第409話 ガレウス
「まだかよー」
獣都ガレウスの外壁前に到着して数時、御者台に座ったアゼラが疲れた様子で愚痴を零しました。獣都に到着したのはいいものの、門が一つしかないため、街に入ろうとする人と出ようとする人で混雑していたのです。
「なんでこんなに混んでんだよー」
「ここしか入り口ないからね。ブレゾニアの時も待ったけど……もっとさくさく進んでたような」
「それだけ警戒してるってことよ。ほら、そろそろだからもう少し我慢しなさい」
アゼラの問いにノンも首を傾げましたが外套で身を包んだアレッサが面倒臭そうな表情で答えました。やはり、獣人誘拐事件の影響はノンたちの予想以上に大きいようです。
「次!」
街の中に入ったらどうするか、など色々と話し合っているとノンたちの順番が来ました。ノンとアレッサは荷台の中で息を潜めます。
「ここは獣都ガレウス。この街に入りたいか?」
低い声に御者台からチラリと外の様子を覗くと鎧を身に纏った猿耳の獣人がしかめっ面を浮かべてグレイクを見上げています。御者台にアゼラとミアも座っていますがブレゾニアの門番だったニックのように見た目だけで難癖を付けてくるようなことはありませんでした。
「ああ」
「わかった。では、持ち物検査と荷台の中を見させてもらう」
「その前にこれを門番に渡せと言われた。中身を確認してくれるか?」
「む? 手紙?」
グレイクがガレスの信書を門番へ渡します。首を傾げながらそれを受け取り、差出人を確認するためにそれをひっくり返しました。
「ッ!? 少し待ってろ!」
手紙を書いたのが獣王ガレスだとわかったのか、門番は目を見開いた後、慌てた様子で踵を返してどこかへ行ってしまいます。
「大丈夫ですかね」
「え? 何が?」
「ブレゾニアの時、色々あったじゃないですか……なんか少し不安で」
「あれはニックがアホだっただけよ。魔法学校に通ってた時はまだマシだったんだけどね」
荷台に隠れているノンでしたが、門番の慌てぶりに小声でアレッサへと話しかけました。ですが、彼女は事もなげにいつものように面倒臭そうな表情を浮かべながらため息を吐きます。
「そういえばニックさんって師匠の知り合いなんですね」
「ええ、あんまり話したことはない……っていうか、なんか向こうから突っかかってきてたわ」
「……ん? えっと、どんな風に――」
「――おい、悪いが馬車ごとこっちに来てくれ!」
「わかった」
彼女の言葉に少し違和感を覚えたノンは詳しい話を聞き出そうとしますがその前に猿耳の獣人が戻ってきてしまい、馬車が動き出しました。どうやら、門の前だと注目を浴びてしまうため、場所を変えるようです。
「この分だと大丈夫そうね」
「そ、そうですね」
ニックのことも気になりますが今は獣都の方が優先です。ノンは煮え切らない気持ちになりながらも素直に頷いておくことにしました。
「よし、止まれ! ここで少し待っていてくれ。あの手紙に書かれていたことが本当かどうか、念のために上に確認を取ってもらってるから」
「ああ、わかった」
猿耳の獣人はそう言うと再びこの場を離れていきます。チラリと御者台から顔を出すとどうやら、一時的に馬車を保管しておく倉庫の中のようでした。それから十数分ほど待ったところで倉庫の入り口から数人の足音が聞こえていきます。
「おー、無事に着いたか。よかったよかった」
そして、あろうことかこの街の――この国の王である獣王ガレス本人が手を振って馬車に近づいてきました。周囲にいる護衛らしき人たちはどこかそわそわした様子でその後を追ってきます。
「……あの人、自分が王様だって自覚あるのかしら」
「さぁ?」
港町ダレッツにも単身で乗り込んできた件を含めて王様らしからぬ言動にアレッサは呆れてしまい、ノンも苦笑いを浮かべるしかありませんでした。
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