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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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閑話81 脱却(倉本さん視点)

「お互いに1番バッターからっすか。……間違いなく、ここが山場っすね」

「ん。わたしとみっくに日本の未来が懸かってる」


 ウチの呟きにそう返した茜っちの言葉は決して大袈裟なものじゃない。

 WBWは世界の趨勢を左右する大会なのだから。

 この決勝戦の結果如何で間違いなく日本の未来は大きく変わる。

 それがまず大前提としてあり、試合は正にこのイニングが勝負どころと言える。

 その上でイニングの先頭打者は茜っち。その次がウチ。

 山崎選手を煽る意図もあってか、彼については言及していないけれども……。

 3人の内、最低でも誰か1人は出塁しなければ勝利の目はなくなる。

 ウチらに全てが懸かっているというのは純然たる事実だ。


 バンクノート・パークの観客席で声を上げている日本代表応援団も、国内から応援してくれている日本国民も、恐らく似たような認識でいるだろう。

 少なくとも現地の声援は10回の攻防が終わって一層熱を帯びていっている。

 大きな期待を募らせていることがよく分かる。

 ウチらが希望を懸けるに相応しくない対象だとは誰1人として考えていない。


 その一方でかつてはウチ自身すら、世界で最も重要なこの試合の大一番に当事者として立つことになるなんて想像だにできなかった。

 もし秀治郎君の存在を知る前のウチに今のウチがその事実を教えたとしても、毛の先程も信じることはないのは当然として。

 当時の自分が置かれていた状況とは余りにかけ離れ過ぎていて、何の慰めにもならない下らない妄想だと逆上していたに違いない。

 事実は小説より奇なり。

 人生何が起こるか分からないものだ。


 そんなことを改めて思いながら。

 1番バッターと2番バッターとして茜っちと一緒にグラウンドに出る。

 そしてベンチから少し離れたところで――。


「……もしわたしが出塁できなかったら、みっくに全部託す」


 茜っちはウチにだけ聞こえるような小さな声で、それとは対照的な強く真剣な瞳をこちらに向けながらそう言った。

 彼女の愛する秀治郎君の前だったら絶対に口にしたりしないだろう言葉だ。

 友達として、チームメイトとして、確かにウチを信頼してくれている。

 その事実を明確に感じ取ることができるような声色と内容だった。


 小学校からの幼馴染である茜っちとみなみんにウチが加わり、村山マダーレッドサフフラワーズ3人娘などと呼ばれるようになって久しい。

 ただ、竹馬の友である2人とは対照的にウチは高校1年生からのつき合いだ。

 茜っちは秀治郎君と同じタイミングで高校を中退したから、実際に学校生活を彼女と共に過ごすことのできた時間は尚のこと短い。

 それでも濃密な日々だったし、プロ野球選手として同じチームで頑張ってきた。

 ゴーイングマイウェイな性格のあの茜っちが信頼を向けてくれているという事実は、ウチが真剣に野球に向き合ってきた証明とも言えるだろう。

 そのことが今は何よりも誇らしい。


「茜っち。ウチに任せて欲しいっす」

「ん。みっくを信じる」


 ウチの言葉に短く応じてからバッターボックスに向かう茜っち。

