第7話 決戦・大講堂の死闘⑤
お互いの攻防が火花を散らす。
魔術で創造した鎌はティアの短剣に触れても消えることはなかった。理由はただ一つ。鎌の魔力が短剣の魔力に打ち勝ったのだ。
しかし、これは当然のことでありお互い瞬時に理解した。
更に攻防は激しさを増していく。
「ロイドくんは、なんで自分の欲望のためにここまでできるの」
ロイドの猛攻を受け流しながらティアは叫ぶ。
「人を苦しめ、脅えさせ、そして命までも奪う。そうまでしてやらなければならないことって一体何なの!」
ロイドの一つ一つの攻撃がティアの腕に、身体にじわじわと負担をかけていく。
「言ったはずだ。救いたい人がいると!」
「あの時の話か。今となってはもう信用できないくらいだよ。だけどね、たとえどんな理由があったとしても、他人の命を犠牲にするのだけはダメなんだ」
幾多にも続く撃ち合いの末、ティアは一旦ロイドから距離をとった。
「もう終わりか。大口を叩いていた割には呆気ないものだ。そのように逃げているだけでは話にならんな!」
ロイドは微笑を浮かべ、飛びかかる。
しかし直後、ロイドはこちらへの攻撃を止めることになる。
ティアの「エレナ・エルケンス」という一言によって。
「今、なんと言った……」
もう一度ティアは言う。
「エレナ・エルケンス、と言ったの。ロイドくんの妹の名前でしょ」
その言葉に目を丸くするロイド。
「何故、その名前を知っている……?」
ロイドの勢いは完全に停止していた。
「ある事情からその人のことを知っただけ。直接会ったことがあるわけじゃない。ロイドくんの言った助けたい人がいるっていうのが本当なら、その助けたい人っていうのがエレナさんなんでしょ」
ティア自身、これを言ってしまっていいのか迷っていた。言って、ロイドを逆上させてしまうかもしれない。しかし、知っておいてほしかった。
「今、わたしの知り合いがエレナさんと一緒に行動しているの。その人に聞いた。エレナさんは数年前から呪いをかけられているんだって。それも解呪できるかわからないらほど重いもの。彼女は今、必死にその呪いと戦っているんだよ。その上、よく分からない連中に追われてもいるらしい。それなのにあなたは何をしているの。こんなわけの分からないことなんてやってずに、少しでも長く妹さんの側にいて守ってやるくらいのことをしてあげたらどうなの」
俯いたままロイドは静かに呟いた。
「――黙れ……」
しかし、その声には今までにない怒りに満ちていた。
「黙れ! おまえに何が分かるっていうんだ!」
今まで抑えていた感情が爆発したかようで。
その威圧感にティアは一歩後退する。
「分かったようなことを次から次へと並べて。そんなこと知っているに決まっている! おまえに言われずとも十分承知している! たった一人の妹なんだ。家族なんだ。側に居てやりたいに決まっているだろう!」
「なら、どうしてこんなことをしているの」
ロイドはまだそんなことを聞いてくるのかと、感情を剥き出しにする。
「エレナのためだ。俺がやってきたことは全てエレナの病気を、呪いを治すためにある。エレナを助けるためなら何だってやる」
だからロイドはここまでやってきた。
たった一人で見知らぬ土地に乗り込んだ。
「それがこの学園を、この街を襲った理由だっていうの?」
自分の妹を、大切な人を救うために必死に戦う。そこだけを聞けば見逃しても構わないだろう。
しかし、ロイドがやってきたことは他の大勢に迷惑をかける行為。恐怖を与える行為。紛れもなく間違ったやり方だ。
レンを襲い、ニコルを悲しませる。大切な友人二人を傷つけるその行いはティアにとって何よりも許せなかった。
そしてティアは訊きたいことがあった。
「それで助けられたとして、エレナさんは喜ぶと思う?」
「喜ぶわけがない。エレナはとても優しい娘だ。もしこのことを知れば、あいつは悲しむだろう。もしかしたら俺を恨むかもしれない」
「なら、他の方法を探せば良かったじゃない。探し続けたらいつかきっと――」
病気を治す方法は見つかるはずだ。
しかし、その言葉を最後まで言うことはできなかった。
「探したさ!」
ロイドの叫びはティアの言葉を遮る。
瞬時に詰め寄ってきたロイドの大鎌による重い一撃がティアに降り注ぐ。
ティアは二本の短剣を十字にし、その側面で受け止めた。
「――くっ」
強い衝撃がティアを襲う。
大鎌に黒い煙が纏っている。その黒い煙が威力をより増幅させているようだ。
「探して探して、探し回った。それでも、結局見つからなかった。ただの病気だと願っていた時に訪ねた医者は皆、口を揃えてこう言った。この娘の症状はどの病気にも当てはまらない。そのためここでは判断できない。治すこともできない。だから他を当たってくれ、と。どこに行ってもそうだった。魔術にしても同じだ。治癒の魔術に関して頼りたくても、頼れるような人がいないんだ。時間も残されていない。これ以上俺はエレナが苦しんでいる姿を見たくなかった。どうしようもなかった。だから俺は――星座の禁術に頼ったんだ。頼らざるを得なかったんだ。たとえこの身が壊れようとも構わない。どこまで堕ちようとも構わない。エレナのためなら死ぬ覚悟もできている。俺はエレナを助けるって決めたんだ。誰にも邪魔させはしない!」
ロイドは更に力を込める。ついにティアの短剣は耐えられず砕けてしまう。ティアは大鎌に切り裂かれる直前、なんとか横に避けて一旦距離をとる。
大鎌の降り下ろされた先の床は爆音とともに砕け散り、その破片が衝撃波により舞い上がる。もし直撃していたら、と考えるとティアはぞっとした。
ティアはバッグの中を漁り武器を取り出す。
例の如くそれは二本の短剣。
しかし、それらにはもう滅属性の付加はされていない。
それにしてもなんだこれは、とティアは内心で呟く。
まるで自分の方が悪者みたいじゃないか、と。
「ロイドくんの気持ちはよく分かるよ。できれば、以前のように協力したいくらいだよ」
「そう思うのなら素直に俺にやられろ。俺の邪魔をするな!」
ロイドは叫ぶ。
その話が本当なら尚更それを止めなければいけない。
ティアは知っている。
一人の大切な女の子を助けるために多くの犠牲を払ってしまった人のことを。その人が今も悔やんでいることを。
だから、ここで食い止めたかった。
レンたちを救うためにも。
ロイドを後悔させないためにも。
やはり、甘い、と言われてしまうかもしれない。
でも、一人の犠牲者も出したくない。たとえ敵と認めた相手であっても殺したくはない。
ロイドを戦闘不能の状態にする。
それが今のティアにできる最良の選択だ。
「わたしにだって守りたい人がいる」
思い出されるあの笑顔。
ティアは失われかけているそれを取り戻すために今、ここに立っている。
それはずっと変わらない事実だ。
「だから、わたしはここまで来たんだ!」
「……そうか、そうだよな」
はは、と小さく笑うロイド。
「そう簡単に退いてくれるわけがないよな。おまえ自身も大切な人のために戦っているのだから」
分かった、と続けて頷いた。
ロイドは大鎌を構える。
ティアも二本の短剣を構えた。
「この戦い、最後まで立っていた者こそが正義だ。決着をつけよう、ティア・パーシス」
「挑むところだ。ロイド・エルケンス」




