第380話 アゼラ
「なんだ、これ」
宙に浮かぶ無数の大きな球。それらは全て包帯を圧縮させたものであり、その全てが包帯で繋がっていました。見慣れない光景にガレスは大きく口を開けて唖然とします。
「ッ――」
そんな彼に向かって大きな球の一つが突然、落ちてきました。その勢いは自然落下とは思えないほどの速度であり、我に返ったガレスは慌ててその場から離れます。それをきっかけに宙に浮いていた球が次から次へと落ちてきました。
「くっ」
まるで流星群のように降ってくる球に奥歯を噛み締めながら彼はその巨体からは考えられないほどの身軽さで回避し続けます。しかし、球は砂浜に落ちた後、繋がっている包帯に引っ張られて再び空へと上がっていきました。そう、回避するだけではこの状況は一向に変わりません。
「……」
球を避けながらガレスはジッと空を観察します。突然、現れた大きな球。ですが、それらが包帯でできていることから小さな男の子が仕掛けたものなのは間違いないでしょう。
更に砂浜を飛び回る彼へ的確に球を落としていることから彼がいる場所は自ずと推測できます。この状況で的確にガレスの居場所を把握するには上空から眺めるのが最も効率がいい。そう考えて眺め続けた空にこれまで一度も動いていない球がありました。
「……ッ! 見つけたぞ!」
ガレスは向かってくる球を避けた瞬間、一気にその球に向かって跳躍。そのあまりの脚力に砂浜は抉れ、ロケットのように高度を上げていきます。
「ッ……≪雷弓≫!」
それを見たグレイクが咄嗟に雷属性が付与された矢を放ちました。バチリ、と閃光を放った後、それは凄まじい速度でガレスの後を追いかけます。
「はっ! そんなの効くかよ!」
「なんだと!?」
しかし、最初から仕掛けてくることを予測していたのか、ガレスは雷を纏った矢を尻尾を振っただけで弾いてしまいました。まさかこうも簡単に対処されると思わず、グレイクは目を見開いて驚愕します。
「これで、終わりだ!」
その隙にガレスが一度も動いていない球へ肉薄し、音速の拳を放ちました。その拳は球に直撃し、ドゴン、という音と共に形を保てなくなったのか、はらりと解けます。
「っ!?」
解けた球の中には――何もありません。それに気づいた彼は自分がまんまと誘い込まれたことを悟ります。
「いい加減に、しろ!!」
そして、それを証明するように聞こえる幼い男の子の咆哮。視線を僅かに下へ移すと球と球を跳び移りながら迫ってくる大槌を持った熊族の少年、アゼラの姿を見つけます。
「だから、どうして――」
どうして、人間の味方をする。そう問いかける前にアゼラはガレスと同じ高度に辿り着きました。空中では獣王であるガレスもすぐには動けません。
ですが、向かってくるのはまだ戦いに慣れていない幼子。球から球へと跳び移る体さばきもどこかぎこちなく、大槌による一撃くらい受け止められる。そう判断した彼は右腕で顔を庇います。
「はっ!」
それを見たアゼラはどこか嬉しそうに笑い、ガレスに肉薄――する直前で大槌を真上に振り上げます。その瞬間、体重の軽い彼は大槌の遠心力に引っ張られて上へと不自然に浮かびました。
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