第381話 ミア
大槌の遠心力を使った移動法。ノンとグレイクにダメ出しを受けた後、アゼラはどうやって活用させるか、ずっと考えていました。
そして、普段使いをするのを止めたのです。どれだけ空中を上下左右に移動できたとしても大きな隙があるのは間違いなく、その技を使ったからと言って相手の不意を突くことしかできません。
しかし、あくまでそれは普段から使用するのを控える、という話であり、使わないとは言っていない。空中戦が発生した場合、相手に飛行能力がなかったらこの技はとても有効的な一手になるのは間違いありませんでした。
そう、それこそ、今の場面のように。
「ッ!?」
「しっかり、守れよな!」
一気に高度を上げた彼は驚いているガレスに向かって大槌を一気に振り下ろしました。アゼラの奇妙な動きに不意を突かれたガレスですが、さすがは獣王。咄嗟に体を仰け反らせて強引に落ちてくる大槌の軌道上に右腕を置きます。
「ぐっ!」
大槌による一撃は子供にしては重く、戦士ならあまりに軽いものでした。それでも空中にいる彼を地面に向かって叩き落すには十分であり、ガレスは凄まじい勢いで背中から砂浜に叩きつけられます。
「く、そっ」
大槌は右腕で防いだ。それなりの高さから落とされましたが下は柔らかい砂浜だったため、大したダメージにはなっていません。ですが、砂浜に倒れている現状、アレッサやグレイクの攻撃が飛んでくるのは間違いなく、ガレスは慌てて立ち上がろうと――。
「ミア!」
――した瞬間、近くに落ちていた大きな球が解け、中から垂れた耳が特徴的な犬族の女の子が飛び出しました。その顔は少しだけ青ざめており、今にも吐きそうな様子です。
「ま、――」
まさか、と言いかけたガレスは己の過ちに気づきました。無数な大きな球。あの中の一つにミアが入っており、一度だけ砂浜に落とした後、動かさずにいたのでしょう。ですが、上空から一気に地面に落ちるという経験をした彼女はその衝撃で全身を揺らされ、気分が悪くなってしまったのです。
しかし、そんな無茶をしたからこそ、この状況を作り出せたのです。無防備なガレスの前に彼女を飛び出させる、というこの状況を。
「定数は3!」
「大きな――【スモッグ】!」
アレッサのアドバイスを得たミアは目を閉じます。そして、何度も練習した魔力放出を使い、魔法陣を形成。そのまま両手で握った小さな杖を前に突き出し、闇魔法を行使しました。
「なっ」
ミアを中心に展開された煙幕にガレスは言葉を失ってしまいます。
獣人は基本、魔法を使えません。使えたとしても一部の特殊な種族だけ。それが彼らの常識でした。たまに通常よりも魔力を多く持って生まれる獣人もいますがそれでも簡単な魔法しか使えず、それを行使するのに何年もの間、練習する必要があります。
ですが、目の前の少女は確かに闇魔法を行使し、成功させた。たとえ、単純な煙幕だったとしてもそれは獣王であり、獣人の事情を知りつくしている彼にとってそれは驚くに値する偉業だったのです。
「ちっ」
しかし、驚くのは倒れた状態で周囲を漂う煙幕に舌打ちをしました。ノンが巻き上げた砂とは違い、魔法の煙幕はその場にしばらく残ります。ここは入り江なため、多少、風は吹き込みますがそれでも完全に煙幕が晴れるまで数十秒かかるでしょう。
なにより、こんな絶好なチャンスを相手が見逃すわけがありません。
「ッ――」
そんなガレスの予想が正しかったと証明するように彼が跳び上がるように立ち上がった直後、一つの人影が煙幕を突き破ってきました。
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