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エピローグ 終了・日常にて②

 アーネストさんはこほん、と咳払いして「そういえば」と話を変える。


「おまえに話さなければならないことが二つある」

「二つ? 何ですか?」

「まずは一つ目」


 アーネストさんは人差し指を立てて言う。


「ロイドの使っていた水晶。あれはおそらく至宝の力の一部だ。属性は『幻』だろう。そこで言えることはただ一つ。魔導十二至宝が長い年月を経てを再び顕現した」

「へぇ。そうなんですか」

「なんだ、そのつまらなさそうな反応は」

「仕方ないですよ。だってわたしはそれがどれだけ危険なモノかまだ知らないんですから」


 魔導十二至宝。

 十二の属性の至宝を一括りにしたときの名称。

 それら全てを手にした者はどのような願いも叶えられるほどの莫大な力を与えられる、という奇跡のような代物。

 とだけ話だけは聞いていたのだが、ずっと言い伝え、伝説か何かで実在するとは信じていなかった。まさか本当にそんなものが存在していたとは思ってなかった。


「――ところで属性ってどんな種類があるんですか?」


 その質問をした瞬間、アーネストさんは口を開いたまま動かなくなった。


「だから、属性ってどんな――」

「阿呆はおまえは」


 そう言ってわたしの髪をわしゃわしゃと乱した。


「うぁ、何するんですか!」


 近くに置いてあった鏡を見てみれば、わたしの髪は酷い寝ぐせのように爆発していた。すぐさま元に戻そうとしたけれど、櫛も無いのである程度までしか戻らなかった。


「ひ、ひどいです……」

「なんだ。おまえの頭がひどいのか?」


 そう言うアーネストさんは呆れたように溜め息をついた。


「全部終わってから訊いてどうするんだ。まあ、済んだことはしかたがない。今回の事件で関わった属性についてだけ話してやる」


 と言ってからほんの少し早口で説明を始めた。


「まず属性は十二種類ある。基本六属性である火、水、風、土、光、闇。高位四属性である幻、滅、毒、無。禁断二属性の空、時。このように分類されている」

「それで今回あった属性はなんです?」

「十二のうち火、幻、滅の三つだ。これらを手短に話そう」


 三つ、か。意外と少なかったんだ。


「まずは火。黒髪のロイドが使った属性だな。主な特徴は炎を放つこと。ただし、この属性を使う魔術師が皆、火を主体とした戦闘をするわけではない。例えばこの属性が最も適している肉体強化を主とする場合もある」

「火を放つっていうのだけは見たままですね」

「ああ、基本六属性に関してはだいたいそうだ。次に幻属性。銀髪のロイドが使った属性だ。主な特徴は幻覚を見せること。しかし今回あったのは物質創造になる。幻属性は使い魔の製作に最も適した属性だ」

「では、死神は幻属性の使い魔だったってことですか?」

「そうなるだろうな。俺は死神を見ていないからはっきりとはいえないが。最も適している、というだけで他の属性でも使い魔の製作はできるんだ」

「なるほど……」

「最後に三つ目。滅属性だ。これはわかるだろ。俺がおまえに教えた魔術を打ち消す魔術の属性だ」

「はい、わかります。それで死神を消滅させることができたんですから」


 アーネストさんも言っていたけど、高位属性って言われるほどの性能なんだな。すごく便利だったし。


「正確に言えば打ち消すではなく術を解除し、その魔力を強制的に分解させる。ただし、効果が高い分大きな欠点もある」

「それって、相手の魔力に少しでも負ければ完全に打ち消せないってやつですか?」


 わたしの擬似魔術ではロイドくんの鎌を消すことができなかった。それに、もし死神が複数でなく一つに纏まっていたなら同様に消せなかったと思う。


「確かにそれもあるな。しかし、打ち消せないにしてもある程度の弱体化は見込める。だから、大きな点とは言えない」

「それじゃあ?」

「自分の使用する魔術すら打ち消してしまうことだ。そのため、この属性を好んで使用する魔術師はあまりいない」


 つまり、魔術を使用しない能力者にとって、この属性の欠点はなくなっていることになるのかな。


「こんな感じだ。何か質問はあるか? 無いな」


 質問があるか聞いておいて、直後に無いと決めつけるのは止めてほしい。


「あ、あります。一つ質問したいです」


 と手を挙げて言う。


「なんだ? 言ってみろ」

「あのですね、属性同士に相性ってあるんですか? 例えば、火は水に弱い、とか」

「有るといえば有るし、無いと言えば無い」

「と言いますと?」

「火が強ければ水は蒸発する。逆に弱ければ水に消される。互いの実力がほぼ互角の場合はどちらも消滅。結局のところ実力が上の者が勝つんだよ。後で属性に関して書いた資料をやるからそれに目に通しておけ」