 その背中を見送りながらネクストバッターズサークルに入る。


 WBW決勝トーナメント決勝戦。その開催地であるバンクノート・パーク。

 そこでアメリカ代表と接戦を演じて突入した延長戦。

 10回の攻防を潜り抜けて今は11回の表に入ろうというところ。

 重ね重ね、凄まじい舞台に立っていると我ながら思う。

 小学校や中学校の頃にウチのことを下手クソだとか才能がないだとか罵ってきた奴らに、ウチの活躍を見てどう感じているか聞いて回りたいぐらいだ。

 まあ、恥ずかしげもなく「倉本未来はいつかやる奴だと思っていた」なんてインタビューで答えていた鉄面皮もいたから、望んだ反応があるとは限らないけれど。


 それはともかくとして。

 ウチを馬鹿にしてきた奴らを野球で見返してやりたい。

 決してポジティブとは言えない負の感情こそがウチの原動力だった。

 秀治郎君達幼馴染組よりも遥かに遅いスタートだったにもかかわらず、どうにか同じステージにまで追いつくことができたのは間違いなくその気持ちのおかげだ。

 いつだって、あの頃のことを思えば踏ん張れた。

 どんな練習だって全く苦じゃなかった。

 そう考えると、当時抱いた苦しさも悔しさも無意味ではなかったと今では思う。

 勿論、ウチが活躍した途端に手の平を返すような連中を許す気はないけども。

 だからと言って、直接仕返しをしに行ったりする気もない。

 そんなのは無駄な労力以外の何ものでもない。

 むしろ今となっては……。


「プレイッ!」


 そこで球審が高らかにコールし、11回表の日本代表の攻撃が始まった。

 ウチが口にした通り、日本代表もアメリカ代表も11回は1番からとなる。

 互いに好打順。

 ここで点を取ることができないと、圧倒的に不利な状況に追い込まれるが……。

 マウンドには変わらずアメリカ代表の絶対的守護神のモー選手が上がっている。

 つまり他ならぬ彼を打ち崩さなければならない。

 ウチらのバットによって。


「ストライクワンッ!!」


 とは言え、そう簡単にうまく行く訳もなく、茜っちが初球を見送る。

 彼女の表情が苦虫を噛み潰したように歪む。

 アウトコース低めのチェンジアップかと思いきや、アウトコース高めいっぱいに唸るようなジャイロボールが来た。

 茜っちは対応できなかった。

 モー・サンドマン選手の異常性はここでも遺憾なく発揮されていた。


 ウチには何となくボールの軌道が読める特技があって、だからこそナックルを捕ることができるキャッチャーとして秀治郎君に見出された。

 元々はみなみんのため。けど、おかげでここまで這い上がることができた。

 更にこの特技はバッティングにも応用することができ、レギュラーシーズンでは秀治郎君を差し置いて最多安打のタイトルを獲得するに至った。

 まあ、それは敬遠が少なかったから、というのも影響しているけれども。


 それはともかくとして、モー選手の球はどうにも軌道が読みにくかった。

 何故か投球動作の中で予測が変わってしまうのだ。

 自負していた特技が、まるで偶然か幻だったかのように錯覚してしまう。

 さすがにリリースしてから魔法のように軌道が変わることはなかったけど……。


 秀治郎君によると、モー選手はモーションの途中でサインを無視してコースを変えたり、握りすら変えたりしているらしい。

 そんな馬鹿なと思ったけれど、確かにそれなら予測のズレも説明できる。

 リリースした後には変動がないことも。

 ジェネラル選手の苦労が偲ばれる。


 ――ブォンッ!!

 パァンッ!!


