第383話 手紙
「よかった……」
オウサマの手紙を見せることでなんとかガレスの怒りを抑えることができたノンは小さく安堵のため息を吐きます。
(ひとまず、第一関門突破か……)
ノンたちは最初からガレスに勝つつもりはありませんでした。勝機はない上、仮にガレスを倒したとしても人間と獣人の溝が深くなるばかりで何も解決しないからです。
そこでノンが提案したのは以前、グレイクにも伝えていた切り札の一つ――オウサマの手紙をガレスに見せることでした。精霊王であるオウサマの手紙を所持している、という時点でノンとオウサマに何らかの関係があるとわかります。仮にオウサマと知り合いのノンを殺せば精霊との不和が生じるかもしれない。それだけでガレスはノンの正体をはっきりさせるまで殺すことができなくなります。
また、前回の種王会議でオウサマはノンのことを参加者に伝えていました。それも含めてガレスがノンたちの話を聞いてくれる可能性がある。そう考えての作戦でした。
そして、なにより――ガレスを含めた獣人たちは被害者です。殺されるかもしれないとしても傷つけたくない。それがノンの気持ちでした。
そんなノンの話を聞いたアレッサたちはその作戦に乗り、手紙を見せるためだけの段取りを手短に話して獣王へと戦いを挑んだ。そのおかげもあってガレスはノンの話を聞くために戦うのを止めてくれました。
しかし、あくまで彼はノンたちの話を聞こうとしてくれただけ。本番はこれからです。もし、ノンたちの話を聞いてもガレスが人間と敵対することを選べば終わりなのですから。
「まずははっきりさせておきたい。お前が『精霊隠し』で家に帰られなくなった子供か?」
「っ……はい、そうです」
「……確かに自分で家に帰られるように鍛えてるって言ってたが早すぎるだろ」
ノンが話し始める前にガレスから問いかけられ、素直に頷くと彼は頭を抱えながらため息を吐きました。
「まぁ、いい。話を聞こうじゃないか。だが、まだ俺は人間を許したわけじゃねぇ。そこんところ、わかってんだろうな?」
「もちろんです」
「……とりあえず、その手紙の中身を見せろ」
「わかりました」
疑っているわけではないようですが手紙の中身を見てから話を聞いた方が効率がいい、と判断したのでしょう。手を差し出したガレスにノンが手紙を差し出した――時でした。
「ノン、危ねぇ!!」
「ッ――」
アゼラの絶叫とノンの魔力感知に反応があったのはほぼ同時でした。密林の奥で突如として発生した強大な魔力反応。しかし、その形は船上で感じたそれと少しだけ違いました。
(違う魔法!)
そんな思考を止めるように魔力反応があった方が妖しく輝き、放たれました。その速度はあの強烈な砲撃を遥かに超え、数秒と経たずにノンたちがいる砂浜に到達するでしょう。その軌道上にいるのは――ガレスでした。
「――――」
きっと、魔法が届く前に動けるのはノンだけでしょう。アゼラの絶叫でアレッサたちも密林の方へ視線を向けていますが初動は遅れており、動き出すのに一秒ほどかかります。しかし、その一秒の遅れが致命的でした。
それに比べ、ノンは魔力感知のおかげでアゼラよりも正確に今の状況を把握しています。
「ガレスさん!」
だから、彼が当たり前のようにガレスへと手を伸ばし、肉体強化した腕力でその巨大な体を押したのは必然だったのかもしれません。
「ッ!? ノ――」
押されたガレスが目を見開いたのを最後にノンは凄まじい衝撃を受け、目の前が真っ暗になりました。
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