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第3次パワフル転生野球大戦ACE  作者: 青空顎門
最終章 転生野球大戦編

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366 醍醐味

 9回の裏。6番のオリオール選手を三振に切って取って3者凡退。

 スコアは3-3の同点のまま3アウトチェンジとなった。

 つまるところWBW決勝トーナメント決勝戦日本代表対アメリカ代表は9回の攻防を終えて尚、決着がつくことはなく……。

 試合は延長戦に突入。10回表の日本代表の攻撃が始まろうとしていた。


 こちらの打順は6番。9回裏1アウトからマウンドに上がった正樹から。

 改めて確認しておきたいことがあったが、ベンチに戻った彼は呼びかけも届かないぐらい集中力を研ぎ澄ませていてすぐにバッターボックスに向かってしまった。

 同点になって正樹に登板する目が出た9回表も丁度ネクストバッターズサークルに入るところだったし、投球練習前も落ち着いて会話することができなかった。

 こればかりはタイミング的に仕方がないことだ。

 まあ、バッティングに関することではないから今は後回しでもいい。

 余計の話をして打席に立つ彼の気を逸らすべきではないだろう。


「プレイッ!!」


 球審のコールを受けて相手ピッチャーが投球に入る。

 アメリカ代表のマウンドには変わらずモー・サンドマン選手が立っている。

 8回に登板してから回を跨いで合計3イニング目。

 正樹で7人目だが、ここまで俺のホームランを除いて全て三振で来ている。

 球数は現在26球。

 彼のキャリアにおいて、これ程までに長く投げるのは極めて稀なことだ。

 基本は勝ちパターン。それも最終回1イニングのみの登板だし、球数が嵩むぐらい打たれてしまったり、粘られたりするようなことはまずないからだ。


 だからと言って、球質が悪化するとも言われている回跨ぎ3イニング目に突入したこの状況が彼に与える影響は存在しない。

 そう断言してしまってもいい。

 ルール上の投球制限もまだまだ遠いし、ステータス的にも何ら問題はない。

 球筋に慣れたからどうにかなるような初見殺しタイプでもない。

 彼から点を奪うにはとにかく力で、技術で、真っ向から上回る以外にない。


 ―—ブォンッ!!

 パァンッ!!


