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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第二章

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42 幼い魔女は見納める夢の中

 ぼんやりとする意識。

 まるで、夢でも見ているようだ。


 今思えば、元の世界で生きていた時は、夢を見る時間もなかった。

 生きることに、今を生きるために精一杯だったから、油断も隙も無かったせいだろう。


 今日という日はぼんやりとしているが、マナミと一緒に眠っている……その安心感から深い眠りについてしまったのかもしれない。

 いや、夢を見るのはレム睡眠。ノンレム睡眠から移行し、起きようとして覚醒し始めている前兆だろう。


 たまには脳を片方休ませないでしっかり寝ろ、と筋肉にもよく言われていた。疑似イルカ体験も楽しかったが、脳の疲労を考えれば正しい判断を下されていたようだ。


 ――夢体験? まるで実写映像……。


 俺がそんなことを思っていると、ぼんやりとした映像が輪郭を持ったように見えてきた。


 それは、一人の少女と一人の母親の世界に、見えない人として立っている。

 触れたくても触れられない、そんな幻想。


「お母さま。私、怖いです」

「マナミ。悩み事?」


 一人は、俺がよく知っている姿よりは幼いが、黒髪ショートの右ワンサイドテールに、黄緑色の瞳を持った少女……マナミだ。


 そしてもう一人は……銀髪のロングヘアーに、白がかった藍色の瞳。

 マナミと同じローブを着ているが、明らかに身長は幼いマナミの数倍高く、まったりとした声色は今のマナミを思わせる。

 俺は知っていた、幼いマナミがお母さまと口にした人物を。


 洞窟の空間でも見た――大魔女だ。

 おそらく、今の大魔女は『ユリシア』、原初の大魔女そのものだろう。


 夢で見ているとはいえ、ユリシアは気づいていてもおかしくない。それほどまでに俺は、この路線に辿り着くまで、彼女の本名を知ってしまう程に殺され続けたんだ。


「私のあの力は、魔法と言えるのですか?」


 マナミは疑問を口にし、ユリシアに幼げな瞳を向けている。

 幼いからこそ、未知への憧れとも言えるし、未知への恐れとも言える、矛盾が交差している瞬間だ。


 ユリシアは手を伸ばし、マナミの頭を撫でていた。

 その微笑みは母性の塊と言えるほどに柔らかく、マナミを一人の少女として見ているようだ。


「マナミ。あなたが魔法と思えば、それは魔法。ですが、あの力、まさしく異端の力と思ってしまえば、破壊あるあの力は魔法とは違うもの」

「どういうことですか?」

「疑問を持つのはいいこと。だけど、自分で見つけないといけない、()が試練としてマナミに課さなければいけません」


 マナミが首を傾げているが、ユリシアは淡々と続けた。


「マナミ、あなたは自分らしく生き残るの。それは、あなたが未来出会う人、異世界の人と出会う時に愛されるからです」


 どうやら今見ているのは、ユリシアの人格が何度かマナミに殺された……いや、マナミのあの力によって破壊された線上の後の話だ。

 そしてマナミと呼んでいる時点で、今の俺とマナミに連なる時間軸で間違いない。


「私が、愛される? 私は魔女。多々いる魔女の姉であり、人に恋をするのは駄目、と心に刻んでいます」


 ――明らかに幼い子が刻むセリフじゃなくないか?


