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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第一章

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24/67

24 筋肉の強さは天秤だけにあらず

 日が照らす下、俺はいつものように筋肉を日光浴させていた。

 日光浴と言っても、ベストを脱いで、いつも通りに石に拳を突き出し、森の木を素手で折っているくらいなのだが。


 筋肉はまさしく一心同体。この真髄をフルティンキングダムにも広めたいが、広めようものなら筋肉の信仰力が低くなる可能性も無下にできない。


「飽きないね」

「まあな」


 マナミとは結局のところ進展もなければ、この島でスローライフを楽しんでいるだけだ。


 最初の頃なら、空を見てドラゴンと戦うことに胸を躍らせた。

 蓋を開けてみれば……マナミが既にドラゴンを俺の目が留まらないところで倒している、という野生のドラゴンがただの飾りになっている。


 暇を理由で空のドラゴンに喧嘩を売ろうものなら、セットメニュー感覚でマナミに永久追放されかねない。


 辛うじて初めて戦ったドラゴンに至っては、影を纏っているだけでなく、マナミでも逃げて生き残る選択を取るほど凶暴性を持った奴だった。

 俺は腕を何度か吹っ飛ばされたが、正直勝てる気がしなかった。


 殴りが通じるならまだしも、筋肉が触れた認識をできないのは無理だ。

 フィニア……あの影のドラゴンが大魔女のペットだから、と確信させられた以上は越えられない壁と見るしかない。


 越えられないのなら、貫き通せばいい話だが。


 俺は木を使って片手で懸垂していたが、筋肉の震えを感じて勢いよく飛び跳ねた。

 埃を立てずにすっと百点満点の着地をして、目の前のマナミの顔を覗き込む。

 マナミは目を細めているが、そんなに筋肉が気になるのだろうか。


「マナミ。俺もドラゴンと戦いたいんだが?」

「どうして? クロジは別に戦う意味もなければ、戦う必要もない」

「……聞くけどさ、俺はドラゴンと戦ったら勝てるか?」


 勝つか負けるかは、正直どうでもよかった。

 マナミを心配させないようにする、そんな考えの方が大きい。


 マナミは空を見て、少し悩んだ様子を見せてから、軽く息を吐いた。


「勝てたとしても、それは試練……私に対してじゃない、エルリッシュとか国に対してのドラゴンかな」


 真面目に考えてくれたマナミは、やはり魔女にしては優しすぎるような。

 俺の事を過大評価しているのかは不明だが、マナミのお墨付きは嬉しいと思える。


 ドラゴンに種類がいるのは当然として、マナミに対して、がどうしても心に突っかかった。

 そんな不安に頭を悩ませた、その時だった。


「揃っておるな。案ずるな、ワレェイが自ら出向いてやっただけだ」

「エルリッシュ。王が自ら……護衛も無しに、どうしてここに?」

「護衛など要らぬと、魔女めが一番理解しているであろう」


 声がした方を振り向けば、そこにはエルリッシュ王が立っていた。

 相変わらず布だけの服は何とも言えないが、強いやつは布一枚で十分、ってことだろうか。


 マナミはエルリッシュ王に慣れているようで、躊躇なく問答を投げかけているが。


「まあよい。魔女に用が、と言いたいが今回は違ってな。クロジ、貴様に用があってワレェイが直々に出向いてやった」


 エルリッシュ王はそう言って指をさしてきた。




 マナミは仕方なさそうに、エルリッシュ王を家の中に招いていた。

 そんなマナミとエルリッシュ王を横目に、俺は葉を水で湯がき、葉の要素を抽出したものを作っている。


「それで、クロジに用って?」


 マナミはエルリッシュ王が椅子に座るなり、半ば呆れたように口にしていた。


「なに、北西の完成が間近、なのは魔女めが一番朗報であろう」

「それはね。彼らが少しでも休める場所があるのは、私にとってはずっと望んでいたことだから」


 どうやら北西での話に関連があるようで、マナミがどこか機嫌よさそうにしているのを見るに、俺の手伝いは最初から仕組まれていたのだろう。

 俺は出来上がった葉っぱティーをコップに注ぎ、テーブルの上に人数分置いた。

 エルリッシュ王はコップの中を覗いてから、面白そうに笑ってみせた。


「魔法で水を提供しないとは、随分と貴様を試しているようだな」

「試された記憶はないが?」

「クロジを試す必要はないから。変質者ならそのまま処分していただけ」


 さり気なくマナミに試されていることが判明したが、俺は正直気にしていない。

 筋肉は試されてこそ、真の価値を発揮するのだから。


 俺はとりあえず、マナミの隣に腰をかけるように、その場に座った。

 座り心地は何とも言えないが、筋肉的には絶好調のようだ。


「本題だが……クロジ、貴様に命じる。今度、北西で祝祭を開く。そこで貴様は王国伝統にのっとり、ドラゴンと対峙せよ」

「待ってエルリッシュ! 私は何も聞いてない!」

「ドラゴンとか、その話乗った!」

「軽々しく乗らないで!」


 マナミとは真逆の反応をしたが、ドラゴンと戦えるのなら乗らない理由はない。

 国の伝統はさておいても、一対一で戦えるなら、筋肉が踊り騒ぐに等しいのだから。


「貴様ならそういうと思った。安心せい、殺すのはお互いに無しだ。今のところ、俺以外が勝てた記憶はないが、権利があるなら貴様が新たな伝説を創ってみるがよい。さすれば、国の記録簿に筋肉が栄光を穿ったとでも書き記してやろうではないか」

「おいおい。そんな記録簿の分厚さじゃ、俺の筋肉の輝きで見えなくなるんじゃないか?」

「……駄目だこの単細胞。私が何とかしないと……」


 呆れるマナミを横に、俺はエルリッシュ王と意気投合していた。

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