第386話 雷人
「すぅ……はぁ……」
バチリ、と音を立ててバンデルがいた場所に瞬間移動していたアレッサ。彼女の足元の砂浜は雷の熱によってドロドロに融解し、赤熱していました。そして、その赤熱した砂の上に立っているのにアレッサの足は無傷。
その時、やっとグレイクは気づきました。
「足から、魔法?」
そう、雷は両手だけでなく、両足からも溢れていたのです。
喧嘩殺法魔法は両手に属性魔法を纏い、触った相手の内部で魔法を形成するもの接近戦特化の異質なもの。ですが、今の彼女の足からはバチバチと紫電が迸っていました。
「こ、れがヴァアロを苦しめた魔法ですか! 確かに体の内側から魔法を叩き込まれる痛みは耐えがたいものですね!」
アレッサに吹き飛ばされたバンデルは翼を広げることで空中でその勢いを殺し、宙に浮きながら叫びました。彼の頬は黒く焼け焦げており、全身も負けないほど黒焦げになっています。喧嘩殺法魔法によって体の内側で雷魔法を形成されたせいでしょう。
「ですが、あの少年がいなければあなたたちは空を飛べない! ガレスを殺せなかったのは予想外ですが、あの少年を無効化できたのはむしろ良かったですね!」
「っ……」
バンデルの言うとおり、ノンの跳躍がない現状、空を飛べるのは大槌の遠心力を利用して空中を移動できるアゼラのみ。それも有効打にはならず、ほぼ打つ手がない状況。これではアレッサの喧嘩殺法魔法もガレスの超火力も意味を成しません。
「だから、ここから魔法を放てば――」
「――うるせぇんだよ」
再び、閃光が迸る。そして、空中で勝ち誇ったように笑うバンデルの横にアレッサが現れ、紫電を纏った右足を高々と上へ振り上げます。
「ガレス!」
「ガッ」
何か起こったかわからないまま、バンデルはアレッサの踵落としを受けて砂浜へと急降下。踵を落とす角度を調整したのか、凄まじい勢いで落ちるバンデルの先にはアレッサが呼んだガレス。
「はッ!」
バンデルが砂浜に落ちる直前、ガレスが音速の拳を放ちます。もちろん、バンデルは何もできないまま、その拳を受けて密林の方へと消えていきました。
「逃がすかよッ!!」
すかさず、空中にいたアレッサが地面を蹴るように右足を動かして密林へ突っ込みます。そして、バチリという凄まじい閃光。密林の奥から黒焦げのバンデルが砂浜に戻ってきました。恐ろしい勢いで殴られたか、蹴られたか。彼の体は何度も砂浜を転がり、海に落ちる寸前で止まります。
「何が、起こって――」
「――話す暇なんかねぇよ」
砂浜を駆ける雷。両手、両足から紫電を迸らせたアレッサが砂浜に転がるバンデルの真上に現れました。そのあまりの速さに誰もが驚き、その目を眩ませるほどの雷撃がその右足に宿ります。
「――【轟雷】」
刹那、砂浜から音が消えました。しかし、それも一瞬。雷が落ちたと錯覚してしまうほどの爆音と雷光が砂浜にいる全員を襲います。特に獣人組は聴覚に優れているため、その音に思わず顔をしかめてしまいました。
「があああああああああ!!」
耳鳴りが響く中、バンデルの絶叫が聞こえてきます。チカチカと瞬く視界で二人を見れば右足に雷を纏ったアレッサがバンデルを踏みつけ、その体の内側に魔法を撃ち込み続けているようでした。
「あれが……アレッサの本気」
グレイクも奥の手を持っているとはいえ、あれほどの破壊力を持ち合わせていません。あれで何故、まだ金級なのかわからないほどアレッサの喧嘩殺法魔法は異常であり、あれを使いこなせる彼女の特異性にやっと気づきました。
「もうおしまいか?」
雷撃が止んだ後、アレッサは足元で真っ黒になって転がっているバンデルに向かってそう問いかけました。
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