 それって講義用の資料の余りだろうか。

 確かアーネストさんはどこかにあるらしい魔術学院で講師もしているとか言っていたし。


「こんな感じだ。これから先のためにも忘れるなよ」

「はい。絶対に忘れません。でも、これから先にその知識が必要になっても困りますけどね」


 そう言って属性に関する会話は終わった。


「さて、話を戻そう。俺は至宝の情報を集めるためにここを離れる。かなりの遠出になるが、この学園の夏休みが終わるまでには一度帰ってくるつもりにしている」

「そんなにかかるんですか?」

「まあ、仕方ないだろ。これくらいは。通信機で話せる状態にはしておくから、そこは安心しろ」


 そして二つ目、とアーネストさんは人差し指と中指の二本の指を立てる。


「だから俺は一昨日、ロイドとある取引をした」

「取引、ですか?」

「ああ。内容はこうだ。おまえを見逃し、今抱えている問題についても解決するきっかけを作ってやる。その代わり――」


 アーネストさんは微笑んでわたしを見る。

 何か嫌な予感がするのは気のせいだろうか。


「――俺がいない夏休みの間ティアの面倒をみてやってくれ、とな」

「何考えてんの、アーネストさん!」


 心からの叫びだった。ふざけるな。


「そんな取引、承諾しちゃったんですかロイドくんは。ぶっちゃけ裏切られたんですよ。いや、まあそれはいいとして、さっきまで敵として戦ってた者同士ですよ。絶対に気不味い雰囲気になりそうじゃないですか。わたしは嫌ですからね」


 ぷいっとそっぽを向くわたし。


「いろいろあったんだよ。ちゃんと説得して、そして話し合った結果だ。諦めろ」


 その話し合いにわたしはいませんけどね。

 しかし、とくに嫌というわけではない。ロイドくんは実際悪い人じゃないと信じているから。ただ、やり方が間違っていただけで。

 今でも思い出すあの言葉。



『たとえこの身が壊れようとも構わない。どこまで堕ちようとも構わない。エレナのためなら死ぬ覚悟もできている。俺はエレナを助けるって決めたんだ。誰にも邪魔させはしない!』



 それがどれ程の決意のもとにでた言葉なのか。

 わたしには想像することすらできない領域なのかもしれない。

 けれどそんなロイドくんのことを、言葉には絶対にするつもりはないけれど、わたしは不覚にもかっこいいと思ってしまった。

 それは、わたしがずっと目標にしてきた目の前に立つあまりにも大きすぎる存在に近しかったから。

 そう思うと、面倒をみてもらうのが気に食わないとか、いったいどの口が言ってるんだって情けなくなってしまった。


「アーネストさん」

「なんだ?」

「突然ですが、あ、あなたは、わたしのために死ぬことができますか?」


 きょとんとするアーネストさん。

 何を言ってるんだこいつは、みたいに。

 はあ、と嘆息するアーネストさん。


「ご、ごめんなさい。わたし、また変なこと聞いちゃったみたい――」

「俺はな」


 わたしの言葉を遮るように話し始めたアーネストさん。


「はっきり言わせてもらうと、おまえのために死ぬなんてごめんだ」


 そう、ですか。

 俯くわたし。

 そうはっきり言われるとかなり鬱な気分になる。

 だけれど、次のアーネストさんの言葉で沈んだ曇り空に一筋の光が射し込んだ。


「俺はな、おまえのために生きてるんだ」


 そう言ってわたしの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「とある悪ガキに言ったんだ。誰かのために死ぬなんてのは馬鹿のすることだ。本当に大切な人を守りたいのなら、その人のために生き続けろ。死ぬ覚悟なんて真っ先に捨ててしまえってな。そうでなきゃ、残された人は永遠に悲しんだままなんだから。そんなわけで俺はおまえのために死ぬことはできない」


 アーネストさんはわたしの頭から手を離す。そして、乱れた髪をすぐさま直そうとするわたしを見て微笑した。

 わたしはこのかたずっと言いたかったことがあったのだが、こんなことを先に言われてしまっては何とも言いづらい。

 いや、絶対に言えない。


「以上、俺からの話は終わりだ」

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