第407話 リハビリ
食事も終わり、アレッサとアゼラは見張りをする間、焚火にくべるための薪集め。グレイクは馬の餌と水やり。ミアは血抜きを終えた兎の解体、とそれぞれの仕事に戻りました。
「……」
その間、ノンは包帯の手を器用に操って使用した食器を洗い終え、野営地から少し離れた場所に移動します。そして、自分の周囲に白いドームを展開させました。
「すぅ……はぁ……」
持ち込んだ魔道具のランタンに光を灯した彼は深呼吸しながら自分を包んでいた包帯を解いていきます。ガレスの拳やバンデルの狙撃によって大怪我を負ってしまったノンは旅の間に怪我が悪化しないように包帯で体を固定して過ごしています。ですが、ずっと同じ姿勢でいるのも体に悪いため、寝る前に包帯を解いて簡単なリハビリをしていました。
「ぐっ……」
ゆっくりと体を動かしているのにズキリと体の内部に痛みが走りました。異世界印の薬のおかげで骨折はほとんど治っていますが内臓損傷はそう簡単にはいかず、完治半年と言われた理由がわかります。
「ふぅ……」
それでも体を動かさなければ筋肉も衰えてしまい、完治したとしても上手く動けない状態になってしまう。それだけは避けたいため、痛みに堪えながらノンは包帯を使ってリハビリを続けます。救いなのは前世の闘病生活で常に体を襲っていた痛みよりもマシなところでしょう。
「ノン、ここにお湯を置いておくわね」
痛みに耐えながら体を動かしていると不意にドームの外でアレッサが声をかけてきました。そして、ノンの返事も待たずに足音が遠ざかっていきます。
「……ありがとうございます」
もう彼女には届きませんが白いドームの中でノンは小さくお礼を言い、ドームの一部を開けてお湯の入った桶を包帯で中に引き込みました。
(まだ引きずってるのかな)
服を脱いで即席で作った包帯の棚に置いた彼はゆっくりとタオルで体を拭きながら苦笑を浮かべます。
前世のおかげ、というにはあまり褒められたものではありませんがリハビリのやり方を知っていたため、包帯を使えば一人でも体を動かせました。ですが、わざわざ白いドームの中でやる必要はありません。むしろ、包帯を使わずにアレッサたちに手伝ってもらうこともできたでしょう。
――のん君。
ですが、いつまで経っても忘れられない前世の幼馴染の女の子。前世でリハビリをしている最中、たまたま鉢合わせた彼女の悲痛な表情が脳裏に浮かびます。あの時、彼女は何を思ったのでしょう。もうそれを知る術はありません。しかし、その表情は今もなお、彼の心の中に鍋底にこびりついた焦げのように残ったままです。
だからでしょうか、ノンは骨折が治ってリハビリができるようになった頃、仲間たちに白いドームの中でリハビリすると告げました。アレッサたちも特に否定することなく、それを受け入れ、その理由を聞かずにさりげなくフォローしてくれます。
「はぁ」
体を拭き終えたノンはいそいそと新しい服を着ながら小さくため息を吐きました。獣都までもう少し。今は一か月後に開かれる種王会議に集中しよう。そう決めて彼は今日も激痛に耐えながらリハビリを続けます。
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