第410話 不信
どこか嬉しそうな様子で近づいてくるガレス。御者台に座っていた獣人組は馬車から降りて彼らを出迎えます。
「予想以上に早かったな」
「そうか?」
「そりゃそうだろ。怪我人がいるんだから」
グレイクが首を傾げるとガレスは呆れた様子で言葉を零しました。全治二週間程度の骨折をしていたアレッサはともかく、内臓損傷という重傷を負っているノンは本来であれば入院していなければなりません。
「それで会議の方はどうなんだ?」
ですが、彼らは種王会議で魔族のことを話すという役目を果たすため、無理をして馬車の旅を続けて獣都までやってきました。これで種王会議がこの街で開かれなければここまで来た意味はありません。
「ああ、無事に通った。特に精霊王と妖精王はノンを参加させるためって言った途端、大騒ぎしてたぞ……って、ノンとアレッサはどこだ?」
「ここよ」
一向に姿を現さない人間組に気づいたのか、ガレスが周囲を見渡していると荷台から外套を羽織ったアレッサが顔を出します。
「ッ……」
すると、ガレスの周囲にいた護衛たちが彼女を警戒するようにガレスの前に出ました。外套で姿を隠していますがガレスから話を聞いているのか、彼女が人間だと知っているのでしょう。やはり、ガレスの手紙があったとしても人間に対する不信感が消えたわけではなく、どうしても警戒してしまうようです。
「……おい、てめぇら」
その時、笑顔で話していたガレスから思わず背筋が伸びてしまうほどの低い声が漏れました。そして、護衛の一人に近づき、その頭を鷲掴みにします。
「言ったよな? こいつらはハーニンド大陸とこの大陸で暗躍してた闇ギルドと魔族を退いてくれたって」
「し、しかし!」
「こいつらがいなきゃ未だに獣人は闇ギルドに誘拐され、ハーニンド大陸で奴隷にされてた。だから、丁重に扱えって言ったよなぁ?」
「ガッ、ぐぅ……」
ギリギリと頭を掴む手に力が込められているのか、護衛の一人が苦しそうに呻き声を漏らします。このままでは彼の頭は潰されてしまうでしょう。
「……申し訳ございませんでした」
「……はぁ。悪いな、何度も言い聞かせてるんだがまだ人間を許せないらしい」
ガレスの言葉で引き下がるしかないと思ったのか、護衛たちはどこか悔しそうに顔を歪めて謝罪しました。明らかに納得していなさそうな彼らにガレスはため息を吐いて護衛の頭から手を離した後、アレッサに声をかけます。
「そりゃそうよ。奴隷にされた人たちが全員、帰ってきたわけじゃないんだし」
ガレスの謝罪に気にした様子もなく、面倒臭そうに腕を組むアレッサ。なお、ガレスと護衛たちは獣人語で話していますがアレッサは師匠から獣人語を勉強しておいた方がいいと言われ、獣人語を習得しています。彼女の師匠が何故、そのようなアドバイスをしたか、その理由はアレッサも知らないとのことでした。
「それでノンは? もしかして容態が悪化したとか?」
「いえ、元気ですよ」
「うおっ!? なんだその格好!?」
やはり、ガレスもノンのことを心配していたのか、少し不安そうにアレッサに問いかけると彼女の後ろから蓑虫がにょきっと顔を出します。さすがに予想外な格好だったからか、ガレスは目を見開いて驚きました。護衛たちも蓑虫状態のノンを前に言葉を失っているようです。
「馬車はどうしても揺れますからね。こうやって体を固定して傷が悪化しないようにしてるんですよ」
「そ、そうだったのか……苦労かけたみたいで悪かったな」
「いえいえ、気にしないでください」
どこか気まずそうに謝るガレスにノンは首を振って笑いました。種王会議がこの街で開かれるということはオウサマたちと再会できるということ。そう考えるだけで自然と笑みが零れてしまいました。
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