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第7話 決戦・大講堂の死闘④

 先に動いたのはティアだ。

 ロイドのもとへ地を蹴り一直線に駆ける。お互いの距離は三十メートルほども離れている。一見作戦も何もない単純な行動。

 しかしティアはもともと戦いにおいて速さを重点におく能力者だ。ロイドの懐まで到達し短剣で切り裂くまで数秒もかからない。

 手始めの行動としては妥当なものといえるだろう。

 対するロイドは右手に持つ上部に水晶の取り付けられた杖を掲げ、その場を動かずただ言葉を紡ぐ。

 魔術の詠唱が始まった。

 水晶が黒く妖しい光を放ちロイドの回りに黒い煙が現れる。それは続けて無数の糸が絡まっていくように数体の死神に構築されていった。

 ここまでの所要時間は一秒にも満たない。まさに早業といえるほどの技術だ。

 それらはロイドの「いけ!」という一言に反応してティア目掛けて突撃していく。

 無数の鎌がティアを狙う。

 しかしティアの足が止まることはない。

 ティアはその攻撃をいとも容易く避けると両手の短剣で死神を切り裂く。死神は煙となって消滅していった。

 一体、二体と死神が消滅する光景にロイドは衝撃をうけた。

 死神一体を殺すことさえままならなかったティアがなぜここまで優位に立ち回るのか。しかし、その疑問はすぐに晴れる。


(属性付加の魔術。属性にして『滅』といったところか。また厄介なものを)


 滅属性の付加魔術。

 ティアが自室で行った準備の一つであり、属性付加の魔術だった。滅属性の主な効果は魔術により造り出されたものを無力化し霧散させる。

 ただ、ティアが行う魔術は礼装の魔力のみを使った擬似魔術のため、効果にして譲り受けた刀のわずか十分の一といったところだ。しかし、死神を消滅させるのには十分な力。

 ティアは次々と繰り返し死神を殺し前進する。しかし――


「なんだこれは。しつこい!」


 いつになっても死神の数が減らない。

 自然とティアの足が止まる。


「しかし、その魔術を行使したうえで手間取っているようではまるで話にならないな」


 ロイドの言葉にティアは舌打ちする。

 たとえ死神が消え去っても瞬時に新たな死神が構築される。


(この死神たちを完全に消す方法はないの?)


 その時、ふとロイドの手にする杖がティアの目に入る。

 杖の水晶は死神を構築する度に強い光を放つ。


(あれが死神を造り出している? たとえダミーだったとしてもやってみる価値はあるはず)


 ティアは腰に手を伸ばしウェストバッグから小型のナイフを取り出す。

 そして体を横に跳躍させ死神の大群から抜け出したところで、ロイドの杖の水晶を破壊すべく一直線に投擲した。


「目のつけどころはいいようだ。しかし」


 水晶の位置を少しずらすだけでその攻撃は避けられてしまった。


「暗闇の中だからといって、このような単純な攻撃が当たるわけ――」


 ロイドはそこでティアの口元が小さく笑っていることに気がつく。

 ティアは短剣ではない何かを握っていた。

 そして杖のすぐそばに薄く光る一筋の線。

 それは極細のワイヤーだった。


(――しまった!)


 気づいた時にはもう遅い。

 ティアは握ったワイヤーを思いきり引く。

 次の瞬間、避けたはずのナイフが繋がれたワイヤーにより引き戻されロイドの腕に直撃した。


「くっ!」


 床に数滴の血が飛び散る。

 腕の傷は浅かったが、その結果ロイドの杖は手から落ちて離れた場所に転がっていく。

 同時に杖への魔力の供給が途絶えたのか、死神の動きが鈍くなった。

 ティアはそのチャンスを逃さない。

 持ち前の身軽さとスピードを生かし、一瞬で離れた杖との距離を詰める。再びバッグから短剣を取り出し杖の先端の水晶を貫く。

 水晶は粉々に砕け散った。

 それに連動するかのように死神が消滅していく。

 次第に水晶から光は消えていき、死神が復活することもなかった。


「もう死神は使えないはずだよ。さあ、どうする!」


 ティアはロイドに短剣の切先を向けて言う。

 しかしロイドの表情からは未だに焦りや怒りなどという感情が見受けられない。

 それどころかくくく、と小さく笑う。


「たしかにこれで俺の魔術が一つ失われた。しかしこれはそこまで重要な物ではない。もう無理してこれにこだわる必要はないからな」


 ティアはその言葉に引っ掛かりを感じる。

 この杖が重要でないのなら今までの死神は一体何だったのか。死神を使役して準備をしてきた。魂を奪ってきた。それがもう必要ない?


(どういうこと?)


 そこでティアの思考は妨害された。

 突然、床に展開された魔法陣が大きな魔力を伴いながら紅く輝きだしたのだ。


「え? 一体これは……何が起ころうとしてるの」


 時間の経過と共に魔力の放出量がどんどん多くなっている。このままだと何かが起こることは目に見えている。

 しかしティアにはこの現象の具体的な止め方は分からない。今できることは目の前の男を無力化することだけだった。

 ティアは再びロイドへと注意を向ける。


「もう時間か。悪いが遊びはここまでだ」


 言いながら、ロイドは右腕を掲げる。

 その手の上から強く黒い光が放たれる。

 それは死神の持っていたモノよりさらに大きな鎌のシルエットを映し出した。光が弾けそこからガラス細工のように美しく、そして禍々しい雰囲気を漂わせた『鎌』が出現した。


「全力でおまえを狩らせてもらおう!」


 ロイドは構える。

 死神を失ってなお、余裕の表情を崩さない。


「やれるものならやってみろ!」


 ティアはもう一つの短剣を取り出す。

 二刀流。両手に一本ずつの短剣を構える。

 踏み出したのは同時だった。

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