第379話 影縫い
「こ、のっ!」
舞い散る砂を切り裂くように飛んできた闇色の矢。ガレスがそれを避けられたのはまさに彼の化け物染みた身体能力のおかげでしょう。その矢はガレスの左頬を掠るだけに終わりました。
「【爆炎】!」
しかし、それを視認する前にアレッサが真上に向かって炎を放ちます。それは舞い散る砂を吹き飛ばし、砂浜に立つ全員を頭上から照らしました。
そして、ガレスの左頬を掠った闇色の矢が炎に照らされ、伸びた影に刺さります。
「ッ!?」
その直後、ガレスは何かに縛られるように動けなくなってしまいました。デコピンで大岩を破壊するほどの怪力を持つ彼ですらすぐに振りほどけない拘束。その原因はきっと、砂浜に刺さった闇色の矢のせいでしょう。
「アゼラ、ミア!」
その矢を放った張本人――グレイクは身を潜めていた密林から飛び出しつつ、獣人の子供たちの名前を叫びます。すると、浅瀬から小さな影が二つ、真上に跳躍。そう、水の中で必死に息を殺していたアゼラとミアでした。
大人なら浅瀬に隠れようとしても体が出てしまいますが子供である彼らは可能な限り、姿勢を低くすれば体のほとんどを水の中に隠せます。もちろん、よく観察すれば見つかっていたでしょう。しかし、今のガレスはアレッサと戦っていた上、砂が巻き上がっていたので今まで気づくことができませんでした。
「――――」
不思議な矢の力によって身動きが取れないガレスですが驚きのあまり、目を見開きました。まさか獣人が人間に手を貸すとは思っていなかったのです。
「ぐ、お、おおおお!」
ですが、その硬直も一瞬。彼は持ち前の馬鹿力で強引に体を動かして己の影を矢が刺さっている場所から外しました。すると、動けなかったのが不思議なほどすんなりと拘束が解けます。
「獣人であるお前たちが何故、人間なんかに!」
水中から飛び出したアゼラとミアを見た後、彼はすぐに向かってくるグレイクへと吠えました。子供である彼らは無視してグレイクの相手をした方がいいと判断したのでしょう。
「まずは話を聞け!」
そう言いながらグレイクは三本の矢を作り出して放ちます。しかし、ガレスは避けることすらせず、左腕を乱暴に払って矢を吹き飛ばしました。
「≪風弓≫!」
「おせぇ!」
続けざまに風の属性が宿った緑色の矢でガレスを狙います。ですが、それを放つ前にガレスはすでにグレイクの目の前に立って右腕を引いていました。
「死ねぇ!」
「させるわけねぇよなぁ!」
ガレスの拳が振るわれるのと水の弾ける音が響いたのはほぼ同時。グレイクとガレスの間に割って入ったアレッサが流技で彼の攻撃を後ろへ流したのです。
「ッ――」
水が宙を舞う中、アレッサの背後に立つグレイクは何の躊躇いもなく、風弓を放ちました。
それは弓から離れた瞬間、周囲を巻き込むほどの暴風を巻き起こし、アレッサ、グレイク、ガレスを吹き飛ばします。しかし、ガレスだけは大きい体のおかげで他の二人に比べて吹き飛んだ距離は短く、空中で態勢を立て直して砂浜へと着地しました。
「風なんかで俺を倒せると思ったか!?」
「はなっからてめぇを倒すつもりなんてねぇんだよ!!」
しぶとく抵抗を続けるアレッサたちに苛立ったのか、ガレスは砂浜で片膝を付くアレッサとグレイクに叫びます。そして、それに対してすでに勝ったと言わんばかりに勝ち誇った顔でアレッサが言い返しました。
「は、何言って――」
まだ一撃も入れられていないのに、と彼が眉をひそめた時、ハッとして上を見上げます。
そこには頭上で光る月を、星を、空を覆うように大きな包帯の球が無数に浮いていました。
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