第373話 乱入
「やっと見つけたぞッ!!」
「ッ!?」
ビリビリと大気が震えるほどの声圧。それはただ叫んだだけなのに体重の軽いノンの体がぐらりと揺れるほどでした。何とか空中で態勢を立て直しながらノンは目を見開いて叫んだ獣人へと視線を向けます。
全長2mは超えていそうな巨大な体躯。服の上からでも盛り上がった筋肉。そして、その頭についているトラ柄の丸い耳。そう、彼は虎族の獣人です。
(なんだ、この威圧感!?)
しかし、問題はノンへと向かってくる獣人から放たれる威圧感がこれまでに出会った誰よりも強大だったこと。そう、あの魔族ですら凌駕するほどの気迫にノンはゴクリと生唾を飲み込もうとして――その一瞬ですでにその獣人が彼の懐まで潜り込んでいるのに遅れて気づきました。
「死ねッ!」
包帯で防御することすら間に合わない音速の拳。彼にできたのは獣人たちを保護している包帯を自分の体から引き剥がして全力でノンと繋がっている部分を伸ばすことだけでした。
衝撃を自覚することすらできずに視界がブレ、一瞬だったのか、永遠だったのか。それすらわからないまま、ノンは平たい石で水切りをするように何度も海面を跳ね、やっと勢いが弱まってそのまま海へ体が沈みました。。
「ごぼっ……」
救いだったのは獣人の腕力があまりに強すぎたため、ノンの体は入り江や仲間たちが乗っている旅客船を超え、深いところまで吹き飛ばされたことでしょう。もし、浅い場所に落とされていれば海底に叩きつけられ、大怪我は免れなかったでしょうから。
(な、にが……)
水中で口から漏れる気泡が海面へ向かうのを見ながらノンは必死に状況を把握しようとします。ですが、全身を襲う激痛に思考が遮られ、上手く考えがまとまりません。
それでもチカチカと点滅する視界から情報を得ようと頭を必死に動かしてやっと自分が虎族の獣人に殴られて海まで吹き飛んだことを悟ります。
「ッ!」
そこで息が続かず、顔を歪めた彼は急いで海面へと上がりました。やっと、酸素を肺に送れるようになり、息絶え絶えといった様子で呼吸を繰り返すノン。そして、目の前の光景を見て言葉を失います。
「よくも俺たちの国を荒らしやがったなッ! 覚悟はできてんだろうなああああ!!」
ノンを殴った虎族の獣人が砂浜で生き残った闇ギルド組員を殴っていました。その威力はまさに一撃必殺。殴られた男たちはノンと同じように吹き飛び、地面に叩きつけられて全身がぐちゃぐちゃになっています。ノンも運が悪ければああなっていたでしょう。
「あの、人は……」
どうしてこんなところに、という疑問を放っておき、ノンは精霊の国でオウサマから教えてもらったことを思い出していました。
『ガルモ国は獣王が統治している国だ。ケレスカ大陸にあるから海路が封鎖されている今、あまり関係ないことだとは思うがな……一応、教えておこう。獣王は虎族の男だ。特徴は巨大な体、化け物染みた腕力、獰猛な性格。まさに獣、と呼ぶにふさわしい荒々しい男だ』
そう、オウサマが言っていた獣王の特徴。それはまさに砂浜で暴れている獣人そのもの。つまり、あの男は――。
『――その獣人の名はガレス。接し方には気を付けろ。目を付けられたら話も聞かずに戦いを挑まれるぞ。好戦的な奴だからな』
「全員殺してやるぞ、人間どもッ! 獣人はてめぇらを許さねぇからな!!」
冗談交じりでからかうオウサマの言葉と獣王ガレスの絶叫が重なりました。そう、ノンは、ノンたちはオウサマの言った通り、獣の王に目を付けられてしまったのです。
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