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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第一章

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03 魔女の家は意外と家庭的

 俺はマナミの後に続いて、牢に入れられていた建物の外に出た。

 フルティンキャッスルと名付けたお城の牢に、俺は入れられていたらしい。


 筋肉が騒がなかったのは、覚えのある場所が影響していたのだろう。


 外に出れば、レンガのような石でできたお城を囲むように広がる街並み。

 その街並みを守るように造られた、四方を取り囲む大きめな壁。

 圧迫感を壁が放っているように見えるが、どこからか吹き込む風が抜けていき、光を遮らないのもあって心地いいものだ。


 マナミはストールを軽く風に揺らし、ゆっくりと前を歩いていた。


「ほら、ぼさっとしない。動けるのでしょう?」

「なあ、このフルティンキャッスルと国は何か関係あるのか?」

「クロジ。真面目に話せるかと思えば……」


 マナミはため息を吐いているが、少し歩いただけで疲れたのだろうか。


 俺の筋肉は生憎疲れを知らない。だが、魔女に気を遣え、と筋肉が示してくれるので見守るべきだ。


 マナミは俺の方を振り向いて、お城の近くから見える街並みに手を向けた。


「ふざけた名前を付けるあなたに言っておく。ここは世界の中で名前が無い、絶島。その島の中で唯一繁栄を許した国であり、城を中心に人々が賑わい、野にいるドラゴンから身を守る場所」


 まったりとした説明をするマナミだが、どこか息苦しそうに見える。

 気のせいだ、と筋肉は言っているが、少し見えた表情の陰りに俺は疑問を覚えた。


 今は詮索よりも、島と国、気候の事を知った方がいいのだろう。


 ドラゴンから身を守るという面白い行事も聞こえたので、運がよければ俺の筋肉と踊ってもらえそうだ。


 目が覚めた時、空にドラゴンが見えたけどあれは危険だったのだろうか?