 ユリシアがマナミにどういう教育をしているのかは不明だが、少なくとも円滑な家族関係のように見えて、しっかりと大魔女と魔女という境目で分かれている。


 ユリシアはマナミの言葉を聞いてか、苦笑していた。

 なぜ苦笑されているのかマナミが分かっていないのを見るに、少なくとも幼い心は残っているのだろう。


 俺と出会った時点で、マナミの幼い部分が垣間見えたりしていたのは……マナミがある意味完成していた証拠なのかもしれない。


「マナミ。あなたはあなたであるための感情を捨てすぎです。この先、それ以上の使命を背負い、一人で抱え込むでしょう。ですが、それを助けてくれる彼に対してもそのようじゃ、祖はこの()からマナミを心配で出せません」


 ユリシアは、マナミを監禁しているのだろうか。

 監禁というよりも、ユリシア自身がよく知っている、マナミの力を恐れての可能性もある。


 ユリシアは少し悩んだ様子を見せてから、そこには俺しか立っていないはずの虚無を見てからマナミに目をやっていた。


「お母さま、私に心配は要りません。一人でも生き残る力はあります。それに、再現性こそありませんが、魔法で色々出せます」

「そうですか。マナミ、その魔法と、あの力は密接に関わっています。それは感情。マナミが恐れ、怖がれば、あの力はマナミを守り、全てを略奪。そのまた然り、マナミが幸せ、嬉しいという幸福に満たされれば、魔法として共存を選ぶでしょう」


 ユリシアの言葉は、マナミが欲しがっていたものというよりも、俺が欲しかった答えだ。

 俺はマナミのあの力が感情に起因していることは知っていた。だけど、それ以上の成果は、この(かん)まで何も得られていなかったんだ。


 それなのにユリシアが導いたのを見るに、俺にも宛てた言葉だったのかもしれない。

 ユリシアのことだからこそ、俺がこの夢を見ると判断したうえで、マナミに試練を授けたのだろう。


 一つ間違えれば、マナミはこの時点で、自分の感情を一人の女の子ではなく、魔女の始祖として変貌させていたのだから。


「一人で生き残るのも立派ですが、祖としてはマナミの子を見せてほしい、そんな無垢の愛もあります」

「私の、子?」

「一つだけ教えましょう。未来、マナミに恋をしたいと虚像を吐き出す、ふざけた筋肉の変質者があなたの前に現れます」


 すいません、この人はなんで予知夢という名の事実をぶつけているのでしょうか?


 それよりも俺の事を散々な言い方で紹介するあたり、余程嫌っていたと見受けられる。


 マナミを愛しているのは間違いなくユリシア本人なので、突如異世界からマナミに恋をしたいと現れれば、ユリシアの機嫌を損ねるのも当然か。


「恋をするかはマナミ次第。ですが、彼は絶対に見捨てませんし、飽きることもないでしょう」

「どうしてそう言い切れるのですか?」


 ユリシアはマナミの疑問を無視してか、言葉を続けた。


「いいですか、マナミ。祖たちとは違う異性、つまりは獣、男です。ですので彼を逃がしたくないのであれば【自主規制】をしたり、【自主規制】をしたりすれば、あの男は簡単にあなたの物になります」


 ――何を教えてるんだよ、無垢な子に!?


 確かにマナミにそんな欲情的なことで煽られれば、俺は間違いなくマナミを守るどころか、一億年や一兆年超えても愛し続けるに決まっている。

 幼いマナミが首を傾げているあたり、そこら辺の性的な知識は無いのだろう。


 俺がさり気なく一安心しているのも束の間。


「きっと、マナミはプライドが邪魔をして『恋は駄目』とでも言うのでしょうから、彼の前では自身の体が赴く行動をとればいいのです。祖としては、マナミにお似合いの方、とだけ言わせる器ではあります」

「……お母さまは、その方にお会いになられたのですか?」

「この時、ではあっていませんが、今を見ている彼に少しでもあなたの悩みを伝えたかった、祖の本望」

「私の、悩み……」

「ええ。あなたは一人じゃない――傍にいるだけで、あなたの役に立ってくれるでしょう。そう、一つの、かけがえのない支えとして」


 ユリシアは俺を低く見積もっているとばかり思っていたが、マナミとの関係を心配してくれていたらしい。


 この後、ユリシアがマナミに性的な知識を与えていたような気がしたが、ぼんやりとした意識は薄れていった。

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