 1球目は落ちるジャイロボール。

 正樹は初球から振りに行ったものの、バットは空を切った。

 高めへのジャイロボールから切り替わった結果だった。

 シングルヒットが空振りに捻じ曲げられてノーボール1ストライク。

 そうとは知らない正樹は深く息を吐き出してから構え直す。

 いずれにしても、通常の超集中状態を超えた集中を見せているのは間違いない。

 そんな正樹に対してモー選手が2球目を投じる。


「ボールッ!!」


 ストライクゾーンから僅かに外れるスライダー。

 フォーシームを長打にされると見たモー選手が投球動作の中で咄嗟に握りを変えて、それでも尚シングルヒットになるところを更にコースを変えて回避した形だ。

 対する正樹はバットが僅かに出かかったが、見送ってボール。

 1ボール1ストライク。

 互いに凄まじい集中力だ。と同時に――。


「……何だか、楽しそう」


 あーちゃんが電光掲示板に映し出されたリプレイを見てポツリと呟く。


「ああ。そうだな」


 モー選手のみならず、正樹の口元には笑みが浮かんでいる。

 相手を威嚇するような、強大な敵に挑みかかるような壮絶な表情だ。

 ハイレベルな戦いの只中にあり、それを心の底から堪能していることが分かる。


 世界最高の舞台たるWBW決勝戦の9回裏。尚且つ、同点という白熱したシチュエーションに登板して2つの三振を奪った。

 完璧な投球で試合は延長戦に突入し、気持ちが極限まで高まった直後の打席だ。

 ここで燃えないような人間は、以前の俺のような歪な存在でもない限り日本代表に選ばれる程の野球選手になることはできないだろう。

 幼い頃、木偶の坊と呼ばれながらも野球を諦めなかった正樹ならば尚更のこと。

 彼は今正に野球そのものに没頭できているに違いない。

 どことなく本気のバンビーノ選手と似たような気配すら感じる。


「――何だか、さっきホームランを打った時の秀治郎君みたいね」


 一方で隣にいた美海ちゃんがそんなことを言い出して、少し戸惑ってしまう。

 俺がバンビーノ選手に似ていると感じた正樹を見て、彼女は俺をイメージした。

 世界最高の選手と同一視されたように感じてしまってむず痒くなる。


「そ、そうかな」

「そうよ。何だか充実してるような、そんな感じがあったわ」


 正樹を指して俺に似ていると評した美海ちゃんにはちょっと同意したくない感じがあったあーちゃんも、それに関しては肯定の意を【以心伝心】で伝えてくる。

 そういう意味であれば、確かに爪の先程はバンビーノ選手に近づくことができたと思ってもいいのかもしれない。


「あの打席、楽しかった?」

「……試合中、それも延長戦の真っ只中に言うことじゃないけど、楽しかったな」

「正直、羨ましいわ。世界最強のチームとこんな好試合を演じられるなんて。できることなら私もどこかで出場したかった」


 羨ましい、か。

 美海ちゃんも本物のスポーツ選手なんだな。

 そう思う。


 実際、あの打席の充実感はかつてないものだった。

 人生で初めての達成感があった。

 野球は、スポーツはいいものだと周りに触れ回りたいぐらいだった。

 そして自分自身、この喜びを何度でも味わいたい。

 そう考えている部分が確かに自分の中にも生まれていた。


 全力を尽くし、その成果を得る。仲間と共有する。

 スポーツの醍醐味というものを本当の意味で理解できたような気がする。

 そして、そのためであれば。

 限界を窮めたトレーニングにも、怪我のリスクにも、過酷なリハビリにだって立ち向かっていくことができるのかもしれない。


 いや、これはスポーツに限ったことじゃないか。

 人生のあらゆる厳しさや辛さは、乗り越えた達成感のためにこそ耐えられる。

 逆に言えば、それを伴わないものは苦痛しか残らない。

 前世の俺が取るに足らない人間だったのは、その喜びを知らなかった、知ることができなかったからでもあったのだろう。

 しかし、今の俺はそれを知ることができた。


「みなみーには次回がある」

「そうね。しっかり怪我を直して、またこの舞台に立ってみせるわ」

「ああ。美海ちゃんならできるさ」


 心の底からそう思うと共に、少しだけ考えが変わった自覚を抱く。

 スポーツの中での怪我。

 その捉え方が変化した気がする。


 勿論、怪我は忌避すべきものだ。

 しないに越したことはない。

 そこは決して変わらないし、当たり前のことだ。

 けれども、あの達成感を求めて懸命であろうとする選手に対し、過度に怪我のリスクを恐れて加減をしろというのは外野のエゴに過ぎなかったのかもしれない。

 少なくとも俺の怪我に対する忌避はそれだった。

 身内が心配するのとは明らかに違う。

 ただ、傍から見ていて俺自身が辛かったから、嫌だったから厭っただけだ。


「そう言えば、正樹君に何を言おうとしてたんすか?」

「ああ……いや、大したことじゃないよ」


 倉本さんの問いに曖昧に笑いながら誤魔化す。


 本来、勝利の可能性がある状況では彼女が正樹とバッテリーを組む予定だった。

【比翼連理】なしの俺との比較であれば、その方が勝率が高いと判断したからだ。

 ただ、170km/hの高速ナックルは捕る方の負担も大きい。

【軌道解析】は捕球能力そのものを向上させてはくれない。

【直感】のように咄嗟にダメージを回避することはできない。

 最悪、指を抉られて怪我をしてしまう恐れがある。

 俺としては本心では避けたい苦肉の策ではあった。

【比翼連理】を得て【直感】のタイムスケールが長くなったことで俺でもナックルの制御が不可能ではなくなったため、無用のリスクを避けることができたが……。


 正樹の方の負荷は依然として残ったままだ。

 今はまだ高速ナックルだけだが、よりリスクの大きい球もある。

 それでも彼には100%で投げろと思わず口にしてしまった。


 直前にホームランで同点に追いついたことと、最後に本気のバンビーノ選手を三振に切って取ったことに高揚してしまった。

 そのことに加えて、ある種の売り言葉に買い言葉でつい口走ってしまったと思ったからこそ、無茶だけはしないように念押しをしておきたかったのだが……。

 既にあの時、無意識に心のありようが変わっていたのかもしれない。

 自覚した今となっては、それこそ余計なことを言おうとしていたと思う。

 2度大怪我をして手術までした正樹に対してそれは、釈迦に説法に他ならない。


 怪我に囚われて萎縮するのではなく、自分にできる全てを出し切る。

 今はそれだけを考えて、目の前のプレイに無我夢中になれればいい。

 怪我をするかしないかは結果論だ。

 勝敗もまた、懸命に戦った果てに自然と定まるものでしかない。


 ――カッ!

「ファウルッ!!」


 ストライクとボールの後。2ボール2ストライクからの5球目。

 バットが掠ってファウル。

 再びヒットの可能性を覆されてのものだった。

 こうした【直感】の予見の変遷は、正樹が世界最高のクローザー相手に互角以上の勝負を繰り広げていることを明確に示してくれている。

 しかし、山崎選手と同様に結果が出なければ凡打という成績が残るのみだ。

 ヒットを打ってこそ敵に勝ったと証明することができる。

 もとい打つこと以外には客観的に証明する術はない。


「頑張れ、正樹」


 自然と口に出た応援を合図とするように6球目のピッチングが始まる。

 モー選手の投球動作の間に目には見えない攻防が繰り返される。

 2度や3度のことではない。

 目まぐるしく結果が変わっていく。

 その中でホームラン性の当たりも確かにあったものの、リリースの瞬間に空振りの三振へと変化してしまう。


「あ」


 あーちゃんもそれに気づいたようだったが……。

 次の瞬間、更に【直感】の予見が変わった。


 ――カキンッ!!


 低めに落ちるジャイロボールを前にして、スイングそのものはそのままに咄嗟に膝を突くようにしてバットの芯で捉えた。

 角度は上がらなかったが、鋭い打球は右中間真っ二つ。

 正樹は全力疾走で2塁ベースを陥れる。

 アウトを覆しての2ベースヒット。

 ノーアウトで得点圏にランナーを置く形となった。

 正樹の完全勝利と言っても過言ではないが――。


「嬉しそうだけど、ちょっと悔しそうね」

「兄さんは負けず嫌いだからね」


 苦笑するように美海ちゃんの昇二が言う。

 モー選手から2本目のヒットだが、1本目は俺のホームラン。

 それに少し引っかかっているのだろう。

 真剣勝負の成果を喜び切れないのは可哀想な気もするが、まあ、正樹の場合はこの対抗心こそが原点でもある。

 アメリカ代表にも、怪我にも屈しない彼の生き様を近く見てきたからこそ、少しばかり俺の怪我に対する認識も変わった側面もあるだろう。

 彼との出会いもまた、俺がここに至るのに不可欠なものだった。

 俺はそう改めて思ったのだった。

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