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恋した魔女の中で生きる  作者: 菜乃音
第一章

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16 一途な筋肉は魔女だけを求めている

 王への報告を終えた俺とマナミは、帰路を辿っていた。

 腕には溢れんばかりの果実を抱えているおかげか、筋肉は胸が躍っている。

 自身の血肉となるのだから、筋肉からすればご褒美なのだろう。


 森の中に足音だけが響いていると、隣を歩くマナミが服をつかんできた。


「マナミ?」

「クロジは、あの話……大魔女様の話を聞いて……心、揺らがないの?」

「どういう意味だよ、それ?」


 マナミと王から、この島には大魔女がいると話された。

 その大魔女は全ての魔女の生みの親であり、世界においては存在を知らないものはいない、と逸話でこそあるが語り継がれている存在らしい。


 唯一大魔女と接触できるのは、子である魔女か、実在を知っている者だけと聞いた。

 俺からしてみれば、魔女にしか興味が無い。だからこそ、大魔女の話はそこまで重要には思えなかった。


 ――マナミが古くから存在する魔女なのは、嘘じゃないんだよな。


 マナミがあの地に向かったのは、他の魔女を祈るため、だったらしい。

 深くは教えてもらえなかったが、人の世で言う一年に一回、同じ周期で祈りを捧げるために南西に出向いているとのこと。


 まるで御伽話のような話だったが、大魔女は子である魔女を争わせ、魔女としての格を図った、という伝説が今でも語り継がれているようだ。


 その中に、マナミも含まれている、と王は話していたが、マナミによって妨害されている。

 マナミが妨害したからこそ、信憑性は確かにあるが、俺には関係のない話だと割り切りたかった。

 だけど魔女と関わっている以上、それは他人ごとでは済まされない事情になるらしい。


 ましてや影のドラゴンこと『大魔女のペット・フィニス』に目をつけられたのは、偶然ではないようだ。


 フィニス単体で言えば実在するかマナミも半信半疑だったようだが、あの日を境に確信へと昇華し、俺をより一層自分から離れさせたくないことにも直結するのだとか。


 俺はマナミの質問に首を傾げるしかないが、仕方のない話だろう。


「だって、クロジ。……この世界に転生したのは、魔女に恋をするため、って言ってたから」

「ああ、だから大魔女の話をされて、マナミから心が行かないかしんぱ――」

「余計なこにゃ言わなくていいの!」


 マナミは余程動揺したらしく、変に滑舌が回っていなかった。

 とはいえ、俺の頭を魔法で飛ばすか普通。


 俺じゃなきゃ死んでいるだろうし、できる限り『生きる』って記憶を明確に思い出したからこそ、不用意に命を粗末にしたくないが。


 俺は筋肉で命を結んでから、改めてマナミを見た。

 マナミには言葉で理解させた方が、筋肉よりも安心できるだろう。


「マナミは何か勘違いしていないか?」

「勘違い?」

「ああ。俺はあくまで『魔女に恋をしたい』って言ってんだ」

「魔女に。だから、大魔女様の存在をクロジが知ったから!」


 どうやら俺の憶測はあっていたようだ。

 筋肉の助言無しにマナミの考えを理解できるとか、意外と俺は乙女心の才能があるのかもしれないな。


 俺は手に抱えた果実たちを落とさないようにして、息を整えた。

 マナミには信頼されたい、信じてもらいたい、そんな俺の我儘を口にするだけだから。


「俺は、大魔女に興味はない。それに、他の魔女がいるって知ったけど……俺は、マナミがいいな」

「私、が……」

「そうだ。たとえ、この世界に魔女が星の数ほどいたとしても、俺はマナミを選ぶし、マナミが俺を選んでくれるまで付きまとうつもりだ」


 一種の変質者だが、筋肉で突き通す以上は問題ないだろう。


 仮にその大魔女が悪いやつであるのなら、俺は筋肉をもってしてドラゴン共々、マナミの障壁となるのなら破壊するつもりだ。


 マナミが魔法でしか破壊できないのであれば、俺はマナミの武器になればいい。そうすれば、自然とマナミの傍にいられるし、いずれ俺の願いも叶うだろう。


 ここまで考えられる筋肉知数が高いのは、今にしてみれば有難いものだ。


「それは、その、契約、というもの?」

「契約ってよりかは、告白に近い気が。ああ、でも、俺はマナミを予約したわけだから、理論上は契約だな」

「告白……」


 マナミは最後まで聞かなかったのか、頬を抑えたまま顔を赤くしていた。

 熱でも出たのか、と思って顔を覗き込んでみれば、黄緑色の瞳が著しく揺れている。


「クロジ。私の近くに居てもいい、だけど、恋は駄目」

「分かった。恋をしてもいいんだな。まかせろ、そういうのは得意だ」

「話が通じない野生児」

「まあ、俺は家なき子だったし、親の愛を知らないからな」


 えっ、と驚いた様子を見せるマナミだが、俺は話したと思っていたが気のせいだろうか。


 幼い頃から両親を亡くしているし、保護施設も俺を異端児として受け取りを拒否したほどだ。ちょっとの挨拶で怪我人が出たのだから、無理もない話だが。


「そんなクロジが恋をしたいって、大丈夫なの?」

「大丈夫だ。人並みの感性は持っているって自負しているからな。それに筋肉が、心配は全て俺に任せろ、って意気込んでいるからな」

「独立式生体筋肉。心配しかない」


 マナミの信用度的に、筋肉は勝ち取れていないのだろう。


 その時、うっすらと光が差し込んでいた森の中に、眩い光が吸い込まれるように差し込んできた。


「おっと、もうそろそろ家が見えてくるな」


 俺がそういうと、マナミはぎゅっと俺の服を更に掴んできた。


「クロジ。しばらくは普通に過ごすから。遠出はしないけど、いい?」

「マナミがそう言ってくるなんて珍しいな。俺はマナミの使命は知らないけど、マナミがそれを望むなら、俺は肯定も否定もしないさ。したいことをすればいいからな」

「クロジのそういうところ、嫌いじゃない。でも、クロジの解放条件、北西の手伝いは行かせるからね」


 いたずらに笑みを浮かべるマナミは、俺の手綱をしっかりと握りたいようだ。

 俺は馬じゃないんだが、マナミからすれば暴れ馬そのものなのだろう。


 帰宅してから、マナミが選び抜いた果実を使い料理を作る、俺はただマナミを喜ばせたい願いを行動に移すのだった。

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