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第8話 勝利と敗北・その先にある希望③

 まずは星座の魔術を発動させるために必要な土地を見つける。

 対応する土地を見つければ、星座を描く星の位置に魔石を配置する。

 場所に関しては自然に発生した魔力が星座の線のように繋がっているため、線と線が交わる点を目印にして配置すればよい。

 点の場所は魔力の溜まり場で、星座でいう光の強い位置ほど魔力の密度が高くなっている。

 次に魔力の一番高い場所(今回はテレジア学園の旧校舎)にのみ魔法陣を描き、その中心に魔石を埋め込む。

 そして全ての魔石に魔力を充填した後、魔術師と能力者が魔法陣付近で戦い、それにより魔力と異能の力の渦を発生させる。

 これで初めて星座の魔術を発動させる準備が完了する。

 ただし、配置した魔石には常時魔力の充填が必要だった。本来は複数の魔術師が補助に付きその役割を果たすが、今回に限り魔術師から魔力をほぼ全て奪いとり、それを少しずつ充填していくことで代用した。

 最後に殺した者が殺された者の身体を媒体にして魔術を発動する。もし能力者が勝った場合、どうなるか俺にはわからない。おそらくその時点で魔術の進行は止まり、消滅してしまうだろう。


「こんな具合でいいでしょうか?」


 と言って説明を終えた。

 説明ご苦労様、とアーネストは微かに笑みを浮かべる。


「君の説明からすると最初から全て一人で行ったように聞こえたが、どうなんだ?」

「そんなことはありませんよ。確かにこのテレジア市街での活動は基本俺一人で行動してました。ですが、魔石を準備してもらったりなどある程度の助けはしてもらいました」

「そうか。ならば、君に魔石を渡し、この街で『星座の魔術』を発動させるように助言した者がいるんだな。君に魔術を教えた者と同一人物かは知らないが――」


 そして、アーネストは訊ねる。

 今までの問答が全てこの質問のためだけにあったと言わんばかりに。


「――ロイド。君はその者たちのことを覚えているか?」


 何を言っているんだ。

 たった数ヶ月前にあった人だ。

 覚えているかって、そんな大事なこと覚えているに決まって……


「……あれ? 何も、思い出せない」


 確かにあったはずの事実。

 しかしその人物の顔、姿、名前、何もかもが思い出せない。思い出そうとすればするほど靄がかかったようにそれを遮られる。

 死神の魔術、炎の魔術、星座の魔術。

 誰から教わったのか思い出すことができない。


「どうなってるんだよ……」


 混乱する俺にアーネストはため息混じりにそう呟いた。


「今、この状況で俺が教えてやれることはただ一つだ。君のやろうとしていた魔術がもたらす結果は世界を巻き込む奇跡の一端。十二の星座に対応する十二の至宝。獅子座に対応する『光の至宝』の降臨だ」

「――至宝の、降臨?」


 アーネストは「ああ」と頷いてから続ける。


「最初からおかしいと思っていたんだ。星座の大規模術式は間違いなく至宝降臨のためにある封印解除の魔術。そのための禁術だ。なのに、なぜか君は呪いを解くための魔術だと信じてこんでいた。いや、信じこまされていた、かな。もしかすると別の魔術の可能性があるのでは、と話を聞いてみたが、やはり俺の知るものと同じだった」


 至宝降臨の禁術。

 呪いを解くための魔術。

 信じこんでいた?

 信じこまされていた?


