第403話 獣都
「そういえば獣都ってどんな街なんですか?」
馬車の旅が始まって一か月が経った頃、もう少しで目的地である獣都ガレウスに到着する、というところで包帯で肉の下処理をしていたノンが誰にともなく問いかけました。相変わらず蓑虫状態の彼ですが、包帯操作のいい練習になったらしく、今も目にも止まらぬ速さで肉の筋取りを続けています。
「……」
「アレッサさん?」
「さすがにケレスカ大陸の土地勘はないわ。グレイクはどう?」
「ハーニンド大陸に行く前に少しだけ滞在していた程度だ」
「あ、なら、私が説明しますか?」
アレッサとグレイクが少し困ったような反応を見せると馬車の外でミアがおそるおそるといった様子で名乗り上げました。アゼラとミアは体力作りのために馬車の周囲を走っていましたがたまたま近くを通ったのでしょう。
「ミアは詳しいの?」
蓑虫状態のノンは包帯を操作して荷台から外に出て馬車の左側を走っていた彼女に近づきます。馬車の旅を始めた頃に同じように顔を出した時、ミアは驚きすぎて腰を抜かしてしまうハプニングがありましたがすっかり慣れてしまったのでしょう。
「うん、獣都はケレスカ大陸の中で最も大きい街だから。故郷にもケレスカ大陸の地理に関する本があったから基本的なことは知ってるはず」
「じゃあ、お願いしてもいい?」
「わかった。えっと、人口は五十万人弱だったかな。大半が獣人族だけど他の種族も住んでてお互いに協力しながら暮らしてるんだって」
それからミアは獣都で有名な特産品や施設の説明をしました。獣人は魔法が得意ではないため、ブレゾニアのような魔法学校はないようですが図書館などそれ以外の基本的な施設は揃っているそうです。また、街の中央には巨大なコロシアムがあり、参加者を募ってトーナメント方式で戦い、優勝者を決める大会が度々、開かれるのだとか。
獣人は種族の特徴として戦いやそれを見るのが好きな傾向にあります。そのため、そういった施設や大会が開かれるのでしょう。
「その大会で優勝すると何かいいことがあるの?」
「優勝賞金があるのと冒険者なら指名の依頼が来たり、決まった職業に就いてなかったらスカウトが来たり……色々と恩恵はあるみたい」
「へぇ、そうなんだ」
「確かにそうだったな」
「……ん?」
ミアの話にノンとグレイクが反応しましたがグレイクの言葉に少し引っかかりを覚え、思わず御者台の方を見てしまいます。それからミアと顔を見合わせてグレイクが見えるところまで移動しました。
「えっと、グレイクさん? まるで、その大会で優勝したみたいな言い方でしたが……」
「ああ、ハーニンド大陸に行く前の腕試しで参加した。その時、すんなり優勝できた」
「……」
何気なく答えるグレイクですが、獣都ガレウスのコロシアムで行われる大会は言わば腕に自信のある獣人たちの頂点を決めるもの。何年も前の話とは言え、その大会で優勝したことがあるということはとてもすごいことなのではないでしょうか?
「その時、なにかいいことありました?」
「路銀稼ぎにはなったな。それから色々と声をかけられたが目的があったから全部断ってハーニンド大陸に来た」
グレイクは誘拐されてしまった幼馴染を探すため、冒険者業をしながらハーニンド大陸の各地を回っていました。その途中でノンたちと出会い、なし崩しにケレスカ大陸に戻ってくることとなったのです。
「……」
こちらに視線を向けず、ひたすら御者に徹するグレイクにノンは思わぬところで彼に対する評価を上げることとなったのです。
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