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第7話 決戦・大講堂の死闘③

 静寂の中、足音一つたたせずに歩を進める。

 旧校舎へ行くのはいったい何度目になるだろう。一ヶ月間ほどはこの風景に縛られていた気がする。だが思い入れは何もない。見飽きたこの風景を見るのがこれで最後になることを願うのみだ。

 旧校舎を包む黒い靄が立ち塞がる。靄という実体無き結界に向かって、刀を用いた斬撃を放つ。

 それは空間を切り裂くかの如く、結界に絶大な傷痕をつける。

 すると、そこを起点にして気体であるはずの靄がまるで固体のように割れて、崩れて、地に落ちていく。

 やがて跡形もなく消えていった。半円状に旧校舎を囲む結界はその入口付近だけでなくその周り、天井となる部分も全て消滅している。

 おそらくここから反対側もきれいさっぱり結界が消えていることだろう。

 アーネストさんからもらいうけた、魔力を断ち切る刀の効果は絶大で予想以上だった。

 もしこれを使えばロイドくんとの戦いも有利に立ち回れるのではないだろうか、と考えもしたがそれは無理だと悟った。

 理由は二つある。まず一つ目はわたしにとってこの刀は重すぎるということ。素早い動きを武器とするわたしにとって、この刀は少々使いづらいと言えた。そしてもう一つ。今までわたしは刀の使用経験がなかったこと。

 ゆえに刀の使い方をいまいち理解していない。さっきの斬撃にしてもアーネストさんのスタイルを真似てみただけなのだ。やはり、わたしには短剣の二本持ちが一番しっくりくる。

 刀を腰に付けたウェストバックにしまい先に進む。

 目指すは旧校舎の大講堂。

 その大きな鋼鉄の扉を開いた。


「いるんでしょ。出てきてよ」


 開かれた天窓から差し込む光に照らされた講堂に静かな声が響く。

 その言葉に反応するように講堂奥の舞台上に黒い煙が逆巻く。その煙が一点に集まると、そこに一人の男が現れた。


「あの結界を破壊したのか。おまえ、一体何をした」


 そんな言葉を発するも、ロイドくんの言葉にはまるで焦りというものが感じられなかった。わたしには彼がこの状況を愉しんでいるように見えて苛立ちを覚える。そんな彼に返す言葉はこの時点では何もなかった。


「教えるつもりはないってか? だがそれでいい。俺はおまえの敵だ。今までみたいに不用意に話すと、今度こそ命の保障はなくなるぞ」


 ロイドくんは舞台から軽い足取りで床に飛び降りた。

 再び対峙するわたしとロイドくん。

 二人の間には今までにない異様な空気に包まれていく。


「それにしても、本当に来るとは思わなかった。力の差は歴然。俺とおまえが戦ったとして、俺が負けるとは思えないのだが」

「確かにそうでしょうね。あなたがどれくらい強いかは、その纏っている魔力の大きさでだいたい分かるよ」

「なら何故、おまえは俺の前に立ちふさがる。勝てない可能性が圧倒的に高いと分かっていながら、何故ここまで来た。おまえは何を望んでいる」

「わたしの望みはレンちゃん達を元に戻すこと、それだけだよ」

「言ったはずだ。俺は魂を奪われた者たちを元に戻すつもりもなければ、この計画を中止するつもりもないと」


 ロイドくんは一息ついてから言う。


「これ以上、話してもしかたがないだろう。さあ、そろそろかかってきたらどうだ。おまえの友人が死なないためにも」


 にやりと不気味な笑みを浮かべるロイドくん。


「もう、止めるつもりはないんだね」


 その問にロイドくんは何も答えなかった。

 そっか。なら、わたしのやることは一つだ。

 いい加減、断ち切ろう。話し合いで解決するという、平和的な幻想を。

 ウェストバッグ、異空間から二本の短剣を取り出して構える。


「これから先もまた、ニコルちゃんや他の人たちを無差別に襲うと言うのなら――」


 無関係の人々に恐怖を与える。

 数多くの人々に苦しみを与える。

 その先にあるというふざけた計画はここで終らせる。


「わたしはあなたを絶対に許さない!」


 わたしは叫ぶ。

 確かな敵意をかつての協力者に向けて。

 今、二人の死闘が始まった。

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