第387話 炎人
「ま、さか!」
地面に転がっていたバンデルでしたが黒焦げのまま、翼を羽ばたかせ上空へと避難します。そして、魔族特有の回復力で元の青い肌に戻った頃になって宙で制止しました。
「ヴァアロと戦った時は本気を出していなかったということですか。ですが、魔族は不死! どんなに痛めつけられたところで意味などありません!」
「なら、てめぇの心が折れるまで何度も潰すだけだ」
砂浜に立っているアレッサは宙にいるバンデルを睨みつけながらそう断言します。しかし、あれだけ激しく動いていたからか、彼女は少し肩で息をしていました。おそらく、魔力の消費量もそれ相応なのでしょう。
「……」
「っ!」
そんな彼女を見たグレイクはアゼラとミアに視線を合わせ、頷きます。彼らも今がチャンスだとわかったのか、静かに砂浜に降りてグレイクから離れていきました。
「ガレス、アレッサに合わせるぞ」
「……その方がいいみたいだな」
バンデルはアレッサの猛攻に魔法を撃つ暇がありません。彼女の魔力が尽きるまでどれほどかわかりませんが援護して少しでもその消費を抑えるべきなのは明白。
そんな会話が聞こえたのでしょう。鋭い眼光でグレイクたちを見たアレッサも小さく頷きました。
「……なら、こっちだな。【炎人】」
先ほどまでは雷魔法を纏っていた彼女ですが、その両手両足に炎を纏います。その熱量は離れているグレイクたちにも届くほどのものでした。
「とっとと落としてやるよ!」
ドン、という音と共にアレッサの体が真上に打ち上がります。両足に纏った炎を真下に噴出して空を飛んだのでしょう。
「……」
――あら、お姉さま知らないの? 私、空も飛べるの。
空高くへと飛んでいく彼女の姿を見てグレイクは二週間前に聞いた王都西区のギルドマスターであるアリスとの会話を思い出していました。あの時の言葉は冗談ではなく本当のことだったのです。
「チッ、逃げんな!」
「それは無理な話ですね!」
どうやら、バンデルはアレッサの魔力切れを狙っているらしく、空を縦横無尽に逃げ回っており、アレッサも炎を巧みに操って追いかけますがあと一歩と言うところでかわされていました。
「≪風弓≫」
そんな彼らを見上げながらグレイクは風魔法が付与された矢を作り出し、弓に番えます。最も速度の出る≪雷弓≫は直線的な軌道しかできず、当たったとしても大したダメージにはなりません。
だからこそ、風の力によって矢の軌道を変えられる≪風弓≫を選びました。彼は後衛職である弓矢使い。後ろから敵にダメージを与えるのもそうですが、前衛が戦いやすいように戦場をコントロールするのも仕事の一つです。
「っ!」
ギリギリと軋む弓。矢先を上空で飛び回っているバンデルに向け――ずにほぼ真上に向かって矢を放ちました。
グレイクが放った矢はグングンと高度を上げ、追いかけっこをするアレッサたちをも超えます。そして、突然、付与された風の力によってその軌道を変え、真下へと落下。このまま、何にも当たらずに砂浜へ着弾する。
「なっ!?」
「はっ! さすがだな!」
しかし、それは軌道上へ滑り込んできたバンデルの片翼を貫き、一瞬の隙を作りました。もちろん、その隙を見逃すアレッサではなく、硬直したバンデルの顔面へ右足を叩き込みます。
「ぎゃああああああ!」
その瞬間、彼の顔面が爆裂し、肉が焦げる匂いを漂わせながら耳をつんざくような悲鳴が響き渡りました。
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