第374話 獣王
獣王。ガルモ国の国王。その戦闘力はまさに化け物。あのオウサマが敵対するな、ではなく、興味すらも持たれるなと忠告するほどの要注意人物。
(まずい……)
波に揺られながらノンは冷や汗を流します。今は砂浜に残っていた闇ギルドの残党たちに矛先は向いていますがこちらにその拳が振るわれるのも時間の問題。その僅かな隙にこの後の動きを決めなければなりません。
とにかく、今は仲間たちと合流するのが先決。ノンは全力で水中を蹴って海上へと飛び出し、跳躍で船へと向かいます。また、殴られた瞬間、包帯を伸ばしたおかげで一緒に吹き飛ばされなかったため、ついでに包帯で保護した獣人たちも獣王に気づかれないように船の方へと引き寄せました。
「ノン!」
「あ、師匠……うっ」
船に着地するとアレッサを筆頭に仲間たちが駆け寄ってきます。無事だと言おうと手を挙げようとしますが獣王に殴られたダメージが予想以上に大きかったようでバランスを崩してその場で片膝を付いてしまいました。
「大丈夫なの!?」
「なんとか……獣人たちも救出できました」
「そんなこと言ってる場合じゃねぇだろ! あんなぶっ飛ばされたんだぞ!」
「あはは……見た目ほど痛くないよ」
そんな精一杯の強がりもアゼラに一蹴され、乾いた笑みを浮かべるしかありません。確かに彼の言ったように派手に吹き飛ばされました。ですが、獣王の拳はあまりに威力が高すぎるあまり、直撃する前にその風圧に体重の軽い体は耐えきれず、後方へと吹っ飛んだのです。
「だが、無傷とはいかなかった、だろ」
「……そう、ですね」
包帯で保護した獣人たちを甲板に寝かせながらグレイクの指摘に素直に頷きます。砲撃の余波を受けた時とは違い、ノンは魔力循環で肉体を強化していたため、防御力も底上げされていました。しかし、包帯で防御できなかったのは事実であり、少し身じろぎするだけ体の節々が軋みます。
「でも、やるしかありません」
「ノン君……」
おそらく、ここで逃げようとしても獣王が追ってくる。ここは立ち向かうしかない。ふらふらと立ち上がるノンを見てミアが不安そうに彼の名前を零しました。
「それで、あいつは何なの? やばい獣人っていうのはわかるけど」
「獣王のガレスです。オウサマから聞いた特徴と一致します」
「……はぁ!? 獣王!?」
予想以上の大物にアレッサは目を見開きます。アゼラとミアも獣王の存在は知っていたようで口をパクパクさせて驚いていました。
「やはりそうか……」
そんな中、グレイクだけは何となく奴の正体に感づいていたようで顔を歪めます。子供のアゼラたちはともかく、グレイクはハーニンド大陸に来る前はケレスカ大陸で冒険者をやっていました。自ずと獣王の噂も耳にしていたのでしょう。
「なんでこんなところに……って、獣人誘拐の犯人を捜してたんでしょうね。それでやっと見つけた。偶然、私たちが助けにきた夜に、ね。本当に偶然ならだけど」
面倒臭そうに砂浜で暴れているガレスを睨みつけながらアレッサは呟きます。わざわざノンたちがケレスカ大陸に辿り着いた日にガレスもこの入り江を見つけた。偶然にしてはあまりにタイミングが良すぎます。しかし、そのことについて話そうにも砂浜にいる残党は残り僅か。話し合える時間はあまりありません。
「私、あんまり獣王に詳しくないけどどうなの? 勝てる?」
「無理ですね」
「無理だな」
アレッサも同じ考えだったのでしょう。そんな疑問を口にしますがノンとグレイクはほぼ同時に答えます。相手はこの国一番の猛者。そんな相手に金級冒険者二人と銅級冒険者一人だけで太刀打ちできるわけがありません。もっとも、アゼラたちがもっと戦えたとして、五人で襲いかかっても勝てないのは明白。こればっかりは仕方ありません。
「私たちは獣人を助けにきたって言うのはどうですか?」
「子供のノン相手でも問答無用で殴った。人間が傍にいる時点で話なんか聞かないだろう」
ミアの提案も却下。オウサマも話を聞かないと言っていたのでグレイクの予想は正しいでしょう。しかし、それは普通に話しかけた場合の話。
「……方法が一つだけあります」
ですが、たった一つだけ。ノンにはあの獣王を止める方法がありました。
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