 見えたところで筋肉が危険に陥るリスクは、無いと思いたい。


「国に名前は無いのか?」

「……強いていうなら、ラスト・エデン。王が中心だけど、王は民があって王であり、民があって国と王はある」

「なるほど。良い名前だな」

「お喋りはおしまい。さっさと買い出しして、帰るから」


 聞きたいことは他にもあったが、マナミの事は少しずつ知っていけばいいだろう。


 今のところ、魔法を使う魔女、くらいで問題なさそうだ。


 とにもかくにも筋肉にも、もめ事を起こさない助言をされたのだから、今は魔女の後に続くのが優先と言える。


 異世界と言うのだから荒れた大地を想像していたが、この国に心配は要らなかったようだ。

 まあ、筋肉の英雄として崇められても困るし、これくらいが丁度いい。


 マナミと歩く国の中にある街並みは、俺の知っている人間の形をした人々で賑わっていた。

 出店を見れば、見たことのない瑞々しい果実らしきもの、豪快にこんがりと焼きあがっている骨付きの肉。

 本当にドラゴンから身を守っているのか、と疑問になるくらいに人々は幸せそうだ。


 どちらかと言えば、驚いたのは魔女であるマナミに対してだが。


 マナミ……魔女の噂は俺が毎日叫んだおかげか城内で聞いていたが、兵士たちは恐れ、王はよっぽどの事でもない限り魔女の意向に従う、そんな雰囲気だった。


 筋肉は噂と違うおかげか、今では魔女を見て揚々と血沸き肉踊らせている。

 最悪の場合、魔女と戦うつもりだったが、魔女に声をかける人々を見ると必要なさそうだ。


 俺とマナミは大量の買い出し……いや、マナミの影響力なのか、たくさんのお裾分けを貰って、国を出た。


 国の外は外壁に囲まれていて見えなかったが、相変わらず遠くに青い水が見えるほど穏やかで、木々や草花が生き生きとしている。


 筋肉も窮屈な場所で退屈だったのか、活き活きとしているのでフルティンキャッスルで暴れさせた方がよかったのかもしれない。


 マナミは俺と会話を交わすことはしなかったが、国の人々に自己紹介をしてくれたので、芯は優しい魔女と言える。


 マナミが口を開いたのは、国から出て、少し離れた森を抜けた頃だった。


「着いた」

「ここが――魔女の家」


 森を抜けた先には見晴らしのいい丘が広がり、どこまでも続くような青い水が境界線を跨いでいる。

 森を抜けることでしか侵入できない広大な丘の地。

 地に沿って続く道の先を目で追うと、木造建築で出来た一軒家があった。


 四方を丸太で囲むようにできた壁。

 三角型になるように積みあがった木の屋根。

 光に照らされながらも、その家は存在感がハッキリとしている。そう、まるで筋肉が主張したがるように。


 造形を見るのなら、御伽話に出てくるような(いびつ)な魔女の家などではなく、自然らしさ溢れるログハウスに近い。


「随分想像と違うな」

「クロジ。私をなんだと思っているの?」

「俺はてっきり、筋肉を食らうような魔女だと思っていたさ」

「まじめ、筋肉に侵されているの?」

「失礼だな。筋肉は何よりも信用できる、相棒だ。でも、俺は今、魔女に恋をしたいけどな」

「空想も程々にね。……えっと、果実は中に……柔らかいのは外のそこに」


 マナミは恐らく、俺が筋肉以外何も理解していないって思っている。

 そうでなければ、肉を柔らかいって表現する必要があるのか。


 筋肉曰く、俺が異世界の転生者だから簡易的に言った、と伝えてくる。


「ああ、肉って言ってもらって構わないぞ?」


 マナミが驚いたように見てくるのもあり、肉って表現があるとは思っていなかったみたいだ。


 ――おかしいな。筋肉を信仰しているんだけどな?


 筋肉は人を繋ぎ、世界を繋ぐ鎖だと思っていたが違うのだろうか。


「少し、あなたの世界と言語、照らし合わせる必要があるみたい」

「安心しろ、筋肉は共通だ。まあ、空を飛ぶトカゲは見たことないけどな」

「……あれはドラゴン。早く置いて、入ってきて」


 俺はマナミに言われた通り、果実と肉をほどほどに置いて、瑞々しい果物を腕に抱えて家の中にお邪魔した。


「ここが魔女の家か」


 どんな薬、どんな本が散乱しているのかと思ったが、やけに家庭的な内装だ。


 入ってすぐ右横に、土のような石でできたキッチン。

 この世界にもキッチンみたいな設備があるので、俺が生きていた世界と似ていそうだ。とはいえ食事はまるで違うものだから、古代と未来の違い、みたいな感じで思うべきだろう。


 右奥にはテーブル。食事とかをするために用意をしたものだろう。

 左はベッドが二つに、本が散乱した机らしきものがある。

 他にも誰か住んでいる、というわけではなさそうだ。年頃であれば、気分でベッドを変えたい時もあるよな。


 窓枠はガラスが無いのもあって光が入り放題だが、縄文時代の土の建造物みたいで面白いな。


 内装を見ていると、早く栄養を採取せよ、と筋肉は俺を食らいそうな勢いで伝えてくる。

 筋肉に愛されすぎるのも困りもの……いや、筋肉を愛しすぎた故の代償か。


 俺が筋肉を諭していると、マナミが見上げるように俺を見てくる。


「そんなに魔女の家が珍しいの?」

「俺がいた世界じゃ、筋肉はあっても、魔女は本当には実際しない御伽話だからな」

「だからって、簡単に命を捨ててまで転生する価値があるの?」


 おっとりとしたもの言いなのに、どこか俯瞰していて、命を重んじている物言いだ。


 そこに座って、と目配りしてくるマナミは、目の前の椅子にお手本のように座っていた。


 俺はテーブルの上に抱えきれないほどの果実をどっさりと置いて、背もたれの無い小さな椅子に腰を掛けた。


 マナミは一つの果実を手に取るなり、俺に一つ渡してから、じっと見てくる。


「食事ついでに、あなたがここに来る前の事を話す。きっと、体験者しか知らない面白い(つまらない)話でしょうし」

「俺の話か? 筋肉じゃなくてか?」

「クロジ。あなたが黒次の話をするなら、自然とクロジの話になるのでしょう?」

「そうだな。じゃあ、俺が転生する前に何をしていたのかを語るとするか」


 転生する前の俺は間違いなく、筋肉信者……人呼んで、妄想信者なんて呼ばれていただろう。

 自称でしかないが、妄想信者は間違いない。

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