 茜っちは2球目を空振り。

 これでノーボール2ストライク。

 僅か2球で追い込まれてしまった。


 やはり、予測が固定されてから慌ててスイングを合わせようとしても遅過ぎる。

 秀治郎君や正樹選手のようにスイングを始動するタイミングはそのままに、バッティングフォームを途中で無理矢理調整して対応する以外にないだろう。

 正に言うは易しだけど、モー選手の球は球速、球質共に世界最高レベルだ。

 最強のクローザー相手にそんな離れ業を成し遂げるには、それこそ無我の境地のような領域に入る必要があるに違いない。

 それは茜っちやウチには極めて困難な要求だ。


「ボールッ!」


 変動の範囲が茜っちの読みとうまく噛み合ったらしくコンタクトできそうだったところを、モー選手が直前で回避して1ボール2ストライク。

 あんな風に緊急回避されたらバッターとしては堪ったものじゃない。

 勘の鋭い茜っちでも翻弄されている。

 もう一段以上、集中を高めないと確実性のあるバッティングはできないだろう。


 ただ。

 秀治郎君のことばかり考えている茜っちにそれは困難どころか不可能だと思う。

 彼女にとって野球は手段でしかない。

 秀治郎君と共に生きるために最も効率的な道具。

 勿論、野球という競技が数多あるスポーツの中で最も好きなのは間違いないだろうけど、そもそものモチベーションの置きどころが他の選手とは全く違う。

 幼馴染組の中でも一際異質だ。

 秀治郎君も以前は大分特異だったけど、それともまたベクトルが違う。

 黒井選手が言う野球を楽しむ、野球に没頭する境地に至るのは難しい。


 まあ、そんな秀治郎君第一な彼女がパートナーだったからこそ、あの7回裏のピンチに彼を立ち直らせることができたのかもしれないけれども。

 正直、試合への貢献という意味ではそれで十分過ぎる程だ。

 初回にはウチの前で長打を放ってチャンスを作ってもいるし。

 ただ、ここで何もできずに負けたらケチがつきかねない。

 茜っちが打てなかったら、約束通りウチが打たなければ。

 そんな思考を抱いたせいではないだろうけど――。


 ――ブォンッ!

 パァンッ!!


 4球目。高めのスライダーにバットが空を切って空振り三振。

 出塁できず1アウトとなってしまった。


 申し訳なさそうにウチを見る茜っちを見詰め返して「任せろ」と頷く。

 バッターボックスに向かう。

 集中力を高める。


 ウチもまた、野球に没頭するのは難しい。

 何故ならモチベーションに他人の影響が余りにも色濃いからだ。

 見返す。

 誰がどう考えても雑念以外の何ものでもない。

 それに囚われている限り、本当の意味で野球に夢中になることはできない。


 けど、もういい。

 これまでずっと見返すために野球をやってきた。

 その気持ちが前に進む原動力だった。

 WBW決勝戦まで進ませてくれた。

 十分だ。

 感謝と共に捨て去ろう。

 捨て去れる。

 そんなものよりも仲間の信頼に応えたい気持ちの方が熱く、尊いから。


 そもそも、あの負の原動力はウチの原点じゃない。

 どうしてそんな気持ちを抱いたのかと言えば、野球に焦がれていたから。

 野球が好きで、上手になりたかったから。

 だから否定されて、悲しくて、苦しくて、辛かった。

 なのに、未だにそれに引きずられていては勿体ない。

 目の前には世界最高のクローザーがいる。

 そんな彼とこの大舞台で勝負できる選手は一体何人いるのか。

 自分の全てをぶつけないなんて野球の神様に失礼だ。


 意識が研ぎ澄まされる。

 初球。モー選手が投球動作に入る。

 その瞬間、いくつかの選択肢が全く同時に見えた。

 カットボール。スライダー。ジャイロボール。落ちるジャイロボール。

 コースは千差万別。

 対してリリースの瞬間まで分岐せず、全てに対応できるスイングを探す。

 総当たりで解析するプログラムのように可能性を見渡す。

 どんな球が来ても8割方対応できる道が見えた。

 そこで敢えて逆を選ぶ。

 正にその瞬間、モー選手は8割のルートに切り替える。

 同時にこちらもフォームを修正する。


 投球動作中に握りを変えるなんて無茶苦茶な真似をする以上、如何なる変化球にも自由に切り替えることができる訳じゃない。

 無制限ではなく、制限がある。

 1度変えてしまったら不可逆なパターンも存在する。

 今回は8割のルートに乗ったら2割のルートに戻すことができなかった。

 ボールがリリースされる。

 これで軌道が確定した。


 ――カンッ!!


 守備の合間を突く打球を狙った。

 予測と寸分違わぬ軌道が描かれる。コンマ1mmもズレていない。

 ここまで綺麗に一致したのは人生で初めてのことで……。

 それは痺れるような悦楽で、何ものにも代えがたい幸福だった。

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― 新着の感想 ―
みっくが暗い原動力捨て去る場面がとてもよきでした
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