーブルでさっと研いで、鋭利な先端を向けてきた。


 骨をあっという間に加工した技術も気になるが、先ほどからエルリッシュ王の気があらぶっているような。


「クロジ。そこの王はこの子に対して……クロジに合わせて言うなら、シスコンなの。だから、そこの王は甘えん坊のこの子が好きだから、過保護気質」

「なるほどな。つまりは俺と筋肉みたいなものか」

「あなたは変質者」

「マナミ、最近冷たくないか?」

「クロジが勝手に冷たいって思うから?」


 マナミが冷たいと思うのは確かに俺なので、俺が悪い。

 冗談だと思っても、笑いに昇華できるから安いものだが。


 俺が冷たさを感じるのは間違いなく、少しばかり筋肉を思い出す日々が続いているからだ。

 妄想(もうそう)信者(しんじゃ)……妄想と書いて筋肉と読んでいたが、筋肉と今も話す感覚になれば妄想になってしまう。


 そう考えると、筋肉は俺にとってかけがえのない友と言えた。


 今は話しこそできないが、筋肉が引き継がれているのだから、俺が筋肉を証明すれば問題ないだろう。


 筋肉との(みらい)を考えていると、マナミやエルリッシュ王は次々とテーブルから果実や肉を手に取っていた。


 マナミは相変わらず、というか最初の頃から変わらない……国の人々が作った果実を愛している。

 魔女に恋をしたい、その気持ちが変わらない俺が言えたものではないが、マナミはやはり可愛らしいものだ。


 果実だけに至って言えば、マナミは自分が褒められるのと同じように誇っているのだから。


 筋肉を信仰する俺だからこそ、そこは共感できる。


 マナミとエルリッシュ王を見ていた時、俺はふと目が留まった。


「メグちゃんは食べないのか?」

「……メグ、まだ島の食べ物に慣れてない」

「クロジ。メグは魔女の中でも幼いし、少しの期間だけどこの島にいた時期はあったけど、その時もあまり食べてないの」


 マナミも心配する様子を見るに、メグちゃんは食に偏りがあるというよりかは、体が拒否反応を起こしている可能性も高い。


 おっとりとした声色から見ても通常と言えそうだし、髪の繊維、肉体の流れから見ても、メグちゃんは至って正常だ。


 ――幼いから、果実や肉、その単体を食べるのが向いてない?


 俺はお試しにはなるが、手ごろなサイズの果実を一つ手に取った。


「筋肉。それはまさしく、ひとえに筋肉」

「姉たま、この人、おかしくなったの? メグの悪魔の血を浴びたから……」

「大丈夫、メグ。クロジはこれが普通だから」

「貴様、変な真似をしようものなら、ワレェイが自ら裁を下すとしよう」


 三人から尊敬の声が聞こえるあたり、やはり筋肉は偉大だ。

 俺は左手の上に置いた果実に意識を集中し、右手を垂直に合わせる。


 筋肉は時に鋭利な刃となり、時に優しく掬うスプーンに姿を変えたという。


 垂直にした手の先を果実の上部に合わせ、指の隙間を埋めて、横へと流す。

 筋肉は鋭利に空を裂き、果実の上部を蓋のように開けた。


 俺はすかさず右手を同じままに、幾分もの正方形を宙に描き、蓋が開いた果実を近づける。


 筋肉は魔法だ。


 近づけた果実は見る間もなく、中の果肉だけがサイコロ状になり、溢れんばかりの果汁を染み出させていた。


 ストローでもあればよかったのだが、生憎この島にはプラスチックがないので仕方無い。


 果実の皮をそのまま器として、果肉を少量取り出す。

 そして他の小さな果実を適量取り、果肉だけをサイコロ状にし、果汁と果肉の入った器に盛り合わせる。


「こんな感じかな」


 手にもった果実は筋肉によって調理され、フルーツポンチさながらの食べやすいものへと変貌した。


 果実の皮を使用したことにより、果汁は色を濃く出しつつも透き通りながら、果汁の海に泳ぐ様々な果肉が彩とりどりに食欲をそそってくるだろう。


 俺は作り終えたそれを、メグちゃんの目の前に差し出した。


「メグちゃん、これなら食べられる? 果肉は繊維を軽く崩して食べやすくしてあるし、果汁は味が混ざっても喧嘩しないのを選んだから問題ないはずだ」

「……うん」

「クロジ、メグにだけ……」


 マナミが羨ましいような視線を向けてくるが、俺は気に障ることでもしたのだろうか?


 そんな俺とマナミの会話を横目にしてか、メグちゃんは口を器に近づけ、そっと口に含んでいた。


 恐る恐ると言った感じではあるが、口にしてくれただけ嬉しいものだ。


 メグちゃんはコクコクと喉を鳴らしてから、静かに目を閉じていた。

 そして、幸せそうに口角を上げて、蒼い瞳を輝かせながら瞼をあげたんだ。


「おいしい。クロジ、おいしい」

「そうか、ならよかった。すぐに作れるから、おかわりが必要だったら言ってくれ」

「クロジ。私の分も作ること。早く」


 マナミが視線を向けてきたかと思えば、俺はなぜか上半身を燃やされていた。

 メグちゃんが驚きこそしたが、俺が生きていることを疑問そうにしている。


 マナミは「彼は転生者だから」と、まるで転生者は生き返るみたいに話しているが、俺の本質は魂ある筋肉なので明らかに例外だろう。


「クロジよ、貴様は随分と魔女めになつか――ふむ、前言撤回しよう。魔女めに親しまれているではないか」

「そうか?」

「……姉たまキラー」

「め、メグ!? ……そういうことを簡単に言わないの」

「あうぇたぁ、いだあい」


 マナミは何に反応したのか不明だが、メグちゃんを叱るようにメグちゃんの頬をムニムニと触っていた。

 もっちりとした弾力がマナミの指先からでも分かるので、メグちゃんはマナミの妹だと思い知らされる。


「ほら、クロジ、見てないで早く作る」

「分かった」

「クロジよ、ワレェイの分も作ることを許そう」

「エルリッシュ王は食べすぎだろ! メグちゃんもおかわりかな?」


 メグちゃんを迎え入れる宴だったが、美味しいものは誰だって好きだと改めて理解させられた。

 とはいえ、この作る忙しさの先に笑顔が見られるのなら、料理もできる筋肉としては本望か。


 ――メグちゃん、マナミのことを聞けば少しは相談に乗ってくれるのかな?


 俺はそんなことを思いながらも、宴が終わるまで料理を作り続けるのだった。




 宴が終わる直前、俺はマナミとメグちゃん含めて、エルリッシュ王からある依頼を受けたのだ。

 以来というよりかは、後始末が正しいのかもしれない。

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