第405話 察知
馬車での移動を選んだおかげで予想よりも順調に旅を続けられているノンたちですが、どうしても夜は足を止めなければなりません。
「ご飯ができましたよー」
「お、飯だ飯!」
蓑虫状態のまま、包帯の手で鍋をかき回していたノンは味のチェックを終え、周囲にいる仲間たちに声をかけます。すると、邪魔にならないように少し離れた場所で素振りをしていたアゼラがタオルで汗を拭きながら鍋の近くに駆け寄ってきました。
「今日もいい匂いね。ほら、手を出しなさい」
「ぐえっ……いきなり掴むなよ!」
しかし、そんな彼の首根っこを掴んで止めたアレッサは右手の上に水球を作り出します。軽く首を絞められたアゼラはジト目でアレッサを見た後、その水球でジャバジャバと手を洗い始めました。
「アレッサ、こっちにも頼む」
「お願いします」
「はいはーい」
そんな彼らに先ほどまで馬の世話をしていたグレイクと森の中に入って斥候の練習をしていたミアが近づいてきます。二人ともそれなりに汚れているようで手を洗っているアゼラの後ろに並びました。特にミアは斥候の練習がてら兎を狩ったようで手が僅かに血で濡れています。
「ノン君、今、兎の血抜き中だから解体が終わったら渡すね」
「うん、わかった」
水球で手に付着した血を洗いながらミアが伝えるとノンは素直に頷きました。この旅の間、ミアの斥候の技術は格段に上がっており、今では自分一人で狩りをできるほどになっています。
「はい、これでよし。じゃあ、早速食べましょ」
全員の手を洗い終わったアレッサはわくわくした様子であらかじめ設置しておいた丸太に腰掛けました。その隣にミアも続きます。
「ノン、今日の飯はなんだ!」
「今日は一昨日、グレイクさんとミアが狩った猪のお肉を使ったお鍋だよ」
「おー! ボリュームがあってすげぇな!」
アゼラの視線の先では焚火の上で猪鍋がぐつぐつと煮えていました。とても美味しそうな匂いが周囲に充満しており、自然と笑みが零れてしまいます。
「じゃあ、盛るから少し――」
「――待って」
包帯の手でお玉を掴んだノンがお椀に具材をよそおうとした時、あれだけ笑っていたアゼラが真剣な表情を浮かべて止めました。何事かと彼に視線を向けると闇に染まった森の奥をジッと見つめています。
「あっちの方から魔物が近づいてきてる」
「……あ、本当だ」
アゼラは己のスキルが発動したのか、小さな声で警告しました。すると、その数秒後にノンの魔力感知にも少し大きめの反応。猪鍋の匂いに引かれ、魔物が近寄ってきてしまったのでしょう。
(アゼラのスキル、どんどん精度が上がってる)
大槌に手を伸ばし、立ち上がった彼を見ながらノンは思わず感心します。『ステータス』で確かめたわけではありませんがアゼラは危険察知系のスキルを持っていると思われ、これまでに何度も事前に敵の接近を感知していました。
しかし、ノンの魔力感知も精度が高い上、広範囲なため、基本的にはアゼラよりも先に魔力反応に気づきます。ですが、魔力感知はあくまで感知範囲内にいる動物や魔物の魔力を感じ取るだけであり、その魔力反応の持ち主がノンたちに敵意を抱いているかまではわかりません。
それに比べ、アゼラのスキルは自分に敵意を向けた相手を感知するものだと考えられます。つまり、距離や障害物も関係なく、スキルが発動する。そのため、ノンの魔力感知範囲外の相手でも通用する、強力なスキルでした。
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