第408話 信書
「お、見えたぞ!」
馬車の旅を続けること一か月半。馬車の隣を並走していたアゼラが少し興奮した様子で大きな声を出しました。食材の処理をしていたノンは顔を上げて御者台の方へと蓑虫を動かします。
「あれが獣都ですか?」
「ああ、前に見た時よりも外壁が高くなっているが間違いないはずだ」
「わぁ、着いたんですね!」
グレイクが頷いたことでミアも嬉しそうに声を上げました。馬車での旅だったため、徒歩での移動よりも早く着きましたがそれでも一か月以上の旅を終えるとそれなりの達成感があるのでしょう。
「ふわぁ……着いたの?」
「はい、あれが獣都です」
「へぇ、立派な外壁ねー。ブレゾニアにも負けてないんじゃない?」
欠伸を噛み殺しながら荷台から顔を覗かせたアレッサはノンたちの会話を聞いて感心したように言葉を零しました。
獣都ガレウスは獣王ガレスが治めていることもあり、ガルモ国の中で最も大きな街です。ミアが話していたように人口五十万人ほどであり、そのほとんどが獣人。ガレスの要望が通っていた場合、あの街で種王会議が開かれます。
「じゃあ、今のうちに準備をしちゃいましょ。ノン、マジックバックから私の外套を出してくれる?」
「わかりました」
実際に魔族と対面したガレスは獣人誘拐の主犯が人間ではないと理解してくれましたがまだその情報がケレスカ大陸全土に広まっていないため、人間に対する不信感を抱く獣人は複数います。そのため、不要な面倒事を起こさないようにケレスカ大陸では逆にノンたち人間組が姿を隠していました。
「確か、門番にガレスから受け取った信書を渡せばいいのよね?」
「ああ、そうすれば人間であるお前たちも中に入れるように取り計らってくれるらしい」
「じゃあ、グレイクさんに渡しますね」
獣都へ入るためには門を通る必要があり、門番の許可を得らなければなりません。特に今は獣人誘拐事件で警戒度は高まっているため、荷台を含めて厳重にチェックされるでしょう。
また、アレッサは外套で顔を隠そうとしていますが門を通る時に顔を出せと門番に言われるのは明白。もし、彼女が人間だとばれたら大騒ぎになってしまいそうです。ましてや、荷台を覗かれたら蓑虫状態のノンが見つかったら門番たちに囲まれて事情を聞かれることでしょう。
それを避けるためにガレスが門番に向けた信書を渡してくれたのです。これでブレゾニアの時のようなひと悶着は起こらないでしょう。
(手紙、か)
マジックバックからガレスの信書を取り出しながらノンはオウサマから預かっていた手紙のことを思い出します。ガレスに手紙を渡そうとした直前、バンデルの狙撃を感知したため、咄嗟にその手紙を手放してガレスを庇いました。その後、砂浜で戦闘があったため、オウサマの手紙が紛失してしまったのです。
(結局、手紙の中身はなんだったんだろ)
封を切ってしまうと信憑性が限りなく下がってしまうため、最後の最後まで中身を見ることはできませんでした。それが少しだけ悔やまれます。
「グレイクさん、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
そんなことを考えながらガレスの信書をグレイクへ渡すノン。獣都ガレウスはもうすぐそこ。あの街で種王会議が開かれ、オウサマやテレーゼと再会できるかもしれない。それが楽しみなのでしょう。ノンの口元は自然と緩んでいました。
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