「一体、何が言いたい?」


 アーネストは少し言いよどむ。


「――君の目的はこの魔術によって果たすことはできないんだ」


 つまり俺の求めていた魔術は手に入らない、と。


「それってどういうことだよ」


 何がなんだかわからない。

 うまくこの状況を呑み込めない。

 アーネストは一瞬俺から目を逸らす。


「非常に言いにくいことだが、君は妹さんを助けたいという心につけ入れられて利用されていただけだったんだ」

「おい、ちょっと待てよ」


 アーネストは俺の言葉を無視して続ける。


「無理に思いだそうとしてみろ。記憶が靄に覆い隠されるような感覚はないか」


 さっきのあの感覚か。


「――ある、と言ったら……?」

「これこそが術にかかっている証拠だ。何者かの手による記憶操作。それにより星座の魔術が呪いを解く魔術だと信じこまされ、それと同時に術者についての記憶も消された」

「嘘だろ」



 声が震えてる事に気付く。

 自分では抑えることができなかった。


「おそらくこれは事実だ」

「嘘に決まってる!!」


 気付くと俺はアーネストに掴みかかっていた。


「じゃあ、俺が今までやってきたことはなんだったんだよ。エレナのためにやったことも、俺がここに来たことも。それが全部無駄だったっていうのか。あいつは今も苦しんでいるっていうのに、あのまま放っておけって言うのかよ!」


 アーネストは口を閉ざしたままだった。


「何だよ。何か言ってくれよ。何でもいいから答えてくれよ。このままじゃ、俺はいいように使われたただの操り人形じゃないか」


 今まで気にすることのなかった過去。

 俺が星座の魔術を知ったきっかけ。

 どれだけ思いだそうとしても変わらない。

 俺の記憶は閉ざされたままだ。


「……ふざけるな! 俺は、俺はまた、エレナのために何もしてやることができないのかよ。もうあいつを助けることもできないのかよ!」


 俺はその場で崩れ落ちた。

 目の奥が熱くなり、視界がぼやける。

 床にぽたぽたと水滴が落ちていく。

 何時からだろう、俺の目は涙でいっぱいになっていた。

 そんな情けない俺に一つの声がかけられる。


「――立てよ少年。俺がいつ、どこで妹さんを助けられないって言った」


 それは俺にとって救いの言葉だった。


「――え?」


 アーネストは俺に手をさしのべる。


「見てられないよ、まったく。顔を上げろ。俺がなんとかしてやる」


 だが、俺には分からなかった。アーネストの心情が。この男の思惑が。


「俺はティアさんを殺そうとしたんですよ。そんな俺にあなたは何故」

「困ってる子供がいたら手をさしのべる。それが大人ってもんだろ。……って昔に恩人から言われたことなんだけどな」


 アーネストは一旦ティアの方を向き「こいつはこのままでも大丈夫だろう」と呟く。

 そして、俺の腕を掴んで無理矢理立たせる。


「さあ、そろそろ出発するか。早く妹さんのいる場所に行くぞ。時間が惜しい」


 アーネストは俺に向かって小さく微笑む。

 窓からの月明かりに照らされているせいもあるのか、その殺気の抜けた表情は講堂で初めて出会った時と違い、何故か優しい一人の親のように見えた。


「ありがとうございます」


 そう俺はアーネストに頭を下げた。


「――礼ならティアに言え」

「え?」

「今朝ティアと連絡をとった時のことだ。通信を切る直前、こんなことを言われたんだよ」




『やっぱり、わたしにはロイドくんが悪い心を持った魔術師には思えません。わたしはロイドくんを止めたい。でも、わたしの力じゃロイドくんの力に及ばないのも事実です。最初から負けるつもりで挑むわけではないですけど、もしわたしが負けた場合の話です。ロイドくんが本当にエレナさんのために戦い続けているというのなら、よければわたしの代わりに――


 ――ロイドくんを助けてあげてください』




「本当に馬鹿だろ、こいつは」


 とアーネストは微笑む。


「ええ、その通りですよ。本当に……」


 俺はあまり微笑むことができなかった。

 もし俺が星座の魔術を成功させていたなら、とんでもないことになっていただろう。

 後悔してもしきれないくらい。容易に想像できる。

 だから、ティア。これから先、もうおまえに会うことはないだろうから、今のうちに一つだけ言っておくよ。


「――最後まで俺を救おうとしてくれて、ありがとう」


 そう言って、俺はアーネストと共にエレナの下へ帰るのだった。

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